「瑞鳳って、そんなに料理上手なの?」
「はい。昔は卵焼きしか作れなくて何の役にも立たなかったんですけど、その後誰か名のある料理人の霊でも降ろしたんでしょうか、メキメキ上達して。今ではもう十分お店を任せられるくらいの腕前です。でも…」
「へ、へぇ…」
黒間宮を見た気がする。黙って聞き続ける提督。
「でも、その降ろした霊が多分変な食の探究者だったんでしょうね。全国各地飛び回って究極の食材探しをしているんです。鎮守府に戻ってくるの三か月に一回くらいですかね、大淀さん?」
「そうですね。以前戻ってきたの提督が着任されるひと月くらい前ですから」
手帳を見ながら間宮の問いに答える大淀。
「道理で見ないわけなんだね…。生きてるの? どこかで食材目当てでクマやイノシシとやりあったりして死んでない?」
「艦娘ですからそれはないでしょう、それに噂は聞くので生きてはいるはずです。ふらりとどこからともなく現れた艦娘が、そこのご当地食材でメチャクチャ美味しい料理を振舞っては消えていく。そのメニューの中には必ず卵焼きが含まれている。都市伝説っぽくなってますけど、まず瑞鳳さんで間違いないでしょう」
料理人独自のネットワークでもあるのだろうか、変な情報が間宮から伝えられる。ちなみにソースはネット上の掲示板らしい、パソコン持ってきて見せてくれる。
「なんか『私より美味く卵焼きを作れる奴に会いに行く』とか捨て台詞を残して消えていくらしいんですよ」
「そんな人ごまんといるよ、ねぇ!? さっさと連れ戻そうよ!」
「直近だと…、あぁ割と近くに出没報告ありますね。ボチボチ戻ってくるんじゃないですかね」
「利尻のクマじゃねぇんだから…」
直近の出没情報を画面をスクロールして大淀が確認する。なぜ定時連絡手段持たせてないのか非常に気になる。
「よし、戻ってきたら俺が直に言ってやる! 間宮さん手伝えって」
「そうしていただけるとありがたいのですが、瑞鳳さんがそう簡単に首を縦に振るでしょうか」
不安そうに頬に手を当ててため息をつく間宮。
「いや、これ仕事だから」
「ふふ、それもそうですね」
その後、お昼がまだだということで間宮が三人分蕎麦を茹でてくれた。山盛りのざる蕎麦を三人でつつく。結局間宮さんの手を煩わせてしまったことを申し訳なく思う提督。どこからか匂いを嗅ぎつけてきた時津風と雪風が提督の分を横からぶんどっていく(食いきれそうになかったからまぁいいか)
「ところで提督…」
…一週間後
「戻りましたぁ!」
港に高く大きな声が響く。ドヤドヤと人が港に集まり、その中には提督もいる。帰ってきたのは、そうお目当ての瑞鳳であった。全国放浪の旅をしている割には非常に小綺麗である。
「おかえり瑞鳳。長かったわねぇ、今回はどこへ行ってたの?」
声を掛けるのは姉の祥鳳。
「あ、おねえちゃん。今回はねぇ一番遠いところだと岡山まで行ってきたよ。美味しい卵があるんだぁ、あとで卵焼き焼いてあげるね。他にはー…」
「おーい、瑞鳳」
姉妹で話しているところ、後ろから提督が声を掛ける。
「はーい、って誰?」
返事はしてみたものの、その声の主の顔を確認して顔をしかめる瑞鳳。
「ああ、そういやそうだったな」
提督着任後、まだ一度も鎮守府に足を踏み入れていない瑞鳳にとっては初見の提督。当然の反応が返ってくる。
「こちら新しい提督さんよ、瑞鳳の留守中に着任されたの」
「よろしく」
「へぇ、そうだったんですか。初めまして瑞鳳です」
敬礼して挨拶をする瑞鳳。まだ海の上、背後には『ホシザキ』とロゴの入っている、なんかデカい箱ものが搭載された大発がチラチラ目に入る。あれも明石製、ちょっと後で説教だと心に決める提督。
「落ち着いたらでいいんだけど、あとでちょっと提督執務室に来てくれるか」
「はい。え、なんですか早速。そんなに卵焼き食べたいんですか? それとも土産話ですか」
「どっちでもねぇし。まぁとにかくよろしくな」
用件だけを伝えその場を後にする提督。みんなで大発に搭載された全国各地の食材を下ろしつつ、その後ろ姿を不思議そうに眺めて見送る瑞鳳。
そして夜8時過ぎ…。
「まだこないんだけど…」
早めに業務を終わらせて瑞鳳が来るのを待っていたのだが、待てど暮らせどやってこない。腹も減った、早めに上がって飯にしたいところだが、呼びつけた手前さすがに席を外すわけにもいかない。今どこにいるのか、とりあえず宿舎に内線を掛けてみる。
「あ、もしもし、提督ですけど」
「どうされたんですか?」
出たのは都合よく祥鳳だった。
「あのさ、瑞鳳って今どこにいるか知らない?」
「え? 瑞鳳なら随分前に提督のところに行くといって出ていきましたけど」
「あれ?」
「まだそちらにいってませんか?」
「だねぇ」
どうやら忘れてはいなかったようである。しかし聞くところによれば一時間は前に宿舎を後にしているとのこと。現状は了解したので電話を切る。
「さて、どこにいったのやら…」
窓を開けて、陽が落ち闇に包まれた鎮守府内を見回してみる。するとどこからともなくいいにおいが漂ってくる。
「ん…、いい匂い」
どこかでなにか料理をしているようである。しかしすでに間宮は閉店、この時間に漂ってくるのは少々違和感がある。
「…まさかあいつ」
大体察しがついた提督、部屋を後にしてその匂いの元へと向かう。