こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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第3話:とある一日の提督執務室の風景 
その1


 朝7時過ぎ、提督執務室内。提督は初夏の朝のさわやかな風を室内に取り入れつつ、机に向かって己の業務を黙々とこなしている。その広い室内、目の前でブンブンと物騒なものを振り回している艦娘が一人いる。

「あの、天龍さん?」

「ん、どうした?」

「なぜここで素振りを? しかも真剣で」

「あぁ、ここな。ちょうど大きな姿見があって姿勢確認するのにちょうどいいんだ。何、気にするなって、仕事してろよ」

「そういう問題ではなくてですね…」

「今朝は鍛錬場を空母連中が占拠しててスペースないんだよ。そん時に限ってだけどここ使うようにしてるんだ、前の提督の時からよ」

「あのジジイ…」

 前任の提督が許可を出していたようで、その流れで代替わりしてからもそのまま使用しているということらしい。着任した際、部屋の床に何やら斬り傷が大量にあるのに気づき「ヤ〇ザの抗争でもあった?」と大淀に聞いたが、彼女も知らないとのこと。その理由が今朝になってはっきりした。時より振り下ろした天龍の刀が勢い余って床に突き刺さる。奇麗な切り口、近寄ったらアカン。

「どの程度のお時間やってらっしゃいます?」

「1時間くらいだな」

 大きい胸を揺らしつつ、ひたすら刀を振り続ける。刀だけならまだしもその揺れる胸に気を取られて余計仕事に集中できない。

「提督、剣道とかやってたか?」

「一応、四段持ってはいるよ。随分やってないけどね」

「おう、いいじゃねぇか。よし、今度稽古に付き合え」

「いや、流石に艦娘の稽古に付き合えるほどの腕前ではないと思うけど」

「龍田の持ってる長物だとどうしてもリーチが違ってよ。竹刀なら同じくらいだし丁度いいや」

「ハンデ大きすぎやしない?」

 

 

 午前9時30分過ぎ

 

「別に私、男は顔でも収入でもないと思ってるわよ。心から私のこと愛してくれる、それだけでその人と一緒になってもいいって思ってるんだけど、どうしてそれすら叶わないのかしらねぇ? いけどもいけどもロクな男がいないのよ。どいつもこいつも下手で媚び売ってきて、足柄さん綺麗っすねスタイルいいっすねって、外見のことばっかり。それに全然こっちの話聞いてくれないし自分の自慢ばっかり。すぐにラ〇ン交換してくださいばっか、やってねーっての。絶対姉さんより先にお嫁にいってやろうと思ってるけど、どっちもなかなかいけない気がしてきたわぁ。羽黒に先越されちゃったらもう泣くしかないわ。手近なところで済ませちゃおうかしら。ねぇ提督、年収どのくらいある?」

 フーっとマニュキュアを塗った指に息を吹きかける。勝手に出してきた折り畳み椅子を提督と机を挟んで向かい合わせの場所に広げて、グチグチと先日の合コンの愚痴を言い続けている。

「足柄さん? 業務時間ですよ? それと僕の年収は言いません」

「この前一緒に行った愛宕なんか、医者と連絡先交換してたわよ。あー羨ましい、やっぱ胸かしら」

「もしもーし」

 

 

午前11時ちょい過ぎ

 

「しれーしれーしれぇー!!!!!!!!!!!!」

 開き戸のはずの執務室の扉が提督机の横まで吹っ飛んでくる。扉を蹴り壊した犯人の時津風がそのまま室内に突入してくる。

「しれーお昼いこー、ねー外にラーメン食べに行こうよー、ねーねーねー!」

「時津風、まだお昼まではまだ一時間くらいあるんだけど、待てない?」

「ぇー、だってあそこすごく混むから早めに行って並んでおこうよー、あたし待つのきらーい」

「出前じゃダメなの? それならおごってあげるから」

「ホント? やった!」

「じゃあそうしなさい、12時に書類渡さないといけないから司令動けないの。ほら、そこの電話使っていいから」

「わーい」

 なんとか外に出ることは阻止した。今注文すれば12時には間に合わないだろうが並ぶのとそう変わらないほどの時間で食にはありつけることであろう。

「あ、もしもーし。バシー軒さん? 鎮守府ですけど注文お願いしまーす」

「ボク味噌ラーメンと半チャーハンでお願いね」

 時津風に自身の注文を伝える。受話器片手に「オッケー」と指をわっかにしてそれに応じる時津風。

「えっと、味噌ラーメンと半チャーハン一つずつと、ラーメン大盛とチャーハン大盛を16人前ずつ。餃子8人前おねがいしまーす」

「ちょっと待て、お前一人でそんなに食うつもりか!?」

 とても美しい二度見で時津風にツッコミを入れる。

「え? 何言ってんの。陽炎型全員分だよ?(秋雲は除く)」

「提督、ごちそうさまー」

 外からがやがやとテーブルと椅子を運び込む陽炎型軍団。

「お会計24,350円になります。それじゃあ少々お待ちくださいねー」

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