その1
給糧科
戦時下でこそ間宮と伊良湖、たまに鳳翔が手伝うくらいで賄っていた部署であるが、戦後戦闘から離れたものが編入され一気に人数が増えた部署。科長こそ間宮ではあるが名ばかりの長であり、所属する者はめいめい勝手に料理の腕を磨いた小料理屋を出したり、はたまた究極の食材を探しに出回ったりと、最もフリーダムな部署と化している。そのフリーダムさが災いして間宮の手は足りていないケースがあるのは前述の通り、お察しあれ。
「提督、野球の後始末も落ち着いた頃ですから、そろそろあの件進めませんか?」
「あの?」
「胃袋の件です」
「あぁ、そういえば。間宮さんが大変だったんだっけ」
「そうです。早くしないと本気で荷物まとめて実家に帰られますよ」
「そりゃまずい」
提督と大淀が執務室でペンを走らせながらしている会話である。
「確認の意味も含めて、お昼は間宮さんとこ行くか」
「あ、今日は臨時休業ですよ」
「あら、そうなの。じゃあ食事は別でするとして間宮さんとゆっくり話せるかな…」
「しれー、ラーメン食べいこー!」
どこかで聞いていたのかわからないが、素晴らしいタイミングでぶち破り対策で押し戸から引き戸に変えられた執務室の扉が勢いよく開かれる。
「週三でたかりに来るんじゃねぇ!!」
誰がとは言わない、追い返す。
「ふぅ、でなんでまたお休みなの?」
「今日から伊良湖ちゃんが有給休暇で来週頭まで帰ってこないんです」
「ありゃ、そりゃ大変だ」
「こういうことがあるから、早く対策立てないといけないんですよ。近所のラーメン屋さんもこういうことがあってうちのが大挙して押し寄せると、食材食いつくされるーって嬉しいやら悲しいやらの悲鳴上げてましたよ」
「んー、他所様に迷惑かけるわけにもいかないし。こりゃ本気でどうにかしないと」
食というのは人(艦娘)にとって源であり、無くてはならないもの。その提供が立たれようものなら人は声を挙げ場合によっては武力を行使する。それは歴史が証明している。こんな場所でもし武力を行使されようものなら、三日も経たずに火の海で壊滅、ってなことは免れない。何事よりも優先すべきであろう、昼のチャイムが鳴るとと同時に大淀と二人、間宮へと向かう。
「臨時休業、だって」
「言ったじゃないですか。でも中に間宮さんは居るはずです」
「ちわー」
ガラガラと扉を開けて中へと進む二人。当然客はだれ一人おらず静まり返っている。だが奥からは何か料理屋独特の物音が聞こえてくる。何か仕込みをしているのか、間宮であることは間違いない。奥へと進む。
「まみやさーん」
「あら、提督と大淀さん、いらっしゃいませ」
癖だろう、つい「いらっしゃい」といってしまう間宮だった。案の定厨房で仕込みを行っている最中だった。
「すいませんね、休業なのに勝手に入ってきちゃって」
「いえ、そんな。お昼ですか? お二人分くらいなら何か出せると思いますけど」
厨房内をきょろきょろ見回す間宮。職業病だろう、誰かに何か振舞うことを決して嫌とは言わない。
「いえいえ、お昼は別のところ行きますから気になさらず」
双方気を遣う。提督と大淀は先に客席にて待つと厨房を後にし、そしてタイミングのいいところで間宮も仕込みの手を止めて客席へと向かう。
「お待たせしました」
「いえ、お忙しいところすいません」
三人分の冷たいお茶とともに、間宮が席につく。
「えっと、早速なんですけど人手が足りないとかどうとか」
「はい、お手伝いの方はいるにはいるんですけど、なかなか全てには回らなくて」
「基本伊良湖ちゃんと二人ですか?」
「はい」
申し訳なさそうに首を縦に振る間宮。
「そりゃキツイ」
「戦時中のことを考えればこれでも十分楽なんですけど、商業ベースで考えるとどうしても手も足りなければクオリティの維持も厳しくて」
戦時中と異なり、艦娘以外にも外からの客を入れることにしている間宮。稼ぐという意味では当然なのだが、それを彼女一人の肩に背負わせるのはちと厳しい。
「給糧科ってそんな人少ないの?」
提督が大淀に問う。
「いえ、そんなに少ないわけではないと思います」
「じゃあなんで間宮さんがこんなヒーコラいってんの? 誰か替わりになれる人いないの?」
「いるにはいるんですが、次いつ帰ってくるつもりなんだろう…」
手元のメンバー表のようなものを見て大淀が呟く。
「いるの? 誰々?」
それを横からのぞき込む提督。
「はぁ、瑞鳳さんさえ戻ってきてくれれば。安心して任せられるんですけど」
「瑞鳳?」
鎮守府内において料理上手といえば真っ先に名前が挙がるのが鳳翔・大和・大鯨あたりなのだが、そこで間宮の口から意外な名前が発せられる。
「…そういえばここにきてから一度も見てないかも」
嫌な予感がしてきた提督。