こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

24 / 109
その11

「6回の表、守備の変更をお知らせします。ピッチャー、瑞鶴に替わりまして日向。キャッチャー、加賀に替わりまして山城。センター、ビスマルクに替わりまして雪風。ライト、鬼怒に替わりまして北上。レフト、長波に替わりまして大井。以上でございます」

 バッテリー及び外野を総とっかえして6回表の守備に臨む。センターラインの3人は、外野にボールがさんざん飛んできたため走り回りピッチャー並みに疲れている。

「ア、アトミラール」

「なに?」

 ビスマルクに声を掛けられる。

「ビール」

「今お持ちしますね」

 先頭打者、北方水姫。着ているんだか着ていないんだか非常に微妙な服装の彼女、バッターボックスに立つたびに男性客からの歓声がひときわ大きくなる。本人は全然気にしていない様子。

「いくぞ、山城」

「なんでお姉さまの球を受けられないのかしら…」

(肩を壊したからです)

 振りかぶって第一球と思いきや、まさかのアンダースロー。

「これが私の新しい魔球。いや、航空戦艦達の努力の結晶。私たちの魔球、瑞雲ライジングだ!」

 まさしく水上機が水面から飛び立つがごとく、地面スレスレを這うように飛んでいくボール。アンダースローなのに瑞鶴以上のスピードボールが山城のミットめがけて飛んでいく。

「ってことは!?」

 なんとなーく想像がついた提督。「アレ多分ホップする」と心の中で思った通り、バッター手前で大きく浮かび上がる。

「ブンッ!」振りぬいたバットは空を切りバットの上に構えた山城のミットに収まる。主審のストライクのコール、湧き上がる歓声。スピードガンは163.4km/hを示している。

「イイタマジャナイカ」

 珍しく感心している深海さん。それほどいい球なのだろう、だったら先発させろよといいたいところである。そしてその後も日向の瑞雲なんちゃらは冴えわたり、まさかの三者凡退。最後のバッターにこそ前に転がされたがボテボテのショートゴロ。見事深海勢のスコアボードに初めてゼロを刻んだのである。

「よーし、いいぞ日向山城。さすがだ!」

「ああ、だがこのボールを投げるのは非常に疲れる。あと何回もつか…」

「無理はするな、もう一回ゼロを並べてくれればそれで十分だ」

 日向の肩を叩いてねぎらう長門。ベンチに座りドリンクを飲む。そして山城も座りかけた瞬間…

「ぐっ!」

「どうした山城!?」

 左腕を抑えうずまる山城。見ると手首はパンパンに腫れ上がり、これではもうミットをはめることもボールを受けることも出来そうにない。

「大丈夫か!? これではもうムリではないか」

 監督の長門もこれは予想外、不安そうに山城を見つめる。

「この球だが、別名『捕手殺し』と言われていてな。一回が限界だ、扶桑型戦艦がどうこうという問題じゃない」

 タオルを頭から被り冷静に自身のボールの説明する日向だが、何か聞きようによっては山城に対して(というか扶桑型に対して)失礼なことを言っているようにも聞こえたが、藪蛇になりかねないので深く突っ込むことはやめておいた。結局この回で日向山城のバッテリーは交代。ゼロが並んだのもこの回のみであった。

 そして控えに捕手が居なくなったため、提督自ら主審と深海勢に交渉して、すんなり控え選手を一人追加させてもらう。キャッチャー赤城。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。