こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その3

「そういえば、なんで鳳翔さん四日目でやっとオレんとこに報告に来たんだろう? 三日までは許容範囲ってこと? すげぇなおい」

 仕事をしながら提督が、急に思い出したかのように独り言を呟く。たまたま執務室に来ていた大淀に「こわッ」っと引かれている。

「ご、ごめん」

 

 迷子二日目にタイムスリップ

 

  チュンチュン

 

 朝チュン、小鳥が外でピーチクパーチクさえずっている。

「ZZZ………フーターズはイヤです!」

 何の夢を見ていたのだろう。そんな寝言と共にベッドから跳ね起きるガンビー。閉められたカーテンの隙間から一筋の明るい日差しが差し込んでいる。どうやらここで一晩を明かしたことに疑いはない。

「あれ、ここドコ?」

 キョロキョロとあたりを見回す。見慣れない大きい部屋、キングサイズのベッド、きっちり着替えてホテルの浴衣に身を包み、まだ眠い目と覚醒していない脳みそで、今の自分が置かれている立場を考えるガンビー。

「ホテ…ル?」

 正解。さて、なぜお遣い途中のガンビーがこんな立派なホテルで一泊としけこんだのか、話は昨晩にさかのぼる。ちなみにラブホではない。

 

「ここ…、ドコ?」

 すでに日も暮れて夜の帳が完全に下りている。椴法華近くであればもう人通りもなく静けさをたたえていることだろうが、今ガンビーがいるここは非常に人通りが多い。ここは小樽の一大観光名所『レンガ横丁』国内外問わず多くの観光客が行き交っている。

「ココ、椴法華の近所じゃないよねぇ…。どこぉ?」

 近所ではないことは理解したようである。キョロキョロと辺りを見回しながら歩く。通りには多くの飲食店が立ち並びいいにおいが充満しており、数時間海を奔ってきたガンビーの腹を刺激する。

「いい匂い、お腹減ったなぁ…。うう、鎮守府に帰りたい…」

 半ベソをかきながら歩き続ける。しばらく歩いて飲食街の並びを後にして再び港方面へと戻る。奔り歩き疲れたガンビー、適当なボラードを見つけて腰かけ夜の海を眺めている。夜の海には汽笛が響き渡り、大きなフェリーが停泊している。

「これに乗ったら帰れないかなぁ…」

 目の前に停泊するフェリーを見て呟く。それは新潟へ行くので止めておけ。

「お嬢さん、どうしました?」

 どこからともなくガンビーに掛けられたと思われる声がする。その声に気づいて頭を上げ、周囲を見回す。すると自身の後ろに一人の品の良さそうな老人が立っていた。ベタすぎるけど起こってしまったものは仕方がない。このまま話は進めよう。

「こんな時間に若い女性が一人でいると危ないよ?」

「あ…、ええとその…」

 にこやかに微笑んでガンビーに話しかける老人。答えに困るガンビーだったが、声が出るより先に「ぐー!」と大きくお腹が鳴る。

「あ…」

 恥ずかしそうに顔を伏せる。それを見た老人がもう一度笑う。

「お腹が減っているんだね。良ければ一緒に来ないかい? なに、怪しい者ではないから安心して。あそこに大きなホテルが見えるだろう。私はあそこの経営者だから」

 自分の後ろを指さす老人。ガンビーが再び顔を上げ老人の後ろに視線を向けると、そこにあるのは巨大なホテル。そこのオーナーであるとこの老人は自称する。嘘か真か、信じて良いものか悪いものか、鎮守府の皆から「知らない人についていってはダメ」と口酸っぱくいわれていることを思い出す。今回に関しては知らない人の前に知らないイルカについていってしまいこうなっているわけだが。しかし今のガンビー「空腹を満たしたい」という欲求が勝り、あっさりとお誘いを受けてしまう。そして辿り着いたのはそのホテル、毎日土手にいる変なオッサンが吐く嘘ではなかったようである。

 

 ホテルに到着するとガンビーはその老人に案内されるがままレストランへ通される。大きなテーブルに何も言わずに出てくる料理の数々。「遠慮しないで」といわれ遠慮なく食べるガンビー。自分は艦娘であると話すと、その老人はサマール沖海戦に参加していた元軍人で、当時のガンビア・ベイを見たことがあると話す。そんなもんだから酒が進み「私だって好きで行ったわけじゃないですよー。出来ることならサンディエゴでノンビリしていたかったんですよー!」と、当時の思い出や苦労を打ち明けまくっている。その後食事は終わり空いている部屋に泊まっていいと案内され、温泉にこれでもかと浸かり、気づいた頃には酒も回って完全にフラフラ。部屋に戻るとベッドへ一直線、こうして朝を迎えたわけである。

「おかしいなぁ、昨日の夜の記憶がない…」

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