11月忙しかった・・・・真面目にバイトと学校の授業の記憶しかない。
遊輝 side
「お兄ちゃん、行くよ」
「ああ、頼む」
「いってらっしゃい。余計なことに巻き込まれないでよね」
「学校周りは校長が何とかしてくれるよ」
後ろから桜が車椅子を押してくれる。そのまま玄関を出て、エレベーターに乗る。退院して10日、ようやく復学の許可を得ることが出来た。朝ごはんを食べて、30分かけて制服をアリアに手伝いながら着て、鞄を車椅子の背もたれにかけて出発する。
「・・・・・・・・」
「どうしたの?」
「いや・・・・なんか緊張して」
「・・・お兄ちゃんも緊張するんだ」
「そりゃ俺だって緊張するよ。それに・・・・ちょっと怖くてさ」
「怖い?」
「あんな事あっただろ?2ヶ月も休学してて、事故に遭ってみんな俺のことをどう思っているのかなって・・・・・」
正直、不安でしかない。学校をこんなに休んだのは前世でも記憶にない。あんな事件が起きてしまったんだ。何を言われても仕方ないとは思うがそれでも・・・・
「・・・大丈夫、お兄ちゃんはお兄ちゃんだから」
「その根拠のない言葉はどこから出てくるんだよ」
「お兄ちゃんは怪我してもお兄ちゃんで変わりないから」
「・・・・・・・」
俺は俺で変わりない、か・・・・まさか桜からこんなこと言われるとは。
「そうだな・・・・まぁ何とかなるか」
「お〜す遊輝」
「師匠、おはようございます」
エレベーターから降りてロビーを出る。そこにスバルと恭輔がリュックサックを背負って待っていてくれた。
「おはよう。待ってくれたんだな」
「あったりまえだろ」
「僕たち仲間なんですから」
「・・・・サンキューその言葉で助かるぜ」
「早く行こうぜ。何だかんだ時間ねぇし」
「お兄ちゃん、行くよ」
「頼むからあんまりスピード出さないでくれよ」
足が動かないで車椅子に乗って、スピード出すって滅茶苦茶怖いからな・・・・まじで普通に走られたら風圧が凄いんだから。
「そんなビビるほどか?」
「お前坂道を前に走ってみろよ。マジで転がって怪我するぞ」
「そんな事しませんよ普通」
「されたら俺が困る」
そんなたわいもない話をしながら通学路を歩いていく。アカデミアに近づくにつれて徐々に学生服を着た人達が増えてきた。みんなこっちをチラッと見るがすぐに目線を外す。
「・・・・・・めっちゃ視線が」
「嫌でも目立つぞ。車椅子なんか使っているから特に」
「流石に車椅子までは隠せませんしね・・・」
「それよりお兄ちゃん、職員室に行けばいいんだね」
「ああ、先生に挨拶しなくちゃ行けないから」
校長先生には桜を通して何度か話を通したので今回はスルーしても良いと言われ、代わりに担任の先生に一言だけ言っておくようにと言われた。怪我をして以降、アカデミアには通えずじまいなのでやはり授業前に軽く挨拶だけでもと言われた。
とりあえず色んな人から見られはしたが、何もなくアカデミアに着いて職員室の前に着いた。
「じゃあお兄ちゃん、また後で」
「ああ」
ここまでサポートしてくれた桜は自分の教室へと向かう。少し前に出て、扉を3回叩き、職員室の扉を開く。
「失礼します。高等部1年の遠藤です」
「遠藤君、こっちいらっしゃい」
自分の名前を言った後すぐに担任の声が聞こえる。車椅子のブレーキをかけてタイヤを浮かし、職員室の小さな段差を超えて職員室の中に入る。手を振っている担任の小泉先生のところまで向かう。
「お久しぶりです」
「お久しぶりどころではないですよ!あなた毎学期休学しないと気が済まないんですか!?」
「う゛っ!?す、すみません・・・・・」
「でも・・・・無事で良かったです。生きていてくれて良かったです・・・・」
小泉先生は少し涙ぐみ、右手で俺の肩を触り、そのまま抱きしめた。
「先生・・・本当に不安でしたからね。大事な生徒が悲惨な事故で亡くなってしまうのではないかって・・・・」
「・・・・すみません」
「良いんです、貴方が悪いわけではありません。あなたは正しい行いをしようとして襲われたんです。だけど、あなたはもっと自分のことを大切にしてください」
「・・・・はい」
「では、教室に行きましょう。もうすぐホームルームが始まります。皆さんにちゃんと挨拶をしましょう」
「はい」
小泉先生は机の上から出席簿を手に取り、俺が乗っている車椅子のハンドルを手にする。
「それにしてもあなた本当に休学が多いですね。補習をしないと学年が上がれませんよ」
「えぇ・・・せっかく戻ってきたのにその言葉は聞きたくなかった」
「今回はともかく、今までは自業自得です」
「いやいやいや・・・・前までもちゃんと公欠取っていましたし」
そんなたわいもない話をしながら教室の前に着く。そのタイミングでチャイムが鳴る。タイミングが良すぎだろ。
「おはようございます」
『おはようございます』
先生は教室の扉を横に開き、一緒に教室に入る。
「はい、今日から遠藤君が戻ってきました。まだ足は治ってませんので実技と体育は無理ですが、皆さんも普通に接してくださいよ」
『は〜い』
「それじゃ遠藤君、席に着いてください」
「は〜い」
先生に言われて俺は車椅子の横のハンドルを動かす。俺の席は・・・・ゲッ、一番後ろじゃないか。先生、イジメかよ。そんなことを思いつつ、車椅子を動かして席に移動する。隣のスバルがこっちの事を心配そうに見えている。
「はいじゃあ連絡事項を言いますよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お前また怪我したんだな〜。毎年毎年馬鹿みたいに怪我して」
「馬鹿みたいには余計だろ後藤!」
「全く〜、みんなお前のこと心配していたんだからな。本気で死んだと思ったぜ」
「遠藤君が無くなるとは思わないけど」
「俺を人間じゃないみたいに言うなよ京子・・・・」
「だってお前どれだけの怪我でも今までキョトンとしてきたじゃねぇか」
「とりあえず無事でよかったよ!また前見たいに楽しくなるね!」
1時間目が終わった休憩時間、クラスメイトが俺の所にやってきて色々と声をかけてくれた。4年近く一緒の奴もいて、皆温かく迎えてくれた。
「次実技教授で移動だろ?俺が連れてってやるよ」
「サンキュー」
「あんた車椅子動かせる器用さあるの?」
「俺のことを馬鹿にしすぎだろ葵!?」
「でも健太は信用ならんからな〜」
「んだと田中!!俺だって車椅子ぐらいちゃんと動かせ・・・あれ!?」
「ブレーキハンドル握りながら動くわけないじゃない」
「あっ・・・・」
「おいごめん変わってくれ。信用ならん」
「だっさ〜・・・・・」
「うるせええええ!!!!」
『ダハハハハ!!!!!!』
教室に笑い声が響き渡る。俺の車椅子のハンドルを手にしていた健太は結局やめて、スバルがハンドルを手にしてデュエルフィールドに向かう。
「お前実技参加するのか?」
「無理に決まっているだろ。ソリッドビジョンの爆風に巻き込まれたら車椅子ごと転倒だ」
「それくらい、強度ある車椅子使えよ」
「そんな物あるわけねぇだろ。別にデュエル出来ねぇわけじゃねぇんだ。テーブル使えばいいし」
「分かるんだけど迫力がねぇからな」
キンコーンカンコーン
「は〜い、全員集合ね」
デュエルフィールドに着いたところでチャイムが鳴る。小泉先生がホワイトボードを持ってきて、集合の合図がかけられる。
「では本日の実技ですが、昨年から試験的に始まりました新マスタールール、今年の3月から新たにルールを改正して正式ルールとして行うことが発表されました。大きな違いは何でしょう?水野さん」
「はい、従来のルールはEXデッキから出るモンスター、融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム、そしてリンクモンスターはEXゾーン、またはリンクモンスターのリンク先にしか出ませんでしたが、次回以降ではこの中の融合・シンクロ・エクシーズモンスターはEXゾーン以外にもメインモンスターに出すことが出来ます」
「その通りです。昨今の融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムの一時抑制、そしてリンクモンスターのテストを兼ねていた新マスタールールですが、色々な兼ね合いもあり、このルールに落ち着きました。というわけで、本日のテーマは『EXデッキデッキから出す位置』です。今まで以上に重要になりますので、それに合わさて皆さんもデュエルしてください。では、本日の講義に使うデッキです」
小泉先生は箱の中に入っている大量のデッキケースに指差す。クラスメイトは適当にデッキケースを一つ手にして、デッキの中身を確認、すぐに相手を見つけて対戦する。
「遠藤君は見学してしっかりとルールを確認してください」
「・・・・はい」
小泉先生の言葉に俺は少し濁して答えた。ルールの確認も何もこのルール、俺の前世のルールを海馬コーポレーションに提案したから知っているんだよな・・・・・
「(まぁ見学する振りをして車椅子で移動する練習するか)」
ここ一週間、車椅子を自力で動かしてみたけどやっぱり腕が疲れる。リハビリで練習したとはいえ、日常でほぼ毎日、5〜6時間動かすとなるとかなりのハードになる。
「(とは言えしばらくは車椅子生活だし・・・まぁ何とかなるか)」
「俺のターン!」
「手札から・・・」
「(・・・・・いいなぁ)」
一人で車椅子を動かしてデュエルしている姿を見ていると、ふとそう思ってしまう。皆、楽しそうにやっているんだ、これでやりたくない訳がない。
「(治療のために暫くソリッドビジョンのデュエルは禁止だしなぁ・・・スバルにはああ言ったけど、やっぱりテーブルデュエルだとよく考えるけど、迫力がねぇんだよな・・・)」
この世界に来てもうすぐ5年目が始まる。この間の生活が濃すぎてここ最近、前世の記憶が少しずつ忘れていっている気がする。昔連んだ友達の名前や一緒に切磋琢磨した剣道仲間、よく世話になった隣のおばちゃんなどの名前どころか顔ですら思い出せなくなってしまっている。
先生からは「足だけの障害以外にも何か起こるかもしれないから何かあれば報告するように」って言われたけど、もしかしたら脳にも異常があるのかな・・・・
「(・・・そんなことないか、それくらいこの世界に馴染んでいる証拠なんだろうなぁ・・・前世はテーブルデュエルが当たり前だったのに)」
慣れって怖いもんだな・・・・今の世界を生きているから仕方ないとしてもこうして前世のことも少しずつ忘れていくのか・・・・
「(・・・・もうストーリーが終わったっていうところで気が抜けてしまったんだな。思えばその時から記憶が少し曖昧になってきている気がする。まぁ、もう向こうの世界には戻れないんだ)」
「・・・き!!遊輝!!!」
「どわっ!?」
突然、背中を押された。前のめりになった俺は転倒しそうになるが、何とか持ち堪える。
「響!!強く押したら転ぶからダメでしょ!!」
「ごめんごめん!!」
「ったく・・・・っで、何だ?」
「先生が呼んでいるよ。『あまりウロウロするな』って」
「えぇ・・・・分かったよ。戻ればいいんだな」
すごい不服な顔をして奏に返したがその後ろでチラチラ見える先生の顔が般若になりかけだったので大人しく戻ることにした。別に見回るくらい良いじゃねぇかよ・・・・・
「っと・・・・戻りました」
「勝手に動いていいなんて言ってませんよ?」
「良いじゃないですか・・・見学のために移動していたんですから」
「ここからでも見えるでしょ。あんまり勝手に動き回ると留年させますからね」
「それだけはマジ勘弁してください!!」
俺の声がデュエルフィールドに響き渡る。皆がこっちに振り向くが気にしてられない。
「だったらちゃんと言うこと聞きなさい。怪我人の症状をさらに悪化させてら責任取るの私なんですからね。そこは頭に入れてくださいよ」
「・・・・・はい」
「トドメだ!!」
「負けたあああ!!!!」
シュンとする俺の目の前にはクラスメイトが先程のことを気にせずにデュエルをしている。
遊輝 side out
No side
こうして彼らの高等部1年目の物語は終わりを迎えとうする。そして・・・・・それは新たなる物語が始まろうとする。
「・・・・2回目のWRGP開催までもうまもなく1年になる。何としてでも彼を我がチームに引き入れるだ!」
「はい!!」
とあるところではWRGP優勝を目論み・・・・・
「・・・彼がいたら我々の計画が阻止される。何としてでも捉えろ」
「はっ」
とあるところでは邪悪な野望のために・・・・・
「それ程までに彼の力は凄いのか・・・・興味が湧いてきた・・・この情報をさらに手に入れよ」
「御意」
とあるところでは己の欲望を満たすために・・・・
それぞれがそれぞれの野望を抱き、世界をまたにかける、遊輝を狙った物語が始まる。
というわけでここまで見てくれた読者の皆様、ありがとうございました。
第1章はこれにて完結です。
第1章のテーマは「感情」です。
主に桜をメインしましたが、私なりに色々な喜怒哀楽を少し意識しました。もちろん、最初はいつも通りと思っていたのですが、どうにもこうにもこの章って感情の起伏が激しかった気がするんですよ。私だけかな?
最初は喜びや楽しみを知り、その途中途中で悔しさや時には愛情というものを学び、そして終盤では悲しみと怒り、それによる爆発っていうのを書いてみました。
上手くいったかどうかって言われると微妙なんですが、良い経験にはなったかなと思っています。
次回から第2章、テーマは「欲望と己の信じる正義」
様々な大人たちによって振り回せる遊輝たち、そして軽音部、彼らの周りに絡む醜い大人の利権と欲望に苦しみ、もがき、そして己が正しいと思える正義って言うものを目指します。
それでは、ここまでありがとうございました。第2章も引き続き、緩く頑張っていきたいと思います。