こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その12

 その裏、球威の衰えない鶴ちゃんに三者凡退を喫し、点差変わらず6点差。残すところあと3回。

「むう、向こうのピッチャーも敵ながら素晴らしい。このままだと今年も熱海旅行を逃してしまうぞ」

「それくらい出してあげる」って言いたくもなったけど、やっぱおかしいので出かかった言葉を飲み込む提督。「こっちは熱海くらい行こうと思えばいつでも行けるんだから譲ってあげなさい」てなこと言うと「温泉目当てではない、勝負に勝つことが目的だ!」と、本音半分嘘半分で言い返されそうなのでそれもやめておく。

「ふぅ、私が出てあげる。c'est comme ça」

 ベンチの端でずっと黙っていたリシュリューがため息とともにその重い腰を上げる。ずっと膝の上に乗っていた対馬を横に置き赤城を呼び何かこそこそ話して、そしてマウンドへと向かう。

「ピッチャー、日向に替わりましてリシュリュー」

 しゃなりしゃなりと、流石パリジェンヌといわんばかりのモデルのような歩き方でマウンドへと向かう。それもそのはず、ユニフォームは上だけボタンもかけずに羽織り、下は「焼けるからイヤ」と、自前のデニムそのまんま。あの格好で野球できるんだろうか、非常に疑わしい。主審から投球練習は必要かと聞かれるが「そんなもの必要ない」と突っぱねる。本当に大丈夫だろうか。

「七回表の深海サーモンズの攻撃。二番、レフト軽巡棲姫」

「まずは先頭を抑えるぞー」

「うるさいわねぇ、わかってる…わよっ!」

 さすがデニムだと足は上がらない。しかし極小の無駄のないモーションから繰り出されたその球は、美しい七色の光を引いて空を裂き、そしてバットは空を切り赤城のミットへと吸い込まれる。

「おおおぉ!」

「美しい、なんだあれは!?」

 長門も見たことがないらしく、素で驚いている。

「知らないのにメンバー入りさせたの? なんで?」

「秘球『シャンゼリゼの憂鬱』まさかこんなところで投げるとは思わなかったわ」

 赤城から投げ返されるボールを受け取りぽつりと一言。美しい、あまりにも美しい。球場全体が驚きの後声を失って見とれている。その後もシャンゼリゼの憂鬱を連投、深海勢はバットにかすらせることすらできず、まさかの六回に続いて二連続での三者凡退。

「どっかで見たことある球だな…」

 提督がその魔球に見覚えがあるらしく記憶をたどっている、でも出てこない。

「ミラクル…、なんとか。あーここまで出てるのに!」

 気になる人はウェブでチェックだ。

 しかし、リシュリューもそうだが恐ろしいのは赤城。初見であの球を難なく捕球できるとは。なぜメンバーに名を連ねていなかったのだろう、そして今までずっと出店を食い歩いていたとは思えないほど真剣なまなざしで試合に臨んでいる(メンバー補充で探しに行ったときはドイツのブルスト屋台を食いつくしている最中だった)。彼女にどんな心境の変化があったのだろう。

 

 …5分前

「赤城、この試合に勝ったらamiralがパリの食い倒れツアーに招待してくれるそうよ(真っ赤なウソ)」

「本当ですか!? それは一航戦の誇りにかけて勝ちに行きます。リシュリューさん、どんな球でも受けます、任せてください」

 誇りって便利だなぁ。

 

「よし、いける、いけるぞ!」

 士気が高まっていくメンバー。そんなに熱海に行きたいか。

「よし、ではここで出すしかあるまい。代打、対馬!」

 提督が一番気になっていた対馬がここでいよいよコールされる。リシュリューの膝の上でずっと不敵な笑みを浮かべて試合を観戦していた彼女。果たしてどれほどの実力があるのか。秘密兵器といわれるその真の実力が今明らかになる。

「ふふふ…いきます」

 バットをずるずる引きずりバッターボックスへと向かう対馬。その姿を見る限りバットを振れるどころか野球そのものを知らないのではと疑いたくなる。主審とキャッチャーに丁寧にお辞儀してバッターボックスへと入る。構えはとりあえず普通だった。そして鶴ちゃんの第一球。

「対馬流奥義…、アンドロメダ大星雲打法!」

 怪しいネーミングの打法を告げるとともに怪しい光を放ち振りぬかれるバット。ジャストミート、変なエフェクトが付いた状態でセンター一直線。さすがの防空棲姫も一歩も動けず、ボールはそのままバックスクリーン裏へと吸い込まれる。

「ホームラーン」と、二塁塁審が腕をぐるぐる回す。それを見た提督は開いた口が塞がらない。横には「ドヤァ」と効果音が付きそうなほどの長門が腕組みしてその結果を満足そうに見ている。




 なお「アンドロメダ大星雲打法」の詳細につきましては「アストロ球団」をご参照ください。面白いからみんな読もう!
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