2章のストーリーはある程度浮かんでますがそれに繋がる布石をここら辺でやらないといけないので
遊輝 side
「少し足を動かしますよ」
「はい」
先生が俺の右足を持って非常にゆっくりと上げていく。まだ感覚は何も感じない。
「どうですか?」
「感覚はないですね」
「ではゆっくり戻します。次は左足をあげますね」
上げられた右足がゆっくりと下されて次は左足が上げれられる。
あの絶望的な怪我から2週間近く、俺の足の細胞は正常値まで回復して医者から次の段階に進んでも良いという許可を得た。つまりリハビリ段階まで回復ができた。
「次は刺激が強いですよ。少し脚と太もものツボを押しますよ」
医者が俺の右足の太もも部分を強く押す。その瞬間、右足に激しい痛みが走る。思わぬ痛みに顔を顰めてしまう。
「ぐっ・・・・うっ・・・・・」
「ここはどうですか?」
「っつぅ・・・感覚は、あります」
「痛みが大きいですね。まだ歩く練習は先の方がよろしいでしょう」
「ハァ・・・ハァ・・・・」
「軽いマッサージをしておきましょう。今日のリハビリはこれで終わりです」
「あ、ありがとうございます」
ベッドの上で仰向けで寝転がっている俺の足をリハビリの先生がゆっくりとツボの刺激があるように押す。痛みが激しく感じるところと何も感じないところ、この2つしか今の俺には感じない。
「しかし君の体は本当に凄いね。あの怪我で足切断の状態からここまで回復するとは」
「回復力が俺の強みですから。とは言っても今回は本気で危なかったです・・・・正直、足の切断も致し方ないと思ってました」
「非常に悪いけど、あの状態生きているだけ奇跡だから足の犠牲は仕方ないと思ったよ」
「とは言え・・・・・回復するのには時間がかかりそうですね」
「下手したら1年をかけての治療だね。最も、君の精神力次第だが」
1年か・・・・・悪いけどそんなには待ってられない。少しでも早く回復して元気に走り回りたい。ライブの事もあるし、桜の面倒を見なくちゃならん。
「はい、お疲れ様。今日はこれまで」
「ありがとうございましす」
「絶対に無茶しないでよ。能力の使用も禁じられているんだからこっそり使わないでよ」
「・・・・・膳所します」
医者に釘を刺されてしまった・・・・俺の考えってそんなに読まれやすいのかな?医者から看護師に変わり、ベッドの上から車椅子に移動、そのまま看護師に車椅子を押してもらって病室へ向かう。
「遊輝さん、お手洗いは大丈夫ですか?」
「大丈夫です・・・・あっ、ちょっと売店寄ってもらいますか?飲み物を買いに行きたいです」
「分かりました」
看護師さんにお願いしてリハビリ室からほど近い売店に向かってもらう。中に入ってお茶のペットボトルと数点のお菓子を買ってレジでお金を払う。そのまま売店を出て、エレベーターに乗り、病室へ着く。
「それではベッドに移りますよ〜。1・2・3」
看護師さんの首に両手を回して、ベッドに乗せてもらう。動けない足がベッドに乗せらせて布団が乗せられる。
「それじゃ、何かあったらナースコール押してね」
車椅子が畳まれて看護師さんは病室から出る。俺はベッドから起き上がり、棚の中に入れているデッキケースを取り出す。
「暇だな・・・・」
『良い事じゃないですか。危険な橋を渡ってきたのですからしばらく休んでください』
「分かってるんだけどさ・・・・ここ3年近くずっと忙しかったから、慣れなくて」
デッキケースからカードを1枚取り出し、そのカードに向かって話しかける。俺の隣に精霊状態のダイヤが現れて、話し相手になってくれた。
『その3年間の内容が濃すぎる気がします。たまには立ち止まってゆっくりするのも良いでしょう』
「・・・・レミにずっと言っていた言葉だったけど、俺もそういうのが染みついちゃったのか」
『だと思います。まともに休んだ日なんてあまり無いですよね』
「まぁ・・・・年に片手で数えられるくらい」
『この機会です。一度立ち止まって色々と考えてみたらどうですか?』
「う〜ん・・・・・考えると頭に歌詞の事しか出てこないんだよな」
ウィ〜ン
「は〜い遊輝ちゃん。久しぶりね」
病室の扉が開く。アリアが果物を持って部屋に入ってきた。
「アリアか。お前、仕事は?」
「今日の分は片付けたわよ。すみれさんとかは忙しいけど私は服を作るのが仕事だからね。この時期はむしろ暇な方よ」
「そうか。そう言えば春にファッションショーとか言ってたな」
「遊輝ちゃんが参加できなくて残念ってすみれさんが言っていたわ」
「・・・・・・行かなくて良かったよ」
「・・・・・・あれからもうすぐ3年か」
「ん?」
「私たちが初めて出会って、もうすぐでしょ」
「・・・・あぁ、そうか。もうそんな経つのか」
アリアが窓を眺めながらまだ蕾の桜の木を見つめる。
「初めて会った時はこんな事になるなんて思いもしなかったわ。私は運命に背負った道しか未来はないと本気で思っていた」
「あんな事あったんだ。誰だってそう思う、俺がお前と同じ立場だったら俺もお前と同じ運命を辿っていたかもな」
「あんな敵同士だったのに、冷たい私の心を温めてくれたのは遊輝ちゃんただ一人だけだったから」
「・・・・・・・・・」
出会った当初のアリアは今でも覚えている。美しい女性だとは感じた。だけど、冷たい表情をしてまさに氷の女王みたいな感じだった。
「今思い出せばあの時は何やっても楽しくなかったわ。思い通りに動いたけど、心が躍ることは全く無かったわ。遊輝ちゃんの日常を見た時、羨ましいと思った」
「・・・・・・・・・」
「だから無理矢理でも遊輝ちゃんの気を引こうとしたわ。私の心を暖めてくれる唯一の人だったから」
「・・・・・その割にはやり方が強引だったな」
「でも遊輝ちゃんはついてきてくれた。私は本当にそれが嬉しかったわ。今回の事件はね、私は借りを一つ返したと思っているよ。遊輝ちゃんを見つけ出して、遊輝ちゃんが間違った道に歩まなかった事に、私は全力を尽くしたから」
「・・・・・そうだな。今回は本当にお前と桜に救われた。後一歩で俺は間違いなく殺していた」
あの時、本当に心は無になって頭の中にはあのクソ社長を殺すことしか考えていなかった。自分の娘をあんな状況にまで追い込んだのに、人のことを道具としか考えていなかったアイツのことが物凄く憎かった。
「気持ちは分かるけどね・・・・あんな状況で怒らない方がおかしいわ。だけどね、憎しみや妬みで殺すのはやっぱりダメよ。それはもう人じゃない、ただの木偶の坊に成り下がる。私が言える義理じゃないけど」
「・・・・そうだな」
「あぁ、思い出した。桜ちゃんの情報、見つかったって狭霧さんが言っていたわ。会社の家宅捜索で」
「そうか・・・・・」
「それを元に桜ちゃんの戸籍を改めて正式に作り直すって言っていたわ。今度は出身地も誕生日もしっかりと載せられるわ」
「それは良かった。俺たちみたいな存在はいないほうが良いからな」
アリアとの会話を終えて俺はまた窓の方を見る。去年から桜の木を見る機会が多くなった気がする。
「また桜の咲く季節ね。もうすぐ1年か」
「そうだな。俺もさっき同じことを考えた。本当に1年が早く感じる」
「私も時の流れを早く感じるわ。歳をとると早く感じるってこういう時嫌になるわ」
「全くだな」
「で、どう?足の調子は?」
「全然、痛いか痛くないかのどっちかしか感覚がない」
「あの状態から感覚が戻っただけマシでしょ」
「それはそうだな」
「とりあえず大人しく療養してくれてほしいわ。今年は何もなければ良いけど、トラブルメーカーの遊輝ちゃんは何か起こすからね」
「おいこら、どう言うことだ」
「・・・・・・・良からぬ噂が流れているのよ」
「なにっ?」
アリアが急に真剣な顔をして俺にそう言ってきた。俺は何かしらの異変を感じた。
「昨日ね、イェーガー長官から電話があったのよ」
「イェーガーが?」
「えぇ、軽音部のみんなにも伝えていたって言っていたわ。もうすぐ2回目のWRGPの開催が発表されるって」
「・・・・そうか、来年で3年目か」
アリアの言葉を聞いて俺は天井を見つめる。第1回WRGP・・・・・あのアーククレイドル事件から1年半が経った。来年で2回目の開催か。
「イェーガー長官からは参加するかって言う話だったけど、全員断ったって言ったわ。遊輝ちゃんの怪我の状態もあるし、全員、これからは音楽活動に舵を取りたいって」
「・・・・まぁそうだな」
「でもね、これはイェーガー長官も考えていた事らしいわ。問題はここからよ」
「・・・・・・・」
「ある程度察しは付いていると思うけど、世間に発表する前に大きな企業向けにWRGP開催の趣旨は伝えているみたい、スポンサーを募るためにね」
「それは普通だが、そこのどこが良からぬ噂だ」
「・・・・どうもね、遊輝ちゃんをスカウトしたいチームや企業が沢山いるみたいなの」
「・・・・・・・」
「第1回大会優勝チームのSECRET、準優勝チームの5D'sは大会不参加・・・・そうなると何が起こるかと、争奪戦が起こるのよ。だけど準優勝チームの5D'sは表面上、争奪戦が起こらないはずよ」
「・・・・そうだな。ジャックはライト・リーグのプロデュエリスト、クロウもプロチームだし、遊星さんは市直轄の研究者、上にイェーガー長官がいるからチーム参加は絶対に無理だろうな」
「そうなると目をつけられるのは優勝チームのメンバー、その中でもリーダーとしてチームを引っ張り優勝に導き、さらにエクシーズ、ペンデュラム、リンクの先駆者である遊輝ちゃんは何処のチームも喉から手が出るくらい欲しいのよ」
「・・・・・・・・・」
「正直、戦力として見ているチームもいるでしょう。世間の公表は足の怪我としか言っていないから半年もすれば復帰できると思っている輩がほとんど、たとえ選手として参加できなくてもヘッドコーチとして参戦すればチームの戦略アップ、上手くいけば海馬コーポレーションとの繋がりで新カードの入手も容易でしょうね」
「・・・・・・・・・・」
「イェーガー長官もそこが悩みの種だと言っていたわ。いくら市長とは言え一個人に介入することは難しいって」
「それくらいなら俺が全部断れば良いだろ」
「それくらいなら、ね・・・・・この前の事件、あの社長が余計な置き土産を置いて行ったらしいわ」
「何だ?」
「・・・・遊輝ちゃんの個人情報、接待会社に流したって取り調べで言っているらしいわ、あの社長」
「・・・・チッ」
「・・・・・・一番ヤバい転生者の情報だけは漏れなかったみたい。だけどシークレットシグナーや遊星さんたちのシグナーの情報は渡ったみたいよ。おかげでイェーガー長官も何をしてくるか分からないって」
「・・・・・・・・」
「とりあえずセキュリティがガードを固めてくれるみたい。だけど裏で何されるかまでは追いつけないって言っていたわ」
「・・・・なるほどな、そりゃ厄介ごとになりそうだな。大人の利権もかなり汚いから、裏でどれだけお金が動くやら」
アリアの話を聞き終えた俺はゴロンとベッドの上に転がった。正直、こんな目にあったのであんまり関わりたくない話だけど、絶対に何かしら動きがあるだろうな。
「開催発表は3月1日、スポンサーの支援自体は8割型終わって、チームの選抜も始まっているとのこと、数日したら遊輝ちゃんにも挨拶回りが始まるでしょうね」
「全く・・・・入院中何だから静かにしてくれよな」
「本当、その通りね。さっきも言ったけど、セキュリティ、特に牛尾さんと狭霧さんが追い返すようにしてくれるけど、やっぱりある程度の面会はしないと行けなくなるみたい。よっぽどのことがなければ面会謝絶出来ない」
「嫌になるぜ・・・・」
「・・・・入院中は可能な限り私や他の人たちも一緒にいるわ。退院した後も、でも私たちも必ず遊輝ちゃんを守れるわけじゃないわ」
「無茶しなくていいぞ。下手なことして捕まるのだけがもう勘弁だからな」
「・・・・・・・少しは私たちを頼ってもいいんだよ。遊輝ちゃんって冷静そうに見えてなんだかんだ一人で突っ走って抱え込んでしまうタイプ何だから」
「痛いところつかれるな・・・・昔からそうだったからな、もう・・・・治らん」
「そっちを治してもらった方が良さそうじゃ無い」
「出来るんならやってるさ。俺はな・・・皆と一緒に笑っていたい、今はそれだけさ」
「・・・・・・・・」
ガラガラ〜
「遊輝!!!お願い!!!宿題教えて!!」
「おい馬鹿!病院の中で騒ぐな!!」
「響!」
病室の扉が開いて響が大声で叫ぶ。慌てて俺と、同じく病室に入った奏が響を注意する。
「お願い!この宿題出来なかったら明日補習だよ!」
「知るか!自分でやれ!第一それ冬休みの宿題じゃねぇか!」
「響がサボったからよ。とりあえず落ち着きなさい」
「・・・・・遊輝ちゃんの周りはいつも賑やかね」
「・・・あぁ、この日常が続いたらいいんだ」
響と奏の言い争いを見て俺はアリアにそう答えた。
遊輝「騒がしかった・・・」
アリア「結局補習だって」
遊輝「宿題サボるからだろ。ってかあいつ、何してたんだよ冬休みの後半、暇だっただろ?」
アリア「遊びまくってたんじゃ無いの?」
遊輝「割とありえるな・・・・」
アリア「って言うわけで次回、『天体観測』。次回もよろしく」