こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その2

 茂みに隠れて辿り着いた港を見ている先ほどの二人。その視線の先には大勢の人だかりができており、海の向こうを見ている。とあるものは大漁旗のような旗を持ち、とあるものは横断幕を掲げ、とあるものは花束を抱えている。

「…大歓迎じゃないの」

「なんで私まで隠れなきゃいけないの。てか提督、もう一度海に出てちゃんと正面から入ってきてくださいよ」

 顔半分を茂みから出しその光景を眺め、事の重大さを認識し

「いや、もう船いっちゃったし」

「さっきのところに1隻大発あったでしょう。それ使っていいですから」

「あぁ、そういえば」

 確かに、先ほど上陸した船着き場には1隻揚陸艇が係留されていたことを思い出した。

「いや、でもそれでくるのも不自然じゃ?」

「この際四の五の言ってらんないでしょ。とにかくこの歓迎を無駄にするわけにはいかないですから。ほらさっさと」

「まぁ、それもそうか…」

 男は腰をかがめたままそろりそろりとその場を離れようとする。自身の勘違い、というよりはあの漁船の船長が船を留めるところを間違ったせいでこんなことになってしまっている。音を立てず静かに静かにその場から抜け出そうとする。

「へくちっ」

 一緒にいた女性が急にくしゃみをする。するとその音に気付いたその大勢の中の最後尾にいた一人がそちらに気づき振り返る。

「ん? あれ、明石じゃん。そんなとこでなにしてんの?」

「やばっ!」

 時すでに遅し。エメラルドグリーンの髪をした女性が、男と隠れていた「明石」という女性に気づく。

「あぁ、いやね。もう着いたのかなーって」

 気づかれてしまっては仕方がない、その場に立ち上がり姿を晒す。そして男はというととっさに体を伏せ地べたに這いつくばっている。

「それがまだなのよね。到着予定時間はもう過ぎてるんだけど、まだ船も見えなくってさ。心配になって何人か海に出てるよ、すぐそこまでだけど」

 こちらに近寄ってくる女性。明石と呼ばれた女性の足元にはまだ男が伏せたままでいる。息を殺して体を硬直させ、死体のように存在を消す。

「ああそうなんだー(棒) 何もないといいねー」

「ホント、初日から遅刻だなんて。まぁ何事もなければ別にいいんだけど」

 茂み越しの会話、視線を落とせばそこには皆が今か今かと待っているその「提督」がみじめな姿で寝そべっている。

「ね、ねぇ夕張」

「ん、なに?」

「ちょっとこっちに来てもらえるかな。大きな声は出さないで」

 明石はその「夕張」と呼ぶ女性を茂みの向こうに招く。

「どうしたの? 大きな声って」

 茂みの切れ目から回り込んで、明石の横へと回る。すると当然だが遮るものがなくなったため、その明石の足元に寝そべる提督の姿が目に飛び込んでくる。

「ちょ!」

「だから!」

 叫びだしそうな夕張の口を思い切り手でふさぐ明石。そしてそのまま茂みの下へと強制的に身を潜めさせる。

「んーんー!」

「大丈夫、怪しいけど怪しい人じゃないから」

 矛盾しまくりの説明。しかしそうとしか言いようがない。ブレイクブレイクと夕張を落ち着かせる明石。少し落ち着いたところでふさいでいた口から手を放す。

「ちょっとこれ誰よ!?」

 小声で叫ぶように指をさしその地べたに這いつくばる男について明石に問いただす。

「えー、誰と申しますかそのー」

「なに痴漢!? 明石のパンツ覗いてたんじゃないでしょうね!?」

「あぁ、そう考えれば上見れば見えたのか」

 今まで黙っていた提督が夕張の声に反応して口を開く。と同時に、しゃがんだ状態の明石からの踏み付けが入る。

「おふ!」

「まぁこの状態見ればそう見えるかもしれなけど、そういうことではありませんので」

「じゃあ何よ。ってこの人軍人?」

 流石に身なりで気づかれるようだ。夕張という女性もその男が軍属であることを察する。

「その通り。で、この人が今そこでみんなが待っている提督なの」

 踏みつけたまま提督を指をさす明石。のちの上司であることを今はすっかり忘れているようだが。そしてその説明に視線を一瞬下に向ける夕張。思考に数秒、そして明石に視線を戻す。

「…ごめん、明石もう一回」

「えっと、新任のて・い・と・く・さん」

「…」

「Understand ?」

「………えぇーーーー!!! なんでこんなとこにいるのよ!?」

 ごもっともな反応、そして大声。その場に立ち上がり正直すぎるリアクションを取る夕張。当然「あっちゃー」という顔し天を仰ぐ明石と、色々観念した顔の提督。そしてその声は当然その場に響き渡り、海を眺めていた大勢が何事かと振り返る。

「どうした夕張。なにかあったのか?」

 いち早く一人の女性が夕張のもとへと駆け寄る。

「あ、矢矧」

「ん、なんだこの男は!? 不審者か!」

 矢矧と呼ばれる女性がすぐさまその横たわる提督を見つけ、そしてこれまた当然の反応をとる。顔はとても険しい。

「現状はそういう判定で問題ないと思います。ただ、後からの弁解がめんどくさいけど」

「であえ、鎮守府に不審者が入り込んだぞ!」

 この後のひと悶着は想像を絶するものだった。数名の関係者が後日匿名で語ってくれたようだ。

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