その1
「ごめんなさいね。じゃあよろしくガンビーちゃん」
「OK! じゃあ行ってきますね」
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そういって鳳翔がガンビア・ベイを港で見送ったのは、もう三日も前のことだった。
「そんなに難しいことを頼んだわけでも、何も幻の食材を探してきて欲しいとお願いしたわけでもないのですが…。もうかれこれ丸三日帰ってこないんです、ガンビーちゃん」
半泣きで提督に報告に来ている鳳翔。それを半ば呆れた顔で聞いている提督。
「さて、今回はどこの地図を見ながら出かけたのかな。アイダホかな、オクラホマかな? はたまた地球儀かな?」
「せめてスマホを持たせておけばこんなことには…」
「今度から隠れてカメラマンつけようよ、面白いもん撮れそうだし。青葉に言っとくわ」
「今頃どこかでお腹すかせてないですかね!? 熊に襲われたりしてないですかね!?」
割烹着の上に付けているエプロンで顔を覆って泣き続けている鳳翔。ガンビア・ベイが迷子免許皆伝なのは鎮守府では周知の事実なのになぜ頼んだのか。聞きたいけど聞けないでいる提督。「鳳翔さんも天然だしなぁ」ってことにしておく。
「アイツのことだから多分平気だと思うけど。きっとどこかでご飯はご馳走してもらってるし、熊は…、逃げるっしょ。ベイのほうが」
「よよよ」と、昭和の漫画のように泣き続ける鳳翔に対して、艦娘だしどうにかなるだろうとドライに考えている提督。部屋の中の温度差が激しい。
「取りあえず、捜索隊は結成しますね。さすがに三日はお遣いにしては長すぎますし、何より食材が腐る。死活問題ですよ」
提督が鳳翔にそう告げる。
「…はい、ありがとうございます」
「ちなみに、今回どっち方面に行く予定だったんですか?」
「ええと、すぐそばです。椴法華から北に数キロ行った程度の漁港にお魚を仕入れにいってもらったんです」
「それで三日!? アリューシャンあたりまでいってるんじゃねぇのかアイツは」
驚き呆れる提督。こうなるともう迷子というよりは漂流である。全く見当がつかないので、取り敢えず数名の艦娘に椴法華近海の哨戒、というか人探しを命じる。
「まぁ、帰ってきますよ。アイツだって子供じゃありませんから」
「そうですよね。信じて待ちましょう」
「信じて待つのはいいですけど、これからは信じて送り出さないようにしてくださいね…」
時は遡ってガンビア・ベイが鎮守府を出てから数時間後
「ここ…、ドコ?」
ガンビア・ベイは取りあえず漁港に辿り着いていた。しかしそれは本来到着すべき場所ではなく、まったく見知らぬ港だった。
「おう嬢ちゃん、どうしたね?」
威勢のいい声がガンビーに掛けられる。その声に驚き海面から少し飛び上がる。
「ひぃ! ええと…、私お魚探しに来たんですけど…」
「なんだい、突然海から来るもんだからびっくりしたよ。あんた艦娘かい?」
「は、はいぃ」
「そっかそっか。で、ここに来たってことはマグロかい?」
「え?」
豆鉄砲を食らったような顔をするガンビー。彼女が到着した港は高級マグロの産地、青森県の大間だった。迷子は今、始まったばかり。