その1
昨年末のこと。鎮守府にて年越し中の扶桑姉妹の部屋での出来事である。
「…姉さま」
「なぁに、山城」
コタツに当たってゴロゴロと横になって紅白を見ている扶桑。山城の問いかけにそのままの体勢で返事をする。
「当たってます…」
「何が? あら、足?」
「いえ、違います」
「じゃあ、牡蠣?」
「いいえ、宝くじです」
「あら、いくら? 300円?」
「違います…。丸の数が6つ違います」
「六つ? えっと…千万、十万百万、千万、一お…」
扶桑が桁を数え終わったところで、部屋の時間が停止する。
「いっと!!!???」
寝そべっていた扶桑が跳ね起きる。目は見開かれ、レイテ突入の時でもしたことがないような形相で山城を見る。その山城も大一番のレイテを酒の失敗で突入できなかった(?)かのような顔で姉を見る。双方何が起こったかまだ理解が追い付かない。
「ちょちょちょちょちょちょっと待ちなさい山城。見間違いってことがあるかもしれないから、ほら、ねねねねねねねねね??」
扶桑が落ち着くためにこたつの上の湯飲みを手に取り一口お茶をすすろうとしたが、動揺が全く収まらずガタガタと震える湯飲みからお茶が豪快にこぼれている。
「おおお、落ち着いて姉さま」
「ちょ、ちょっとタブレット貸しなさい山城。あなたの見間違いってことがあるかもしれないから、私も確認します」
「は、はい。そのほうがいいと思います」
扶桑にタブレットを手渡す山城。見ていたページは間違いなく宝くじの公式ページ。そこに表示されていたのも間違いなく今年の年末ジャンボの当選番号。そして今山城の手元にあるものは、こちらも間違いなく今年の年末ジャンボ連番10枚である。そして改めて扶桑が手元の番号とページに表示されている番号を照らし合わせるが…、何度見ても間違いない、一等前後賞6億円のご当選である。
「ねぇ山城」
「はい、姉さま」
「私たち、明日死ぬかしら?」
「そういってもう数年経ってます」
「そうね…」
そう、戦中ずっと「不幸だ不幸だ」と、自薦他薦問わず言われ続けていた扶桑姉妹だったが、戦後この鎮守府に来てからというもの、その不幸が嘘のように影を潜め、ツキまくっている二人になっているのだった。商店街の福引では2等、ガチャを引けば一発でお目当てのモノ、卵を割れば双子、今飲んでいたお茶も茶柱が立ちっぱなしという、誰が見ても『運がいい』姉妹になっていたのだ。それを二人は「ただの偶然」と認めることはしてこなかったが、ここにきてその幸運極まれり。一応今の日本における庶民の幸福の頂点を射止めたのであった。
「どうしましょう…」←山城
「どうしましょう?」←扶桑
「艦娘、辞めます?」
「それはダメよ。ここ以上に私たちにとっていい職場なんてないのだから」
「ですよね」
庶民であれば即日「仕事辞めるっす」と職場に電話するところだが、この二人にその選択肢はないようだ。取りあえず年が明け銀行が開くまで、しばらく結論はお預けすることとした。
「山城」
「はい、なんでしょう」
「お茶、新しいの淹れてくれる?」
そして年は明ける。