その晩、鎮守府内ではちょっとした宴が催されていた。なぜかと言えば「提督が車を買った」というしょうもない理由である。騒げれば理由なんてなんでもいい、仕事より宴、鎮守府の体制を疑ってしまう。
「白って一番ダサくない? 無難すぎ」
「無難でいいんだよ」
「なんで後部座席用のテレビつけなかったの?」
「要らねぇよ」
「ねぇねぇ、車に『武蔵』ってステッカー貼ってもいい?」
「工務店ぽくなっちゃうからダメ。それに勝手に武蔵を亡き者にしちゃダメだってば」
「痛くしないの?」
「しない」
「ミサイルは?」
「出ない」
「魚雷は?」
「撃てない」
「提督ぅ、これでいつでも車の中でヤれますヨ? 人目に付かないところ探しておくデス。は! まさかそのために!? もう、遠回しなんだからぁアァン!」
「…」
上から順に鈴谷加古清霜初風清霜ごーちゃん金剛。完全に「自分の車」扱いで話す艦娘たち。「鍵は金庫にしまっておこう、自宅そばに保管しよう」もう固く決意している提督。勝手にはしゃぐ艦娘たちを見ながらちびちびと酒を飲んでいる。
「でもよく買っちゃいましたね。まさか即日で決めてくるとは、予想外です」
一人冷静な鳥海が話しかけてくる。
「あぁ、なんかね買っちゃった。浜波が珍しく積極的なもんだからさ、それに推されたってとこもあるかな」
「なるほど。きっと司令官さんとドライブしたかったんですよ」
「なら嬉しいけどねぇ」
気の利いたお世辞、空気の読める鳥海。こういう常識人がいるとホッとする提督。手に持っている酒が進む。
「あれ、そういえば浜波は?」
そのきっかけになった浜波の姿が見えない。先ほどまではいたはず、談話室を見回してみるがやはりその姿はない。
「ああ、そういえばさっき秋雲とどこかへ行ってましたけど」
「なぬ、秋雲?」
それを聞いた途端、急に嫌な予感がする提督。手に持っていたグラスをテーブルに置いて立ち上がる。
「どうしました司令官?」
「ちょっと浜波探してくるわ」
そういうと談話室を離れ当てもなく探し始める。
「秋雲なら上に上がっていきましたよー」
遠くから鳥海がヒントをくれる。それに手刀でお礼して上層階へと向かう提督。純粋な浜波が秋雲の魔の手に落ちてやしないか、口車に踊らされてやいないか、それが心配で心配で仕方がない。
所変わって秋雲の部屋
「いやーはまちん、さっすが!」
「う、うん…。でもあたし別に何もしてないし」
「いやいや、はまちんが推してくれなかったら、きっとあの提督軽自動車でも買ってたよ。デカいのなんていらねーとかいってさ」
「そ、そうかな」
「そうに決まってるって。しかしこれでデカい車は手に入ったわけだ。あとはどうイベントの時期に借りる、もしくは連れ出すことができるかだなー」
そう、浜波は秋雲の差し金。というよりは秋雲に言いくるめられ秋雲の希望をさも自身の希望のようにみせるために仕立て上げられたスケープゴート。どうせ自分では提督をうまく誘導できるはずもないとわかっていた秋雲の狡猾な計画だった。その計画は見事に成功して、秋雲が希望していた車種を見事にゲット。手に入ればこっちのものと今後の計画をどうするか、その段階に移行していた。
「はまちんなら落とせると思ったんだよね。緊張したでしょ?」
「う、うん。でも、あたしも大きい車のほうがいいなって…、思ってたし。別に秋雲ちゃんの希望だけってわけじゃなかったから」
「デカいほうが使い勝手いいもんね、こんな大所帯の鎮守府だと、あっはっは」
「うん、みんなでどこかに遊びに行けるし…」
最初は秋雲に言われて提督のところへ行ったが、次第に自身の希望も似てきた浜波。実は帰り道に提督に対して「車来たら、まずみんなでドライブしたい。動物園とか行きたい」と、本音を提督に伝えていた。
「よーし、じゃあみんなのところに戻って宴会の続きしようか」
「う、うん」
浜波の肩を抱いてズカズカと歩く秋雲。そして自室の扉を開くと、そこにいたのは提督。
「声、大きいですね秋雲さん?」
「あ”」
廊下にまる聞こえの秋雲の声、浜波のは小さいので聞こえなかった。それで当然事の顛末を知ることとなった提督。扉の前で仁王立ちして秋雲が出てくるのを待っていた。
「浜波、秋雲になんか変なこと吹き込まれなかったか?」
「あ…えっと、その…」
おどおどと秋雲の後ろに隠れる浜波。
「大丈夫、お前は悪くないって。むしろ今日一緒で良かったよ。ほら、こっちおいで」
浜波に対しては非常にやさしい声を掛ける提督。秋雲の後ろから引きずり出そうと手招きする。そしてその手招きで秋雲の後ろから出てきて、今度は提督の後ろに隠れる。
「さて、秋雲さん?」
「はい」
「浜波をダシにするたぁいい度胸だ。お前何企んでた?」
大魔神の如く表情を変えて秋雲を問い詰める提督。すんばらしい迫力のため完全に委縮している秋雲。
「あのー、イベントのですね、搬入にですね、大きい車があると嬉しいなぁって、思いまして」
何を取り繕うこともなくぺらぺらと企てを話し始める秋雲。
「ほう、あそこか?」
「はい、昨年ご一緒しましたあそこです」
「なるほど」
「はい…」
「しかし本州まで渡るのめんどうだし、遠いよねぇあそこ」
「ですねぇ。あ、でもうちの鎮守府なぜか揚陸艇があるから、船便代は掛かりませんよ?」
無駄な節約術を提督に進言する秋雲。
「あぁ、たしかにあるなぁ。でもあれは鎮守府の備品だ、プライベートで使っていいと思うか?」
「い、いえ…」
「秋雲、免許持ってたっけ?」
「持ってません…」
提督の質問攻めに一通り答える秋雲。
「秋雲」
「はい!」
「今夏のお盆期間の当直任務を命ずる」
「ひぃー、ご無体なー!!!!!!」
すでに夏の当選通知が来ている秋雲にとって、それは死にも等しい通達だった。提督の後ろでは浜波がおどおどしながらその光景を眺めている。膝から崩れ落ちる秋雲、自業自得因果応報とはまさにこのこと。それからしばらくの間、秋雲の提督に対する陳情と懇願と、時に一線を越えかけてしまいかねない接待が続いた。
(夏コミ1週間前に許された)