「はい、提督お茶どうぞ」
「あ、ありがとう」
ユニフォームに着替え1塁側のベンチに腰かけている提督。マネージャー兼スコアラーの速吸からお茶を手渡される。観客席を覗くとすでに超満員、1万人くらいはいそうである。
「こんな田舎にこんなに人が…」
そう大きい球場ではないが立ち見も出ている。外野には各選手を応援する旗がたなびいている。艦娘のはもちろんだが深海棲艦を応援するものもある。
「提督さん、ちょっといい?」
「ん?」
瑞鶴から声を掛けられる。半袖半パンのユニフォーム。すらっと綺麗に伸びた腕と足に白のユニフォームが非常に映える。
「ちょっとキャッチボール付き合って、肩作らなきゃ」
「ああ、いいけど」
先発ということもあり、肩を温める相手に提督を指名してくる瑞鶴。お茶を飲み干し腰を上げる。予備のグローブをもらってベンチを出て、ライト線の奥のほうへと駆け足で向かう。
「いいぞー」
手を振り合図をする。
「いくよー」
軽く振りかぶる瑞鶴。振り下ろされる腕と同時にこちらめがけて飛んでくる白球。速い速すぎる。
「ちょ!」
放物線なんて描いていない、ド直球で自分めがけて飛んでくる。「ズドすン!」という鋭い音が響き提督のグラブの中に吸い込まれる白球。ちょっと焦げ臭い、煙を上げてシュルシュルいってる。左手めっちゃ痛い。艦娘だってことを忘れていた、プロ以上のスピードで投げてくる、身が持たない。
「死ぬ死ぬ、死んじゃう!」
「我慢なさい、30球くらいだから」
泣き言をいう提督をたしなめる瑞鶴。逃げることは許されない、とんでもない変化球を交え約30球、全身全霊で瑞鶴の球を受け止めた提督。その後1週間筋肉痛が抜けなかった。
「まもなく、第3回椴法華鎮守府対深海棲艦野球大会が開始されます。開始に先立ちましていくつか注意事項を…」(場内アナウンス担当:香取)
場内アナウンスが流れ、いよいよプレイボールが迫ってきた。ウォーミングアップを済ませた選手たちは、それぞれ気持ちを作ったりリラックスしてその時を待っている。
「あのさぁ」
「なんですか?」
「レフトスタンドの応援団なんだけど、深海さんたちいっぱいいるじゃん」
「いますね」
深海棲艦側の応援席を眺めている提督。そこにはご存知イ級からPTに欧州勢まで、よりどりみどり深海棲艦オールスターズがスタンドを陣取っている。艦娘側の応援団に全く引けを取らない。
「この前見たイ級ちゃんたちもいっぱいいるなって」
「ええ」
「人型してるのはわかるんだけど、丘に上がって平気なのあの子ら?」
「エラ呼吸じゃなきゃ大丈夫なんじゃないですか? 細かいこと気にすると早くからハゲますよ」
羽黒エグい。
「オヒサシブリ」
一人の深海棲艦が艦娘側のベンチまでくる。ズシンズシンとなんかやたらデカいものを引っ提げている。
「お、戦艦棲姫じゃないか。久しいな」
「コトシモ ワタシタチガ カタセテモラウ」
「ふ、去年とは一味違うぞ。まぁ期待しておけ、後悔はさせん」
「キタイシテル」
対応した武蔵とガッチリ握手をして戻っていく。提督には紹介してくれない。
「ああいう場合、どっちが打つの?」
「中の人ですよ。後ろの人はなんていうんですか、ヒュッケ〇インのボクサーユニットみたいなもんですから」
「素人にやさしくない例えだよね、ソレ」
いよいよ試合開始。