その1(のみ):終
「ここ遠いのよ、ハワイから。それになんでヨコスカじゃないのよ?」
ぶつくさ文句を言いながら一人の艦娘が椴法華鎮守府を望む海域を進んでいる。鈍足の戦艦とはいえ直に到着する。綺麗な金髪のボブカット。大きな艤装を背負い両手には大荷物、さらに荷物の載っている揚陸艇のようなものをひっぱっている。
「戦争なんてとっくに終わっているの、なんでアタシがここに赴任しなくちゃいけないのよ、もう」
文句たらたら、米海軍から急に『ユー日本の鎮守府に転属YO』とペラ一で告げられ、反論などできるはずもなく南国のハワイからこの日本の北端自然豊かな椴法華に、ある意味左遷された艦娘の名は『コロラド』まもなく鎮守府港にご到着。
「あー着いた着いた」
港に到着すると、そこには二人の出迎えの姿がある。
「コロラドさーん」
大きく手を振っているのはサミュエル、その横には提督の姿がある。
「あ、サムじゃない。Hi、元気してた?」
「うん、元気元気!」
「そう、ならよかった。こんな田舎で退屈してないか心配だったのよね」
まずは同郷の艦娘と出会ってご機嫌のコロラド。
「で、そっちの冴えない男は誰?」
表情を一転、冷たい目で提督を見るコロラド。
「お言葉だな…。オレはここの提督だ」
「あなたが!? 日本人にこんなにジョークが上手い人がいるとは思わなかったわ」
それをジョークと捉えたコロラドが大笑いする。着任して数か月、威厳はまだまだ備わっていないことがわかる。
「まぁいいけど。ほら、荷物よこせ。長旅で疲れたろう?」
まだ海面に立っているコロラドに手を差し出す提督。
「あら、意外と紳士なのね。ありがとう」
「そりゃどうも」
素直にその厚意に甘えるコロラド。手に持っている荷物を提督に渡す。
「ところでサム。他のみんなはどこ?」
サムに同郷の行方を尋ねる。
「あぁ、えっとね。アイオワさんはちょっとお出かけしてて、ベイさんは日本のみんなと漁に出てるけど、サラさんとピッドさんとジョンは鎮守府にいるよ。本当はみんなでお出迎えしたかったんだけど、国からの連絡が今朝来たの。だからみんな集められなくて、ごめんなさい」
「アタシの扱いそんなに雑なの…。仮にもビッグセブンよ? そしてなんで軍艦が漁をしてるのよ」
世界にその名をとどろかせるビッグセブンの一角であるコロラド。まさか自身がそんなぞんざいな扱いで日本への転属を命じられていたのかと、酷く落胆している。
「すまん、もうちょっと歓迎してやりたかったんだが。見つけられたのがサムだけだった」
サムの説明に合わせてお詫びする提督。
「ここ、本当に鎮守府よね? アタシ来るところ間違ってない?」
「間違ってない」
キッパリ言い放つ。
「はぁ…、まぁいいわ。取りあえず休憩させて? そうね、Cafeでもあれば嬉しいんだけど」
「なら間宮にでも行くか。サム、ついでだからみんなを呼んできなさい」
「はーい」
提督にそう指示されたサムがとことこ鎮守府へと戻っていく。その場に提督とコロラドのみが残る。提督この状況を失敗と悟るのにそう時間はかからなかった。
「…」
「…」
気まずい沈黙が続く。
「なによ?」
「あ、いや。思っていたより小さいなーって」
戦艦の割には小さいコロラド。他の戦艦ならほぼ同じ目線の高さの提督だが、コロラドは少し見下げる感じになる。しかしその言葉が逆鱗に触れる。
「アナタ、沈めるわよ?」
拳に力を込めて、鬼の形相で提督をにらみつけるコロラド。
「ご、ごめん」
明らかな殺意を感じた提督はすぐさま詫びる。
「ささ、どうぞこちらへ。カフェにご案内します」
「ふん」
機嫌を損ねてしまったコロラドを間宮に案内する提督。その道中少しばかり鎮守府の案内をすることになるが、返事はくれない。しかしとあるものに気付いたコロラド、提督が説明する前に反応する。
「ねぇ、あれはなに?」
コロラドが立ち止まって指さすその先には、一つの露店があった。
「あぁ、あれか。あれはたこ焼き屋だ」
「タコ…やき?」
というのも、羽黒があまりにもたこ焼きたこ焼きと所望するため、他の艦娘も「あったら嬉しい」とほぼ満場一致で出店が決定したたこ焼き屋。徐々に縁日化していく鎮守府、次は綿あめか金魚すくいか、完全侵食の日も近い。
「アメリカでは珍しいだろうな、タコ、オクトパスを小麦粉の衣で包んで焼いた食べ物だ」
「へぇ、かわった食べ物ね。でもいい匂い」
興味深そうにたこ焼き屋を眺めるコロラド。そして匂いにつられたのか店の前まで歩を進めて立ち止まる。
「へいらっしゃい」
「食うか?」
「え、いいの? アタシ今ドルしかもってないけど」
「奢ってやるよ。すいません、一舟ください」
店主に注文する提督。
「マヨネーズ大丈夫か?」
提督がコロラドに尋ねる。
「ん? ええ、ノープロブレム」
コロラドの答えと同時にマヨネーズがたこ焼きに振り掛けられる。その光景すら物珍しそうに眺めている。
「へいお待ち」
たこ焼きを受け取る提督。出来立てのそれの上で鰹節と青のりが湯気で踊っている。
「うわぁ…」
「ほら、熱いから気を付けろよ? これで刺して食え」
「あ、うん」
提督からたこ焼きを差し出されたコロラド。説明の通り爪楊枝で少し割って熱を逃し、適温になったところで口へと運ぶ。
「……」
「どうだ?」
たこ焼き噛み締めるコロラドに問いかける。
「…おいっしーい!」
笑顔が弾けるコロラド。そして次から次へとたこ焼きを口へと運んでいきあっという間に一舟完食する。
「ねぇ、もう一ついい? ドルならここにあるから、ねぇ How much?」
「落ち着け、ドルは使えないっての。どうしてもってんなら買ってやるから」
身を乗り出して注文しようとするコロラドを制する提督。長旅で疲れているから余計に空腹で美味かったのだろうか、食い尽くさんばかりの勢いである。
「そんなにアナタに頼ってばかりじゃビッグセブンの名が廃るわ」
「そこに戦艦の威厳関係ないだろう」
「でも使えないんじゃ仕方ないわね。じゃあ後で払うわ、大体いくらなの?」
「おおよそ3ドルってとこか」
「ホントに!? 安過ぎない? こんなに美味しくてそれなりの量なのに」
「良心的な露店だからな、どこぞの店みたいに揚げたり変な手間加えてないからな」
「ニホンっていい国ね、気に入ったわ」
変なところで途端に態度が軟化する。たこ焼き外交ここに成就。
「コロラドー!」
向こうから歩いてくるイントレピッドが手を振りながら叫ぶ。サムがアメリ艦ズを引き連れてやってくる。
「コロラド、お久しぶり。で、何をしているの?」
サラトガがちょっとだけ怪訝な表情で尋ねる。というのも、どこからか机と椅子をかっぱらってきてたこ焼き屋前に陣取り食事をし続けている。既に十舟、店主にまだ焼かせ続けている。そろそろ小銭が尽きそうな提督。
「あ、みんな久しぶり! ねえみんなも食べない? 美味しいわよ」
口の周りに青のりを付けたコロラドが、迎えに来たアメリ艦ズにたこ焼きを勧める。
「えっと、お昼はもう済ませちゃったんだけど…。それにこの後間宮さんでお茶するんじゃ?」
ジョンストンがコロラドの食いっぷりをちょっと引きつった笑顔で見ながら答える。
「んー、流石にこれにCoffeeは合わないわね。ねぇ、日本のグリーンティーはあるかしら?」
「間宮に行けばあるんだけどな」
「じゃあ行きましょう。あ、提督。今焼いている分持ってきてね。そのマミヤってとこで待ってるわ」
「あいよ」
提督に指示を出してアメリ艦ズと共に先に間宮へと向かうコロラド。提督に申し訳なさそうに頭を下げるサラトガ。
「たこ焼きで機嫌直せるなら安いもんだ」
そうつぶやき、残りの注文分を袋に詰めてもらい提督もその後を追う。果たして何をしに来たのか、また一人騒々しいのがこの鎮守府に着任した。
「すいません、今日は品切れっす」
その言葉を聞きたこ焼き屋の前で地面に財布を落とす、それは赤城。まさか新任のアメリ艦に食い尽くされるなどとは微塵も想像していなかった。あまりの衝撃にしばらくその場に立ち尽くしていた。