「さぁこい! 今年はこの武蔵がいる!」
バットを肩に担ぎ…、そのバットが何かおかしい。
「太いし長くね?」
「あれは51cm砲を加工して作成した武蔵のみが扱える特注バットだ」
「…いいのか?」
「…艤装だ」
「こっち向いて自信満々に言えよ、心配になるだろう!」
後ろめたいところがあるのだろう、提督とは目を合わさずに返答する長門。ただその点について速吸が「深海さんからも許可貰っているので大丈夫です」とフォローが入る。多分舐められているんだろうなって察する提督。
「むさしー、がんばってー。お姉ちゃん応援してるぞー。シブヤン海まで飛ばしちゃえー」
一塁側内野応援席の大和から声援が飛ぶ。ちなみにこの球場、外野は太平洋側を向いているため、仮にシブヤン海まで飛ばすとしたら、ほぼ地球一周飛ばさないと難しい。衛星軌道まで上げれば可能かもしれないが。
「さぁこい!」
気合マックス右打席に入る。バットの余りの長さのためキャッチャーと主審が2メートルくらい後ろに下がる。あんなもんで後頭部殴られた日にゃ即死は免れない、主審は。
「…イクヨ」
鶴ちゃんが振りかぶって第一球を投げた。
「もらったぁ!」
振り出した瞬間にわかる、どう頑張っても当たるわけのないアッパースイング。長門が「あれこそ大和型必殺最大仰角45度打法!」と、見た目もう90度なんですけどいいたくなる角度で振り上げられる51cm砲もといバット。
「カッキーーーン」まさかのジャストミート。
「うそぉ?」
「いったか?」
ベンチから身を乗り出す提督と長門他メンバー。高々と舞い上がるボール、雲の切れ間へ消えていき、このままいけば本当に「シブヤン海まで到達するかも!?」唐突に登場する秋津洲、お前居たんだ。早速逆転か!?
「チュドン!」
大きな音とともにセンター上空で爆煙が上がる。
「何事?」
ボールと思われる残骸が上空から落ちてくる。そしてそのままセンターのグラブの中に収まる。二塁塁審が「アウトー」とコールする。
「ちぃ、防空姫か。迂闊だった」
あちらさんの防空の要『防空棲姫』の守備範囲に上げてしまったことを悔やむ武蔵。「直上は姫の庭」といわれるくらい完璧な守りを敷いていた。提督の目算では千メートルくらい上がっていたように見えたが。しかし、島風はタッチアップからホームを陥れ1点を返す。
「あ、あれも艤装だから問題ないってことなのかな?」
「もちろんだ」
こっちばかりズルいと思っていたけど、そんなことはない。割と別次元でフェアな戦いだった。
1回の裏、終了。
「逆転はできなかったがまぁいいだろう。この回きっちりゼロで抑えるぞ!」
守備の皆をベンチから送り出す。すんなりいってくれればいいのだが、そんなことを一応願っている提督。左を向くとそこにはベンチの中なのに日傘を差したリシュリューがペリエを飲んでいる。その膝の上にはうちの秘密兵器、対馬がちょこんと座っている。
「対馬ちゃーん、パパって呼んでもいいよ?」
ペリエの瓶が飛んできた。