こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

22 / 109
その9

「さぁこい! 今年はこの武蔵がいる!」

 バットを肩に担ぎ…、そのバットが何かおかしい。

「太いし長くね?」

「あれは51cm砲を加工して作成した武蔵のみが扱える特注バットだ」

「…いいのか?」

「…艤装だ」

「こっち向いて自信満々に言えよ、心配になるだろう!」

 後ろめたいところがあるのだろう、提督とは目を合わさずに返答する長門。ただその点について速吸が「深海さんからも許可貰っているので大丈夫です」とフォローが入る。多分舐められているんだろうなって察する提督。

「むさしー、がんばってー。お姉ちゃん応援してるぞー。シブヤン海まで飛ばしちゃえー」

 一塁側内野応援席の大和から声援が飛ぶ。ちなみにこの球場、外野は太平洋側を向いているため、仮にシブヤン海まで飛ばすとしたら、ほぼ地球一周飛ばさないと難しい。衛星軌道まで上げれば可能かもしれないが。

「さぁこい!」

 気合マックス右打席に入る。バットの余りの長さのためキャッチャーと主審が2メートルくらい後ろに下がる。あんなもんで後頭部殴られた日にゃ即死は免れない、主審は。

「…イクヨ」

 鶴ちゃんが振りかぶって第一球を投げた。

「もらったぁ!」

 振り出した瞬間にわかる、どう頑張っても当たるわけのないアッパースイング。長門が「あれこそ大和型必殺最大仰角45度打法!」と、見た目もう90度なんですけどいいたくなる角度で振り上げられる51cm砲もといバット。

「カッキーーーン」まさかのジャストミート。

「うそぉ?」

「いったか?」

 ベンチから身を乗り出す提督と長門他メンバー。高々と舞い上がるボール、雲の切れ間へ消えていき、このままいけば本当に「シブヤン海まで到達するかも!?」唐突に登場する秋津洲、お前居たんだ。早速逆転か!?

「チュドン!」

 大きな音とともにセンター上空で爆煙が上がる。

「何事?」

 ボールと思われる残骸が上空から落ちてくる。そしてそのままセンターのグラブの中に収まる。二塁塁審が「アウトー」とコールする。

「ちぃ、防空姫か。迂闊だった」

 あちらさんの防空の要『防空棲姫』の守備範囲に上げてしまったことを悔やむ武蔵。「直上は姫の庭」といわれるくらい完璧な守りを敷いていた。提督の目算では千メートルくらい上がっていたように見えたが。しかし、島風はタッチアップからホームを陥れ1点を返す。

「あ、あれも艤装だから問題ないってことなのかな?」

「もちろんだ」

 こっちばかりズルいと思っていたけど、そんなことはない。割と別次元でフェアな戦いだった。

 

 1回の裏、終了。

 

「逆転はできなかったがまぁいいだろう。この回きっちりゼロで抑えるぞ!」

 守備の皆をベンチから送り出す。すんなりいってくれればいいのだが、そんなことを一応願っている提督。左を向くとそこにはベンチの中なのに日傘を差したリシュリューがペリエを飲んでいる。その膝の上にはうちの秘密兵器、対馬がちょこんと座っている。

「対馬ちゃーん、パパって呼んでもいいよ?」

 ペリエの瓶が飛んできた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。