その1
休日、提督は鎮守府内の離れにある宿舎でゴロゴロしていた。平屋の日本家屋、縁側で扇風機を掛けて麦茶片手に涼んでいる。
「クーラーなしで過ごせるから、この土地はいいよなぁ」
南の人間である提督、北の地の夏は非常に過ごしやすい。扇風機の作るそよ風だけで十分らしく休日を満喫している。
「…ん?」
ちょっと焦げ臭いにおいとともに扇風機がその羽を回すのを止める。何事か、故障か寿命だろうが恐らく後者であろうと察する提督。簡単に分解して確認するが、やはりもう駄目なようである。諦めて代わりを探すが自宅に予備がないのはわかっている。仕方なく庶務科に電話を掛ける。
「あ、もしもし、提督だけど」
「あら提督、どうされたんですか?」
電話に出たのは妙高だった。
「あのさ、扇風機って余ってないかな?」
「扇風機ですか? そうですねえ、宿舎に1個くらいならあるかもしれませんけど、ちょっと待ってくださいね、確認して折り返します」
「ごめんね」
一度電話を切って連絡を待つ。20分ほど経過して自宅の電話が鳴る。
「提督ですか。ごめんなさい、扇風機全部使っちゃってるみたいなんです。今年は例年より暑くて、みんな自室に持ってっちゃってました」
「ありゃ、それじゃ仕方ない」
提督にしてみれば涼しい夏であったが、これでもいつもより暑いらしい。この土地になれている艦娘たちにとっては少々厳しい夏なのかもしれない。
「どうされたんですか?」
「いや、うちのが壊れちゃってさ。だから代わりあるかなーと思って」
「そうでしたか。じゃあ買い替えるしかないですね」
「うん、そうするわ。ごめんね手間とらせて」
お礼とお詫びをして電話を切る。
「しゃーない、外行ってくるか。今日くらいしかヒマないしなぁ」
扇風機の代わりにうちわを手に取り仰ぎつつごろんと縁側に寝ころび、抜けるような青空を見ながら呟く。一度目を閉じる、すると見えないながらも視界が陰るような感覚がしたため目を開けると、目の前には二つの顔あった。
「こんにちは提督さん」
白露と村雨だった。自宅とはいえ鎮守府内、鍵もかけていないので誰の出入りも自由。そんなところに尋ねてきたようである。
「おう、どうした」
身を起こして二人を迎え入れる。二人とも休みなのだろう、艦娘としての制服ではなくプライベートの私服を身にまとっている。
「提督、この前言ったこと、覚えてる?」
村雨から思わせぶりな質問がくる。
「ん…? あぁ、もしかして」
思い当たるふしのある提督。
「そ、奢ってくれるっていったよね。ちょうど三人とも休みだし、今から外に何か食べに行こうよ」
白露から回答とそれに対する要求が告げられる。先日の料理対決時のお使いに対するご褒美をねだりに来たようである。
「ちょうどいいや。よし、二人とも付き合え」
渡りに船、出かけるつもりだった提督は二人を伴い鎮守府の外に買い物に出かけることを決める。