その1
「今年もこの時期が来ましたね」
「ええ、去年は辛酸をなめましたから、今年はみんな気合入ってますよ」
「この日のために磨きに磨いたナックルボール、あの戦艦姫に投げる日がとうとう来たかと思うとドキがムネムネするぞ」
午後一の鎮守府第一会議室、そこで数名の艦娘と提督による神妙な面持ちの会議が開かれている。提督はポカンとしているが。
「あの、何が始まるんでしょう?」
「おお、提督は知らなかったな。今週末、毎年恒例になっている深海棲艦との野球大会が開かれるんだ」
「はい?」
「艦娘vs深海棲艦、選抜メンバーによるガチの野球大会だ。勝利チームには地元協賛の商店街から商品が出る。真面目にやらないほうがおかしいだろう」
「なにそれ…」
やたら熱く語ってくる長門。お前ら戦艦としての誇りはどこへいった。
「さて、今年のメンバーだが。先日の練習試合の結果を踏まえて、以下のようなメンバーにしてみた。これだっ!」
長門がホワイトボードをくるりとひっくり返しメンバーが発表される。
監督兼クローザー:長門
ヘッドコーチ:提督
■スタメン
1番:ショート島風
2番:セカンド神通
3番:サード衣笠
4番:DH武蔵
5番:ファースト伊勢
6番:センタービスマルク
7番:ライト鬼怒
8番:レフト長波
9番:キャッチャー加賀
先発ピッチャー:瑞鶴
■控え
日向(投手 中継ぎ)
リシュリュー(投手 中継ぎ
夕立(投手 ワンポイント)
長門(投手 抑え)
金剛(野手 代打の切り札)
山城(捕手)
大井(野手)
北上(野手)
涼月(野手)
満潮(野手)
雪風(野手)
長良(野手 代走)
対馬(野手)
マネージャー:速吸 羽黒
ボールガール:秋津洲
「以上だっ!」
「おぉ、山城入れてきましたか」
「あぁ。ここのところの彼女の盗塁阻止率はすごくてな。盗めるのは島風くらいのものだろう」
「なるほど。となると向こうも古鬼くらいしか狙ってこないでしょうね」
「最初から出してくるとは思えない。だからスタメンはイチゴーバッテリーにした」
「なるほど」
その場にいる全員がうなずく。
「ちょっと待て、なんでしれっとヘッドコーチなんだよ。野球なんてそんなに知らないぞ? それと『サード衣笠』って、狙ってんだろ!?」
「ばれてしまったか、はっはっは。しかし本当に打つからな衣笠は」
「安心しろ提督よ。お前はベンチで座っていればいい。今年はこの武蔵がいる」
どっしり構えた武蔵が提督を制す。
「あの、去年は?」
「肩をやってしまってな、欠場だ」
「仕事してたの?」
「しかし対馬とは。サプライズですね」
コーチャーを務める大淀から、少し驚きの声が上がる。
「あぁ、彼女はすごいぞ。海防艦だからといって甘く見てはいけない。今年のうちの秘密兵器だ」
「楽しみですね」
提督を置き去りに話は進む。先日「草野球に参加しよう」とか思っていたが、今はもうそんな気はサラサラ無くなっていた。