「美味しい、めっちゃ美味しいじゃん提督!」
フツーと言っていた鈴谷も口にした途端その言葉を撤回するように提督の料理に感嘆の声を上げる。それは鈴谷に限らず審査員すべてから同様の感想が上がる。
「提督、このオムレツめっちゃ美味い。毎朝作ってよー」
佐渡がそんなことを言う。毎朝食べたい、それは親の料理くらい口に合わないと出てこないであろうセリフ。それほど佐渡の心を捉えたのであろう。
「め、めっちゃ美味しいにゃ…。鳥肉が柔らかすぎず固すぎずちょうどいい感じで口の中でほどける。感動したにゃ」
泣いてる多摩。そして間宮からもこんな言葉が発せられる。
「提督、あなたこの卵焼きどこで覚えたんですか?」
「あぁ、流石間宮さん。気づいちゃいましたか」
二人の間だけで会話が成立している。那珂ちゃんも間に入れずただ見守るのみ。
「わかります! こんな美味しい完璧な卵焼き、何年ぶりに食べました。形、出汁、塩加減。そう、見習いの板前は卵焼きが完璧に焼けるようになるまで次の料理に進ませてもらえないかの如く、師匠を唸らせるレベルになってこそ。そのレベルをはるかに凌駕している。あなた一体!?」
一見何の変哲もない卵焼き。しかしわかる人が食べればそれがどれほどの出来かすぐにわかる。料理人としての血が騒いだのだろう、つらつらとうんちくを並べ提督に詰め寄る間宮。それに呼応するかのように提督は頷き不敵に笑う。
「ええ、そうです。私は素人じゃありません」
二人のザ・ワールドが展開されている。観客も審査員もそれを半分呆れて見守るしかすべがない。赤城だけは厨房の中にある残りの親子丼をかき集めて一心不乱に食っている。食品ロスという言葉はこの鎮守府には無縁である。そして頭に巻いた手ぬぐいを脱ぎ去り提督がこう吠える。
「俺の実家は料亭だー!!!」
「えぇーーー!!!!」
「ずほーーーーーー!!!」
瑞鳳含め一同大驚愕。なんで軍人、提督やってんだというツッコミが入りそうで入らない。間宮は北島マヤの怪演を見た時の月影先生みたいになって驚いている。
「ズルいよ提督! そんなのプロじゃん!」
膝から崩れ落ちた瑞鳳が提督に詰め寄る。
「ズルくない! それに俺はずいぶん昔に家を飛び出している。料理人でも何でもない」
「でも…」
「確かに、若いころ料理は親から散々叩き込まれた。しかし、どうしても自分が料理人になる未来は見えなかった。だから俺は軍人になる道を選んだ」
「どうしたらそうなる」というツッコミは総員から入った。しかしこの勝負、最初からほぼ互角であったことが今判明する。そして食材のアドバンテージがあったはずの瑞鳳だが、この反応を見れば結果は一目瞭然。
「あの、提督。たしか九州の出身でしたよね。もしかして…」
間宮には何か思い当たることがあるらしい。それを提督に問うたがそれに対して提督は指を口に当て「シーっ」と沈黙を要求する。間宮の予想は当たっているのだろう。
「まぁ、多少料理の腕はあるけど、その情報があったらお前はなにかやることが変わったのか? 食材も自分で持ち帰ったいいものを使ったが、俺は近所の普通の食材だ。そこにもお前にはアドバンテージはあったはず。だが素人相手だからという慢心と油断、それが敗因だ。そしてそれが今の料理人としての立ち位置だ。わかったか瑞鳳」
今この場に来た人がこの話を聞けば、コイツら絶対軍人じゃないと思う会話が繰り広げられている。しかしそれほどまでに提督が瑞鳳に掛ける言葉には説得力があった。
結果は火を見るより明らかであった。6対1、提督の勝利である。唯一瑞鳳に票を入れた鈴谷は「なんかレストランっぽい味だったから」という理由での瑞鳳票であった、さすがJKである。そして勝負の後提督は赤城から「毎日私にご飯を作ってください」と、プロポーズにも似た言葉を贈られるが、丁重にお断りした。
「わ、私にも是非」
加賀からも言われる。
後日
完敗した瑞鳳は、言いつけ通り鎮守府にとどまり給糧科の仕事をこなしていた。間宮も人手が増えてやっと普通に回転するようになっていた。
「提督、今日のは自信があるの。さぁ食べて」
「たまには別のものがいいんですけど…」
また「提督に認めてもらう」と、瑞鳳は毎朝卵焼きを作り提督執務室まで朝食を届けるようになっていた。そして提督自身も料理の腕がばれてしまったため、その料理を食べたがる者が殺到し、週一で間宮では「提督デー」なるものが開催されるようになり、結果自身も間宮を手伝う羽目になっていた。身から出た錆という表現はふさわしくないが、自身の仕事を余計に増やしてしまった。後悔先に立たず。