こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その2

「んん! 美味しい。デリシャ過ぎます…」

「そうだろう。ちょうど余ってた切り落としがあってよかったよ。ホレ、ジャンジャン食え!」

 漁港に併設された食堂で今朝獲れたばかりのマグロの中落ち丼他、新鮮な刺身などなどをご馳走になっているガンビー。初めて艦娘が来たものだからちょっとした騒動になって、即席の写真撮影会や握手会が開かれる。そしてそのお礼というかこの場合餌付けというか、獲れたて新鮮海の幸をご相伴にあずかっているところである。

「いいんですか、こんなにもらっちゃって?」

「いいっていいって。もう売り物にするものじゃないから気にするなって。これが漁師の特権だな」

「私、漁師じゃないんですけど…」

 一人の漁師が豪快な笑顔でガンビーに言葉を返す。

「でも、遠くまで来ちゃったみたいだからお腹減ってたので助かりました。 Thank you so much」

「で、姉ちゃん。どこに行くつもりだったんだい?」

「あ、ええと…。うちの鎮守府の近くの港だったんですけど…、イルカの群れを見つけて追いかけていたらここに来ちゃいました」

 迷った原因は「野良イルカに付いていった」だった。それを聞いたその場にいる漁師たちは「コイツなら簡単にアメで誘拐できそう」なんてことは考えず「かわいいー」と、推しのアイドルが言う事なら何でも許すというバカなファン状態で聞いていた。

「そうかそうか、じゃあ戻らないといけないな。椴法華だろう? ここからならそう遠くないから、北へ向かって海岸線が見えたらそれに沿って行けばすぐ見えてくるさ」

「そうですか。ありがとうございます」

 帰り道を教えてもらい、それと同時に食事も終えるガンビー。箸をおいて口を拭いて手を合わせてご馳走様。帰り支度をする際に漁師から「土産だ持っていけ」と、山のような魚介類の詰め合わせをもらう。これだけですでに鳳翔からの頼まれものは、種類こそ違えど量としては数倍もの魚が手に入る。何度も何度もお礼をして大間を後にするガンビー。

「こんなにもらっちゃった。鳳翔さん喜ぶかなぁー。あ、でも頼まれたものは無いから、やっぱり買いに行かないと」

 迷子になったことは忘れて軽やかに海を奔るガンビー。だが、本来の目的だけは達成するつもりではあるようだ。しばらく海を行くと視線の先には北海道の南端、函館あたりの海岸線が見えてくる。

「ここだここだ。えっと、これを海岸線に沿って…だったよね」

 ここまでは良かった。先の漁師の説明を思い出してほしい。「海岸線に沿って行く」としか彼らは説明していない。ここで免許皆伝の実力はいかんなく発揮される。

「えっと、じゃあこっちに行って…」

 取り舵一杯、函館に向かって左に進路をとるガンビー。はい、お終い。仮に椴法華に到着したとしても北海道の海岸線をぐるりと一周することになる。それを誰が止めることが出来ようか、鼻歌交じりでガンビーはスイスイと海の上をゆく。そして次にたどり着いたのは…。

「ここ…、ドコ?」

 ライトアップされて美しく闇に浮かぶ赤いレンガの建物が立ち並ぶ、そう小樽にご到着。このへんで迷子一日目が終了、二日目に続く。

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