遊戯王 振り子使いの少年と連鎖使いの少女   作:DICHI

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なんか最近、色々と上手くいかなくてちょっと・・・・・
就活も上手くいかなくて、マイナス思考が続いて・・・なんか疲れてきました。

気分転換でこの小説の番外編の構想を考えて作っている時が一番脳味噌が休めるんですよ。


第57話 休息

桜  side

 

 

1月1日・・・・・

新しい年の門出、多くの人は祝い、そして祝福をあげる。それはもちろん、テレビもそうだ。毎年、正月三ヶ日は特番が続く。そんなはずだが、今年は様子が違った。

 

『新年明けましておめでとうございます。さて、新年最初のニュースです。先月10日にネオドミノシティの繁華街で血溜まりが見つかり、SECRETのメンバー、遠藤遊輝さんの誘拐された事件。セキュリティは遠藤遊輝さんを発見して、救出。遠藤さんを誘拐したとして、主犯のアムール代表取締役社長、ゼロ容疑者と実行犯のドゥ容疑者を逮捕しました』

 

『またゼロ容疑者が代表取締役を務めるアムールはセキュリティへのハッキング、カードの偽装と余罪があり、他にも出てくるのではないかと言われています』

 

『一方、救出された遠藤さんは両足を複雑骨折の重症で、現在はネオドミノシティの病院で治療しているとのことです』

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「お兄ちゃん・・・・」

 

「・・・・目覚める気配がないわね」

 

あの乗り込みの日、あの島に乗り込んだセキュリティは主犯の人とその仲間連中を捕まえた。牛尾さんが乗っていたヘリコプターには救急用のドクターヘリも兼ねていた。気絶したお兄ちゃんを担架に乗せてすぐにセキュリティ直属の病院に緊急入院、緊急手術をした。手術は終わったが、足の状態は良くならず、そしてお兄ちゃんも目が覚めない。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・軽音部のみんなは?」

 

「マスコミに囲まれているって、何とか抜け出してこっちに来るようにはしているからもうすぐじゃない?」

 

ガラガラ

 

「二人とも、大丈夫か?」

 

「遊輝さんの状態は?」

 

「牛尾さん、狭霧さん」

 

「全然、今も眠ったままです」

 

病室の扉が開いて、牛尾さんと狭霧さんが入ってくる。お兄ちゃんの様子を見て無事なことを見たのか安心する。

 

「・・・・・・・・・」

 

「医者の話だと命に別状は無いみたいだ。実際に見て安心したよ。ただ、相当疲れている様子だとよ」

 

「全く・・・・寝不足どころか栄養も足りていませんよ。囚われたところは紛いなりにも製薬会社だったでしょ?」

 

「食べているはずなんですけど・・・・」

 

「・・・・お兄ちゃん、警戒していたから」

 

「なるほど・・・勝手に毒が入っているとか思ったのですかね。流石にそんなことしないでしょ」

 

 ガラガラ!!!

 

「遊輝!!」

 

「大丈夫!?」

 

再び病室の扉が開き、軽音部、祈と恭輔が走って入ってくる

 

「おいお前ら!!!病院で騒ぐな!!」

 

「うぐっ!?す、すみません・・・・・」

 

「遊輝!!ねぇ遊輝!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「心配しなくても寝ているだけです。相当疲れていたみたいですから」

 

「ホッ・・・・」

 

「良かった・・・・」

 

「とりあえず遊輝のことは医者に聞くとして・・・・アリア、お前に聞きたいことがある」

 

「・・・・何?」

 

「首謀者のゼロの事だ。あいつの怪我、あれは何だ?いくら何でも傷が深すぎる」

 

「傷が深い?どういう事ですか牛尾さん?」

 

「・・・・・顔が変形するくらいに腫れている。それだけじゃない、全身が痣や切り傷、内臓も一部破裂したり、全身の骨が砕けている様子もある。明らかに異常だ」

 

牛尾さんがお姉ちゃんに問い詰めるように聞く。お姉ちゃんは牛尾さんを見た後、お兄ちゃんを見て、ため息をついた。

 

「・・・・・全部、遊輝ちゃんがやったわ」

 

「遊輝が?」

 

「えぇ・・・・あんな遊輝ちゃん見たことがないわ。ブチギレどころの騒ぎじゃないわ」

 

「どういう事?」

 

「・・・・あの目は人殺しの目だった。感情なんて無くて、本当に殺人兵器みたく・・・・・・シークレットシグナーの実体化能力も使って」

 

「実体化能力を使って!?それ本当に言ってるの!?あれはサイコデュリエスト以上に危険だから使用は禁止しているはずよ!!!!ここにいる皆にも通達しているはずだわ!!」

 

実体化能力という言葉を聞いて狭霧さんは驚いた表情でお姉ちゃんに詰め寄る。だけど、お姉ちゃんは首を横に振って、分からないという表情をしている。

 

「えぇ・・・・遊輝ちゃんだってそんな事分かっているはずよ。だけど、使った。それくらい憎かったのよ」

 

「実体化能力って・・・・・あの時か」

 

「レミ?あの時って?」

 

「遊輝はね、一回だけ実体化能力を使ってデュエルしたことがあるのよ」

 

「なにっ!?」

 

「と言ってもあの時と今回とで状況は違うわ。あの時も相手をボコボコにしたけどそんな大怪我を負うような状態にはしてないわ」

 

レミさんから衝撃的なカミングアウト。お兄ちゃんは一度だけ実体化能力を使ったと言ってきた。それを聞いた私たちは驚いた。

 

「・・・・・禁忌の力を使ってでも殺したかった相手か・・・・よっぽど桜のことを大切にしたかったんだろうな」

 

「だが、どんな理由であれ、人殺しをしたら俺たちは遊輝を捕まえなくちゃいけなかった」

 

「その点では遊輝さんを止めてくれた桜さんとアリアさんには御礼したいわね」

 

 ガラガラ

 

「失礼いたします」

 

三度病室の扉が開き、白衣を着た医者が入ってきた。この医者はお兄ちゃんが私を連れて駆け込んできた時に見てくれた人で、セキュリティ直轄の病院の中でも名医の人だ。私たちを見た二人はそのままお兄ちゃんの様子も見る。医者はお兄ちゃんの上半身の服を脱いで聴診器を当てる。

 

「すみません、心拍数の検査をさせてもらいます」

 

医者の人は聴診器を外してお兄ちゃんの上半身の服を閉じ、ボタンを閉める。

 

「・・・・正常ですね。まあこれが一番なんですが、後は本人が目を覚ませば大丈夫でしょう。さて、遊輝さんの親戚者さんは?」

 

「・・・・・私」

 

「戸籍上違うけど、一応私も遊輝ちゃんの身内だわ」

 

「今から私の診断結果を言います。覚悟して聞いてください」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

医者は私とお姉ちゃんの方を見て、診断結果を告げようとする。その言葉の重みがさっきまでとは違う。

 

「はっきり申し上げますと・・・・・彼の両足はもう使い物にならないでしょう」

 

「!?」

 

「どうして!?遊輝ちゃんは歩けていたわよ!!!」

 

「それにあいつならシークレットシグナーの能力で!!」

 

「お前ら落ち着け!!!」

 

お兄ちゃんの足は使い物にならない。その言葉を聞いて、軽音部や恭輔は大声をあげて反論しようする。しかし、牛尾さんがそれ以上に声を張り上げて、皆が一斉に沈黙する。

 

「う、牛尾くん・・・・・」

 

「ちゃんと医者の話を聞け・・・・・理由もない診断を下すほど、この医者は腐っちゃいねぇよ」

 

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 

「すみません・・・・続けてください」

 

「遊輝さんはハムストリングと大髄四頭筋の破裂、神経類の損傷、それに骨の損傷とかなりの重症で、あの出血です。むしろ、出血多量で死んでいない方がおかしいくらいです」

 

「で、でもお兄ちゃん・・・・・自分で回復して」

 

「確かに、遊輝さんのあの回復力は我々医者からも目が見張ります。普通に考えたらそれで治るかもしれませんでした」

 

「・・・・・どういうこと?」

 

「完全に回復し切れていない状況で無茶をしたからです。はっきり言ってあの状態で歩くなんて死ぬ行為同然です。普通なら直ぐに転けてしまいます」

 

「・・・・・・・・・」

 

「なのにジャンプしたり走ったりして・・・・・中途半端に回復して足を動かした。結果、足の負担は怪我した時よりも酷くなり、治りにくい状況になってしまいました。それとシークレットシグナーの力で回復したこと、これも不味かったです」

 

「おいどういうことだ?なぜ回復をしたことがいけなかったのだ?」

 

「正確には異常なまでに回復スピードを早めたことです。普通、回復というのは細胞の修復から始まります。皮膚の怪我が代表例ですね。おそらく、シークレットシグナーの回復もほぼ同じところから始まるのでしょう。その場合、細胞が活性化されるのです。異常なスピードで」

 

「・・・・・・・・」

 

「今までも遊輝さんは銃で撃ち抜かれたりした時もありましたが、あの時はキチンとした、いや、限界ギリギリの速さで回復していたのでしょう。それを本人が意識してやったのかどうか分からないですが」

 

そう言って医者は眠っているお兄ちゃんを見る。お兄ちゃん・・・・前にも銃に撃たれたんだ。

 

「今までは正常なスピード・・・・・まあ問題ない速さで細胞を回復させていたので良かったのです。しかし、今回はその回復するスピードが速すぎました。それが良くなかったのです」

 

「何で何だ?回復するスピードが早くなる事はいいことだろ?」

 

「細胞の異常なまでのスピードでの活性化・・・それは細胞の異常増殖へと繋がります。これを繰り返すと・・・・癌の発症に繋がるのです」

 

「が、癌!?遊輝ちゃん、癌に!?」

 

「落ち着いてください!!!あくまで発症なだけで、遊輝さん自身の身体に癌の兆候は今のところありません!!!」

 

お姉ちゃんが椅子から飛び上がり、医者に問い詰める。医者はお姉ちゃんに落ち着くように促し、お兄ちゃんが癌になっていないことを伝える。

 

「・・・・す、すみません」

 

「いえ、私も言葉足らずでした。もちろん、今のままでは癌にはなりませんし、普通に生活をしていたら少なくとも50年から60年はこの事が原因で癌になることはないでしょう。遊輝さんが目覚めてからもう一度精密検査をしないといけないでしょうが、恐らく、今の状態では癌は見つからないでしょう。しかし、これだけの怪我ですからどこかで問題は起きてもおかしくないですが」

 

確かに・・・あれだけの怪我を負って、中途半端に動き回り、敵の攻撃も受けているとなると身体のどこかで怪我をしてもおかしくはなさそう・・・・・

 

「・・・・・医者の観点から言えば、普通の人はこれだけの重傷を負えばもう両脚は言う事聞かないはずです。寧ろ、生きているだけで奇跡なのです。筋肉も神経も撃ち抜かれ、大量出血をしているのですから、ショック死もあり得たでしょう。それを遊輝さんは自身の力で無理矢理回復させにいった。時間が無かったのかもしれません、だから焦ってしまい、普段よりもスピードを速めたのでしょう。そこでキチンと完治していれば良かったのですが、完治せずに色々としたせいでこうなってしまった、という事です」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「・・・ねぇ、お兄ちゃんの足、普通に治るの?」

 

「・・・・・先ほども申しましたが、彼の足はもう使い物になりません。外見上の治療はできますし、治すことも可能です。ですが、中の筋肉と神経の損傷が酷すぎまし、それどころか、今こうして足の細胞を回復させていること自体、遊輝さんの身体によろしくありません。足の細胞の活性化の異常値が実際に出ていますから、いつ癌が発症してもおかしくはないです」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「もしこのまま放置していますと、下手したら全身に癌が転移する可能性もあります。ですので・・・・私からは両脚の切断をオススメします」

 

「せ、せつ・・・・だん?」

 

「う、嘘でしょ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

医者から言われた・・・・・お兄ちゃんの両脚はもう使えない、そして癌のリスクを抑えるために両脚を切断しないといけない。

 

「ほ、ほかに・・・・他に治療法はないのですか?」

 

「残念ながら今の医療では・・・・・遊輝さんが今後、長く生きるためには「必要ねぇよ・・・」!?」

 

「!?遊輝!?」

 

「遊輝!!!」

 

医者が話している途中、お兄ちゃんの声が聴こえた。慌ててベットのほうに振り向くと、お兄ちゃんが目を覚まして上半身を起こしていた。その様子を見て、皆がお兄ちゃんのところに飛び込む。

 

「ったく・・・・・気持ちよく寝ていたのに、随分騒がしいじゃないか」

 

「遊輝・・・・・・」

 

「良かった・・・・本当によかった・・・・・・」

 

「勝手に殺すな・・・・俺はまだまだやり残した事があるんだから。それと・・・・・医者の方、名前は?」

 

「・・・・渡辺です」

 

「渡辺さん・・・・俺の答えは切断の必要ないです。両足は見た目も中身も問題なく完治させます」

 

「なっ!?」

 

「全部話聞いてましたよ。シークレットシグナーの能力も、完治せずに無茶し過ぎたことも、それと癌のリスクも」

 

お兄ちゃんはハッキリとした口調で医者に必要ないと伝える。お兄ちゃんの言葉を聞いた医者はすごく驚いた表情をする。

 

「あ、あなた、話を聞いていたのですか!?」

 

「何度も言わせるな・・・頭がガンガンする・・・・」

 

「は、話を聞いているなら尚更です!!もちろん、両脚切断を断るのは患者の意見として尊重します!!問題はそこじゃないです!!完治を目指すって、このまま回復したら癌になりますよ!!あなたは癌になりたいのですか!?」

 

「んなもん簡単な話だよ・・・・最初に異常に活性化した細胞を休ませる。異常に低すぎる数値まで」

 

「!?」

 

「そこから少しずつ数値を上げる。もちろん、適正値で、そこからゆっくりと足を治療すれば良い。最初は外見から、そこからゆっくりと骨と筋肉、神経系全てをシークレットシグナーの能力で。時間がかかるが、これなら癌の発症リスクは下がるだろ?」

 

「た、確かに理論上はそうですが・・・・実際にそんな事を試した事もないですよ!?それに細胞の活性化を下げるってことはそれだけ免疫力が低下して、他の病気になるリスクを抱えてしまいますよ!?」

 

「そのリスクを下げるのが医者の仕事だろ・・・・集中治療室でも入れてくれよ。そこならまず間違いなく治療ができる」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・私からも、お願いします」

 

「桜?」

 

「お兄ちゃんの意見と同じです。お兄ちゃんの両脚を切らないでください。そして、完治させてください」

 

「わ、私からもお願いします!!」

 

私もお兄ちゃんの両脚が切断されるところは見たくもない。お兄ちゃんが治せるっていうなら私はお兄ちゃんを信じて待つ。医者の方に頭を下げて、私の要望を聞いてもらう。お姉ちゃんも私に続き、頭を下げた。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「渡辺さん、こいつはそこら辺の普通の人間じゃないんです。今までだってこいつは重傷を自分の力を信じて治してきたんです。俺からもお願いします」

 

「・・・・・分かりました。ただし、6ヶ月です。遊輝さんの足の細胞の活性化、免疫の低下諸々を含めて6ヶ月が限度です。6ヶ月を過ぎても改善の見込みがない、または細胞の異常な活性化が見られた場合は治療を中断します。医者の倫理的価値観として、患者を病気にさせるわけにはいきません」

 

「・・・・・・その場合は未練をスパッと切る。足を切断する」

 

「!?遊輝!!!」

 

「良いんだレミ。俺だって死にたくないし、こんな歳で癌になんかなりたくねぇよ」

 

「・・・・・お兄ちゃん」

 

医者との話が終わったタイミングで私はお兄ちゃんに近づき声をかける。お兄ちゃんは右手をゆっくりと動かして私の頭を撫でる。

 

「桜・・・・あの時は助かったよ」

 

「えっ?」

 

「あの時、桜が俺に言葉をかけてくれなかったら俺は完全に人間辞めてた・・・・・桜が言葉をかけて、止めてくれたから俺はこうしてここにいる事が出来る。ありがとうな・・・・」

 

「!!お、お兄ちゃん・・・・・」

 

「おいおいおい・・・・泣きそうな顔をするよ。全部終わったんだろ?これで全部終わったんだからさ、また笑い合う日を作ろうぜ」

 

「・・・・グスッ・・・ウウ・・・・お、お兄ちゃん・・・・・・」

 

「今から準備をします。集中治療室に入っている間は基本的に点滴で栄養を取ってもらいます。細胞の異常な低下は免疫力をなくすと言う事になりますので、出来る限り外部のものは入れないようにします。その間は面会謝絶とさせていただきます」

 

「分かった・・・・」

 

「事件の処理は俺たちに任せてくれ。お前には負担をかけないようにしておく。それと、軽音部の方にもマスコミは回さないように手配しておく」

 

「遊輝、無理しなくていいからね。今年は皆が私のために1年休もうって言ってくれているし、完全に回復してからまた皆でバンド、しよう」

 

「牛尾さん、レミ・・・・・ありがとうな。ここん所忙しかったから暫く休むよ・・・・」

 

「さて、次に桜さんのことです」

 

「?桜のこと?」

 

医者の方がお兄ちゃんの方のカルテからもう一つの方のカルテを取り出した。急に私の名前を呼ばれてまた医者の方を見る。

 

「脳内チップの件です。もう一度、レントゲンを確認したら確かに脳内にチップを埋め込まれていました。サイズで言えば一辺2mm程度の極小サイズです」

 

「そ、そんなに小さいの!?」

 

「えぇ、我々も驚きました。脳内チップは聞いたことはありますが、ここまで小さく出来るとは・・・・・」

 

脳内チップの話をあいつから聞いたけど、そんな小さいチップなら最初のレントゲン検査で検知されないわけない。

 

「そ、それで、その脳内チップがどうしたのですか?」

 

「そこからは俺たちだな。セキュリティの技術班と暗号解析班で分析して桜の脳内チップを解析した」

 

「その結果、桜さんの記憶喪失は脳内チップが電気信号が遮断していることが分かりました。つまり、このチップのスイッチを元に戻すと、桜さんの記憶が蘇ります」

 

「そうなの!?」

 

「さ、桜さん、良かったですね。記憶が戻りますよ」

 

「ただ・・・・」

 

脳内チップを正常に戻せば記憶が戻ると言って、皆喜んでくれたがすぐに狭霧さんが苦悶な表情を浮かべる。

 

「ただ?何だ?」

 

「残念な事にこのスイッチを元に戻した時、桜自身に何が起こるのかは分からないわ」

 

「えっ?記憶が戻るだけじゃないの?」

 

「私たちもそう判断はしていますが、脳内チップの情報量が多くて、桜さんの脳が果たして処理できるのか・・・・・下手したらこれが原因でまた記憶喪失を起こしてしまう可能性もなくは無いのです」

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

「と、取り除くことは?」

 

「無理ですね。チップが小さすぎる上に、何年も経ってしまっていますので脳の神経系と深く絡んでいます。下手に触ってしまうと障害が残ってしまいます。触らずに放置しても日常生活には問題ないですので、このままにしておくのが得策でしょう」

 

医者からは脳内チップを取り除かれないと言われた。けど、私自身、チップを埋められている感覚もないし、今の生活に不満があるわけじゃない。それに・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「桜、どうする?」

 

「・・・・・別に何も、変わらない。記憶を戻す必要もない。私は今の生活が楽しい、あんな奴と一緒に生活をしていた記憶はいらない」

 

「・・・・・そうか」

 

私の言葉聞いたお兄ちゃんはフッと笑みを浮かべてベッドに身を預けた。どうやらお兄ちゃんも同じ意見の感じだ。

 

「桜、俺も無理矢理記憶を呼び起こす必要はないと思う。紛いなりにも1年間、兄としてやってきたつもりだ。最初はあんな形で義理の妹になったけど、今じゃ大切な家族だ」

 

「・・・・・ありがとう」

 

「ただ・・・・」

 

「ただ?」

 

「・・・・いや、いいよ。今言うべきことじゃないや。アリア、桜のこと、頼んだ」

 

「分かったわ。ちゃんと身体治しなさいよ」

 

「もちろんだ・・・・・」

 

お兄ちゃんは布団を深く被り、ゆっくりと眠りだした。

 

「ほら、患者も寝たことだし、今日は引き上げよう」

 

「あなたたちもこれから忙しくなるでしょ。私たちも付き合ってあげるから頑張りなさい」

 

「はい・・・・」

 

「はぁ〜、なんで言えばいいかな〜」

 

「リーダーは大変だね〜」

 

「皆気楽で良いわね。私の休みはどこに行ったのよ・・・・」

 

牛尾さんと狭霧さんに押され、私たちはお兄ちゃんの病室から出る。軽音部の皆はこれから、お兄ちゃんの怪我の状態とそれに伴う活動休止を宣言しないと行けないらしい。表面上はお兄ちゃんの怪我を治すため、実際はレミさんの休暇のため。

 

「・・・・・終わったわね」

 

「ん、またああやってわいわいする日が来る」

 

「俺たちはまだまだ仕事が終わらないけどな。素直にあいつが喋ってくれたら良いんだが」

 

「まずは怪我を治してもらいましょう。その上で色々と話してもらいましょう」

 

「そうですね・・・・・一時はあいつが世界中の敵になるんじゃないかとソワソワしていたが、無事に帰ってきてよかった」

 

「ん・・・・・」

 

そうだ、もうこれで私の取り巻く環境は全て終わった。これからはお兄ちゃんと軽音部、皆と楽しい日常を過ごして生きたら良い。




アリア「ようやく落ち着くことができるわね・・・」

桜「ん、やっと普通の生活に戻れる」

アリア「遊輝ちゃんも満身創痍とはいえ、無事で良かったよ」

桜「これからはのんびりしていく」

アリア「だと良いけどねぇ・・・・遊輝ちゃん、トラブルメーカーだから」

桜「・・・・確かに」

アリア「次回、『日常への一歩』。次回もよろしく」
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