こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

13 / 109
その3:終

 午後9時過ぎ、まだ執務室で仕事中の提督。

「ねぇていとくー、残業したって残業代出ないんでしょう? 管理職って大変よねー。切り上げて飲みましょうよー」

「飲むのは結構なんですけど、せめて自室か談話室あたりでお願いできませんか、ゴトさん」

「もぅつれないなぁ。どうせ一人で寂しく夕飯だと思ったから、ごはんまで作って持ってきてあげたのに。ねぇ、たべよ?」

 酔った勢いもあるのだろうが、やたらグイグイ絡んでくるゴトランド。同国の艦がほかに一人もいないため、別段他の艦と仲が悪いわけではないが、提督が着任早々かなり積極的にスキンシップを取ってくる。というより絡み酒。

「じゃ…、まぁそろそろキリもいいし、お言葉に甘えて」

 観念して仕事の手を止めて、昼から設置されたままのゴトランドの待つ食卓机へと向かう。

「はい、じゃあまずいっぱい」

 差し出されたグラスになみなみとつがれるビール。駆けつけ一杯にしては量が多い。

「じゃ、じゃあいただきます」

「はいどうぞ。今日はスウェーデン名物のミートボールとヤンソンの誘惑にしてみました」

「ヤンソン?」

「まぁグラタンね」

「へぇ、美味そう」

 お世辞抜きでゴトランドの作ってきた料理は非常に美味しそうである。ビールで少し口を濡らして、いざ料理へと手を付ける。

「あ、待って」

「ん?」

 提督のフォークを持った手を止めるゴトランド。

「はい、あーん」

「えぇ」

 男なら喜ばないはずがない、女の子からのあーんである。酔っているとはいえまさかここまでしてくるとは。嬉しいがちょっとひく。

「じゃ、じゃあ。あーん」

 差し出されたヤンソンを口に入れる。

「ん、めっちゃ美味い」

「きゃ、よかった。まだまだあるからね、どんどん食べてね、あ・な・た」

「んふぅ!」

 ここで嫁を見つけるつもりはなかったが、ここまでグイグイ来られては仕方がないかなと、ちょっといい気分になっている、酒も入っているから。この後「スウェーデンは寒いけど、いい?」って言われた。「構わない」と伝えたが、翌日ゴトランドの記憶は吹っ飛んでいた。

 

午後11時半、提督執務室に併設されている仮眠室。

「そりゃ私も前までは夜戦夜戦ってうるさかったけど、流石に戦闘もないのに夜海に出るつもりもないわけ。だからといってすぐ夜型の体質が昼型になるわけもなく、なんだかんだ眠くないわけよ。あ、石油を掘り当てた100万ドル貰うだって、やった。ほら、提督の番だよ」

「…、結婚詐欺にあう、10万ドル払う」

「あはは、やったぁ」

「あの、もう眠いんですけど」

「えー、せめて12時までは付き合ってよ」

 全く眠くない川内が、提督室に押しかけて人生ゲームに興じている。

「じゃあ、後30分だけ」

「よし、これの決着ついたら次大貧民ね」

「せめて四人欲しくない?」

 下手なことを言ってしまった。どちらかといえば夜型の嵐と天霧が呼び出され、結局1時過ぎまでゲームは続く。

 

 

午前2時半。

「しれいかんさまぁ~」

 巻雲が、結局離れの自室に戻らず仮眠室で寝ていた提督の元へとやってくる。

「どうしたの?」

「怖いのでトイレについてきてくださ~い」

「…部屋からトイレよりここのが遠いよね?」

 夜は更けていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。