桜 side
「天体観測〜?こんな寒い時期に?」
「そうよ。追加でお金払った人達を対象にした校外学習みたいな物なんだけど」
レミから渡されたプリントを見る俺、その横で桜がそわそわしていた。
今日も足の治療及びリハビリを終えて病室に戻ったところにレミと桜の2人がいて、桜が俺にプリントを渡してきた。内容は1泊2日の天体観測ツアーで近くの山に登り、そこから流星群を見ようと言うことだ。親同伴で50組100名の限定らしい。
「ふ〜ん・・・・で、桜はこれに行きたいと?」
「(コクコク)」
「それは構わないし行ってきても良いんだが、親って誰が行くんだよ?」
「・・・・・お兄ちゃん」
「俺!?まさかの俺!?アリアじゃねぇの!?」
「どうしても遊輝と行きたいって」
「いやいやいや!!!俺、義理の兄であって親じゃないぞ!?しかもまだ入院中だし!!」
「入院のアレくらい一時退院手続き取れば良いでしょ。それと親の問題は大丈夫だよ、あんたが親じゃない」
「いやいやいやいや!?!?簡単にいうなよ!?」
「校長に言ったらOK出たよ」
「こ、校長・・・・・」
「私たち、校長に頭上がらないからね」
レミから校長という言葉を聞いて俺は頭を抱えた。あの人、融通効きすぎる。なんで車椅子で入院中の義理の兄を親扱いにするんだよ。
「桜ちゃん、ちょっとジュースを買ってきてくれる?お釣りは桜ちゃんに上げるから」
「分かった」
レミは桜に1000円札一枚を渡す。桜はレミからお金を取り、病室から出ていく。
「まぁ良いんじゃない?気分転換になるでしょ。ここ最近嫌な日々を送ってきたんでしょ?逃げ出して泡吹かせたら良いじゃない」
「・・・・・・・・そうもそうか」
レミが机の上に置いている一枚の紙を手に取りそれを読む。一枚だけじゃない。机の上に散らかるようにある大量の紙と横のタンスには袋包のものがたくさん。これ全部、プロRDデュエルチームか大手企業の契約書だ。
「物好きね〜、みんな断るって分かっているのにどうしてもあんたをスカウトしたいわけでしょ?」
「ああ・・・・脚が動かないって言ってるし、医者からもライディングデュエルは支障が出るって説明しているのにスカウトしてくる。『選手がダメでもヘッドコーチで入ってくれ』って言い出す始末だし」
はぁ〜とため息をついて俺は机の書類を纏めだす。先週、アリアから聞いてきた通り、月曜日から色んなプロチームや大企業が俺の所にお見舞いと言う名のスカウト巡業が始まった。こっちには牛尾さんがボディガードで、俺の担当医である渡辺さんが主治医として参加してくれた。
渡辺さんの見解は『足の完治は見込まれますが、そこからリハビリの期間を入れてWRGPには間に合いません。そして、脚は完治しても非常に脆くなり、長時間マニュアルモードでやるライディングデュエルは医者として絶対に認められない。事故なんて起こしたら今度こそ命に関わる』とのこと。これに関してはどうやら真面目なようで、本来ならDホイールの運転も辞めるべきだと言われた。
だが、向こうはそうは行かない。世間的にはただの足の怪我の入院としか言っていない。せいぜい骨折だと思われていたのにそんな大怪我なんて知る由もない。
「足の怪我は嘘だでっち上げだと言う始末だよ。まぁこれくらいは少し予想できた。問題はそこからだよ・・・・・シークレットシグナーや海馬コーポレーションの繋がりを出してくる輩もやってくる」
「・・・・・・・・」
「予想していたけど、しつこかった。牛尾さんが居なかったら脅しでサインさせられそうになるし」
「・・・・・あんたも大変そうね」
「・・・何かあったのか?」
パイプ椅子に座ったレミが今度は大きなため息をつく。顔に顎を当てて沈んだ顔をしている。
「どうした?」
「色んなところから楽曲提供やソロデビューの声が上がっているのよ」
「何?」
「と言ってもほとんど私や奏だけ、それも明らかに金稼ぎしか考えてない奴らばかり。私たちがバンド活動を休止してすぐに来たってお父さんから話されたわ。奏はソロデビュー、私は楽曲提供からバックバンド、バックバンドはスバルや響にもきたね」
「・・・・バンド活動はレビューしてまだ1年目だぞ。確かにアマチュアの活動は長かったけど、そんな事を声に出すか?」
「何度も言うけどあいつらは私たちを金蔓としか見ていない。私たちが休んだ理由も分かろうとしない奴らばかりよ。まっ、全部断ってやって頭を撃ち抜いてやったわ」
「・・・・・・物騒な事を言うなよ」
「お待たせ」
桜が缶ジュースを買って戻ってきた。病室の横にあるタンスの上に缶ジュースを3本を置く。桜はその中から1本を手に取って缶タブを開ける。
「それで、天体観測行くの?」
「まぁ・・・医者の許可が降りたらってところだな。流石に一人で判断できん」
「ん、分かった。これ申し込み書類」
桜からもう一枚別の紙を渡される。俺はそれをざっくりと見てお金や止まる施設、予定表を確認する。
次の日、主治医から一時的な外出許可を取り、桜と一緒に天体観測をすることが決まった。
〜〜(数日後)〜〜
「うぅ・・・・山はやっぱ冷え込むな」
「お兄ちゃん、温かいお茶」
「ありがとう」
天体観測当日、俺はすみれさんに車を乗せてもらい、アカデミアまで直行、そこで待ち合わせた桜と他の生徒達と一緒に目的地の山までバスで移動した。既に晩ご飯を食べ終えて、流星群が来るのを待っている。他のみんなはロフトから山頂に向かって歩いて行ったが、車椅子の俺はそれが難しいため、付き添いの先生と桜と一緒にロフト近くから流星群を見る。
「・・・・おっ、始まったようだな」
現在時刻深夜0時、予測通り流星群が始まった。大きな光を発した星が一つ流れ星のように流れ、そこから少しずつ星が増えてくる。
「・・・・綺麗」
「あぁ、俺も実際に見たのは初めてだ」
夜空に流れる流星群、こうやって見るのは初めてだが本当に綺麗だ。一度、プラネタリウムや動画で見たが、生で見ると迫力と美しさが断然に違う。
「それにしても何でまた流星群なんか見に行きたいって言ったんだ?」
「・・・・・・・・・・・」
「桜?」
俺の後ろで車椅子を操作してくれた桜に声を変えるが返事がしない。右に振り向くと既に桜は地面に座って星空を眺めていた。
「(桜も集中するんだな〜・・・・)」
「・・・・・お兄ちゃん」
「何だ?」
「・・・・色々ありがとう。私のことを見てくれて」
星空をずっと見上げ突然そんなことを言い出す桜。俺はポカンとしてしまう。
「・・・・何言い出すんだお前?」
「お兄ちゃんが居てくれたから私・・・今があるって」
「・・・・・・・」
「正直、この1年はすごく濃かった。前の人生の記憶が無くなったせいかもしれない。だけど、私はこの1年で色んなことを学べた」
「・・・・・・・・」
「私には感情なんて無かった。1年を通して喜怒哀楽を学んだ。楽しかったことも悲しかったことも色々とあった。だけど、そばにはいつもお兄ちゃん達がいてくれた」
「・・・まぁ、最初はそれが義務だったからな」
「そのおかげで私は感情を知った。泣くことの大切さも笑うことの大切さも知った。今の人生の方がずっと楽しい。私の記憶は戻っていないけど、このままでいいと思っている」
「・・・・・・・」
「だけど、いずれ向き合わなくてはいけない時もあると思う。今は私の過去のことは知ろうとは思わない。だけど、いつかは・・・・・」
「・・・そうだな」
「・・・お兄ちゃんは?」
「ん?」
「お兄ちゃんの過去は?あの時、飛べたことも含めて、お兄ちゃんの過去を私は知らない」
「・・・・・そうだな。あの時、約束したもんな。ここに来いよ。地べたじゃ寒いだろ」
「でもお兄ちゃん、足の上」
「痛くなったら立ち上がってもらう。まだ感覚はないから少しくらい平気だ」
星空を眺めながら桜は今の思いを言ってくれた。そして桜は俺の過去のことを知りたいと言ってきた。あの時、話すと約束して、暴走しかけた俺を止めてくれたんだ。義理の兄として、伝えなくちゃいけない時がした。桜は俺の膝の上に座る。
「・・・・さて、今から話すことはおとぎ話に聴こえるかもしれない。だが、これは俺、そしてアリアも実際に経験したことだ。言いたいことはあるだろうがとりあえず聞いてくれ」
「・・・・分かった」
「まずは・・・・桜、ライトノベルとかで異世界転生物って見たことあるか?」
「・・・・ある」
「簡潔に言ったら俺とアリアはその転生組だ。俺は事故で死んで、アリアは病気で死に、この世界に転生した」
「・・・・・・・」
「俺とアリアは前世での面識は何一つない。だが、何の因果関係か同じ世界に生きていた。とは言え、前の世界での世界人口は70億人、この中でアリア一人を探すのは難しいだろう」
「・・・・・そうだね」
「アリアが転生した話はアリア本人から聞いてくれ。今回は俺の話だ。俺はこの世界に転生して、龍亞と龍可の双子の兄弟に拾われた。夏休みにあったあの双子だ」
「・・・・ん」
「俺は目が覚めたとき、頭が混乱した。全く知らない場所で目が覚めた。だけど、俺はその双子を知っていた」
「・・・・何で?」
「・・・この世界は俺が前の世界にアニメとして存在していた。この世界は俺から言うとアニメの世界で、双子は登場人物だった」
「・・・・・・・」
「どうしようか悩んでいたら、神様の悪戯でな、その時に大量の荷物が来て俺の身分がバレてしまった。だけど、あの二人は俺を受け入れてくれた。二人の親も優しくて俺のことを養子として受け入れてくれたよ」
「・・・・そうなんだ」
「あとはそうだな・・・・色んなことがあった。アニメで見た通りのストーリーもあったら俺の知らないストーリーもな・・・・」
「・・・・・・・」
「だけど、そのアニメのストーリーも去年、全部終わった。みんなそれぞれの目標を見つけてこの街を出た。あの双子もな」
「・・・お兄ちゃんは何で残ったの?好きな人と一緒にいかなかったの?」
「確かに選択肢としてあった。だけど、俺は今バンドグループの一員だ。あいつらの時間とも大切にしたかった。だから龍可には謝った。今は離れ離れになる。だけどいつかは向かいに行くからって」
「・・・・そうなんだ」
「桜と出会ったのはそれから1ヶ月先だな。そこからまた戦いの日々だよ。まさか原作ストーリーが終わった後すぐに戦う運命になるなんてな・・・・悪い桜、降りてくれ。足がプルプルしてきた」
「ん」
両足の感覚が少し戻り、痛みが出てきたので桜には立ち上がってもらう。
「・・・・お兄ちゃんもお姉ちゃんもいろんな経験をしたんだ」
「そうだな。常人では考えられない経験をしてきた。一度死んで、自分たちが知っている世界に転生して、何度も生死をかけた戦いをしてきた。アリアを止めるために戦ったこともあるし、何だったら別世界に飛ばされたこともあった。空を飛べるようになったのもその時の経験だ」
「そう・・・」
「・・・今のこの状況だ。あのクソ野郎が余計なことをしてくれたせいで・・・・もしかしたらまた大変なことに巻き込まれていくかもしれない」
「・・・・ってあげる」
「えっ?」
「その時は私も一緒について行ってあげる。お兄ちゃんは命を掛けて私を救ってくれた。今度は私の番だから」
桜は後ろから俺の肩を掴んでそう言ってきた。俺たちは今も流れ続ける流星群を見て、今後のことを考える。
「・・・・・・大変だぞ。牛尾さん曰く、最悪、世界全部を使った逃走劇だぞ」
「それでも良い。何の変哲もない日常を送るくらいならお兄ちゃんと一緒にどこまでも行ったほうがずっと楽しい」
「・・・・・そうか、分かった。じゃあその時はよろしく頼む」
「ん・・・・・・」
桜の言葉を聞いて、俺たちはまた流星群を見始める。
遊輝「流星群綺麗だったな」
桜「ん、凄い輝いていた」
遊輝「寒いだなんだ言ったけど、行ってみると案外良いもんだな」
桜「そうだね。でも・・・」
遊輝「でも?」
桜「お腹空いた」
遊輝「・・・・台無しだよ」
桜「次回、『退院、始まりへのスタート』。次回もよろしく」