こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その5:終

「え、そんなことがあったの!?」

 その晩、扶桑と山城が例の件を提督に告白する。提督執務室で三人、扶桑のおごりで寿司をとってつまみながら話している。レイテ慰霊に行けたことで二人の中では一つ区切りがついたということもあり、思い切って相談した。

「いやーすごいな。でも、それは二人のもんだからこっちが口出しすることではないんだけど。鎮守府の予算に充てるわけにもいかないからねぇ。どうしたもんかね、寄付でもする?」

 真面目に驚く提督。しかし判断だけは冷静でおかしな忠告や要望はその口からは出てこない。二人と一緒に真剣に悩んでくれている。

「あぁ、提督は常識人ですね。ご相談してよかったです」

「もし金目当てで姉さま口説いてきたら沈めてるわよ」

 山城にグサリと釘を刺される。

「しないってば」

「それはそれで姉さまに魅力がないみたいないい方で気に入らないわね」

「オレはどうすりゃいいんだよ…」

 マグロを一つ掴んで口に運ぶ。噛み締めながら腕組みしてまた考える提督。

「取りあえず、他の子たちに言っちゃダメだよ? たかる奴は絶対にいるから」

「はい。でもそれはそれでいいかもしれないって思っているんですけど」

「ダメダメ。秋雲あたりが知ったら『印刷の質と部数を増やしたいので是非ご寄付を!』って土下座して頼んでくるから、きっと恐らく」

 具体例を挙げて注意喚起する提督。

「そのくらいなら、別に…」

「いいんだ」

「ここまで来たら、もう鎮守府の役に立つことに使えればそれでいいかなって思っているんです。ここは私たちにとって最高の住まいですし最高の仲間がいますので」

「そっか」

 扶桑のそんな菩薩のような考え方を聞いて微笑んで答える提督。

「なにか、いい使い道はないもんかねぇ」

「そうですねぇ」

「毎日お寿司食べてればそのうちなくなるわよ」

「それはそれで飽きるぞ。ただでさえいい魚介類が手に入る鎮守府なんだから」

 ここは漁港かと誤認するような発言。寿司を次々と口へ運びながら真剣に考えこむ三人。すると執務室の扉をノックする音がする。

「ひぃっ!」

 昼間の件もあり、過剰に反応する扶桑と山城。そしてそこにいたのはまた時雨だった。夜なので昼にも増して怖い時雨。服装が闇に溶け込んでいる。

「提督、いいかい?」

「あ、あぁ。どうぞ」

「じゃあ遠慮なく。二人が連れてきた人たちだけど、暫く鎮守府内を見て回ったら帰っていったよ。またお盆の時期についでに寄るわ、だって」

「帰ったんだ、そりゃよかった。んで、また来るんだ」

 時雨は二人に憑いてきた方々のその後をご報告に来たようである。近寄ってくる時雨、寿司に気づいて「一個ちょうだい」と一つネタをつまんで口に放り込む。

「ねぇ、時雨」

「なんだい?」

 扶桑が時雨に問いかける。

「あなた、個人的にではなくてこの鎮守府にあればいいなと思うものはない?」

「なんだい急に藪から棒に」

 突然の質問に少しだけ驚く時雨。

「そうだなぁ」

 わかりやすい考えるポーズをとって悩んでいる時雨。そしてしばらくの後出した答えは意外なもの、指をぴんと立ててこう答える。

「コンビニ」

「え?」

「ここってさ、街に出るには少し距離があるし、その街に行くにしてもボクたちには足がないじゃないか。それにいつも間宮さんや鳳翔さんに頼ってばかりじゃ申し訳なくて。せめて近くにコンビニがあればいいなぁって思うんだ。たまに夜に買い食いしたくなる気分の時があるから。あ、出来ればローソンね」

 買い食いという言葉が恥ずかしかったのか、ちょっと照れながら理由を話す時雨。それを聞いた三人は全く予想していなかったその答えに意表を突かれるが、提督は頭の中ですぐさま「それなら」と色々計画を張り巡らせていた。

「扶桑、山城」

 提督が二人に声を掛ける。

「はい、そういうことであれば」

 喜んで返事をする扶桑。山城は返事こそしないがその表情は「ノー」とは言っていない。それを聞いている時雨は何のやり取りなのか全く理解できないでいる。そして時は過ぎ少しだけ先の話、この地方に夏が訪れる頃…。

 

 

「オープンしちゃったよ」

「しちゃいましたねぇ」

「勢いって怖いわ」

 三人の目の前には真新しいコンビニがある。鎮守府正門を出てすぐ、昔監視小屋があった土地をコンビニの出店場所として提供。提供するにあたって提督が大本営と掛け合ってそれを実現。あの話からたった数か月で開店にこぎつける。艦娘に知られてはいないがオーナーは扶桑、結構な金額を投資した。また念のため、出店にあたって鎮守府の胃袋を支える間宮や鳳翔に事前に相談した提督。二人とも「負担が減るなら喜んで。てか私たちも欲しい」と、快く了解してくれた。

「これでよかったのか?」

「はい。皆さんが喜んでくれるなら私にとってこれ以上の幸せはありません」

 嬉しそうに建物を見ている扶桑と、毎度ふてくされているように見える山城だが、口元は笑っている。

「そっか」

「ねぇねぇ提督。これ建ててくれたの提督なの? ありがとう!」

 何人かの艦娘に声を掛けられる提督。

「いやいや、オレじゃないって。これは…」

 視線を扶桑に向けると、人差し指を口に当てて「シーッ」とやっている姿がある。

「ま、地域活性の一環ということで街と大本営に相談したらこうなった」

「さすが提督!」

 提督を誉めるとコンビニの中へと消えていく艦娘たち。

「さて、俺もコーヒーでも買って仕事に戻るかな」

 提督もコンビニの中へと歩を進めようとする。

「あの、提督」

 そのタイミングで扶桑に呼び止められる。

「ん、どうした?」

「あの…、これを作ったのはいいんですけど、まだ4億以上余っているんです。どうしましょう…」

 次はスタバか大戸屋か。起業家扶桑の悩みはまだ続く。

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