こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その6

 あっという間に時間は過ぎ去り、制限時間の一時間が経過して終わりを告げる銅鑼が鳴り響く。

「調理しゅうりょ~う!!」

 那珂ちゃんのコールとともに盛り付けの手を止める提督と瑞鳳。二人とも時間に追われることなく、ある程度余裕をもって指定の品数を揃えることができた。

「提督、やりますね」

 その料理の出来を見て瑞鳳が唸る。料理自体はどこにでもあるようなものをセレクトした提督ではあるが、その出来は細部にわたって非常に丁寧な仕事が見て取れる。それを瑞鳳は見逃さない。

「提督、まさかとは思いますが…」

「ふふふ」

 不敵に笑うだけの提督。そして実食の時間。

「ではまず、瑞鳳さんの料理からー」

 審査員の前に瑞鳳の作った料理が運ばれてくる。「おぉ」と審査員一同から声が上がる。数にして4品、余裕があったため規定より1品多く作っていた。

「私の料理は、まずは夏野菜と卵のトマト風スープ、小エビとえのきの和風スクランブルエッグに自家製燻製ベーコンとほうれん草のカルボナーラ、そして十八番の卵焼きです」

 さすが自分の土俵で勝負しただけのことはある。ひと手間かかっているのが見ればすぐにわかる料理の数々。伊達に仕事サボって全国行脚しているわけではない、審査員も感嘆の声を上げる。

「では、じっしょ~く!」

 これまた那珂ちゃんの合図で、審査員が一斉に箸やらフォークやらを手に取り瑞鳳の料理を食べ始める。

「んー、美味しい。お店の味」

 鈴谷がパスタをすすりながら感想を漏らす。店といわせるレベルのものを提供しているということがこの発言からうかがえる。

「あら、この炒り卵美味しい。うちでも出そうかしら」

 スクランブルエッグを口にした間宮もつい口をついて出てしまう。鎮守府の料理番を唸らせるとは大したもの、瑞鳳の鼻が少し高くなっている。

「すいません瑞鳳さん、おかわりはありませんか?」

 あっという間に食い尽くした赤城からのリクエストがかかる。しかしそういう趣旨ではないので我慢してもらう。そんなに食いたければTVチャンピオンにでも出てくれと、それを傍から見ている提督は思う。

「あたし野菜嫌いだけど、これならいくらでも食べられる」

「このパスタ美味しい、お酒に合いそう」

「うむ、ワインがあればいいのだが」

 それぞれ感想が出てくる。そのすべては好意的なもので一人たりとも口に合わないという趣旨の言葉は出てこない。審査員の好みまで熟知してのセレクトなのだろうか、瑞鳳の腕の良さに疑いはなくなる。

「では、次に提督の料理でーす」

 一段落していざ提督の料理が運ばれてくる。それを見た審査員は驚きとともにちょっと拍子抜けしている。目の前に並んだ料理は何の変哲も飾り気もない、勝負飯とは呼べないいたって普通の料理の数々であった。

「なんかフツーだね」

 鈴谷の口から正直な感想が漏れる。それもそのはず、提督の料理は…。

「俺の料理は、親子丼、オムレツ、卵焼きだ」

 瑞鳳の料理が舌を噛みそうなら、提督の料理は早口で言っても問題なさそうなほど簡単なものばかり。というよりはオーソドックスな家庭料理でまとめたラインナップ。しかしこの料理にはオーラがある、それを感じ取ったのは間宮だけであった。

「じゃあ、じっしょ~く」

 審査員が提督の料理に箸をつける。そして次の瞬間それは起こった。

「んまぁーーーーーーい!!!!」

 立ち上がって叫んだのは赤城であった。親子丼のどんぶりを片手に、空を見上げ吠えている。鎮守府中に轟くその声、ご近所さんにも聞こえる。そしてそれを見た瑞鳳はハッとして提督に視線を移す。そこにはブイサインを出して瑞鳳に微笑む提督の姿があった。

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