こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その7

扇風機をレジに運ぶ途中、別コーナーにいる村雨の頭上半分が棚越しに見える。「スマホコーナーに行く」といって別行動をとっていたが、どうも今いる場所はそこではない。レジに向かうついで村雨のもとに立ち寄る。

「何見てんだ?」

「あ、提督。えっとね、宿舎の談話室にあったポットが壊れちゃってさぁ。今お茶もコーヒーも淹れられないんだ。だから替わりに良いのないかなって」

「何だ、壊れちまってんのか」

 鎮守府内の知らない事実がここで一つ提督の耳に入る。入ることは滅多にない艦娘の宿舎。完全な出禁ではないが女の園に一人男が紛れ込んでも異物扱いされるだけで、お互い気まずいのは承知しているのからこそそこらへんは自重している。だかこそこういう小さいことはわからない、提督の耳には本来入ることなく庶務科で処理されてしまうことだろう。

「たぶんまだ庶務のほうにも伝わってないだろうし、今買っちゃおうかなぁって」

「なるほど…」

 それを聞いた提督。抱えていた扇風機を床に置き、おもむろに電話を取り出して鎮守府に電話を掛ける。電話はすぐにつながりそして会話もすぐに終わり、振り返りそして村雨に告げる。

「買っていいぞ、出してやる」

「え、いいの?」

「あぁ。それは経費で落ちるし立て替えておいてやる。好きなの選べ」

「やったー。ありがとう提督」

 鎮守府の長らしいことをする提督。どうせ自身の懐は痛まないので、ついでに済ませられるならと気を利かせただけである。村雨と白露が二人で物色し始める。

「提督、これでいい?」

 村雨が一つの商品を指さす。

「ん…、なんだこりゃ?」

 みると、それはポットというには程遠い形をしている。先ほどの扇風機と若干似ているのは真ん中が抜けているからだろうか。これで本当にお湯が沸くのか、若干心配になる提督。その珍妙な形をした機械をまじまじと見る。

「これでお茶淹れられんのか?」

「うん、ここにカプセルセットして…」

 村雨が解説してくれる。最近の家電にそう詳しいわけではない提督、村雨の言うことを丸々信用するしかない。なんか普通の安いのでも良さそうだが、涙目で懇願され結局押し切られてその品を購入することになる。

「最近のポットは結構高いんだな」

 提督の購入する扇風機の5倍くらい値段のするそのポット。その場に商品がないため札をもってレジに向かう。

「18,128円です」

「大事に使えよ」

「わーい、みんな喜ぶよ。ありがとうね提督」

 別に村雨の私物ではなく何十人もの艦娘が使うと思えば安い買い物だろう。それにどうせ経費で落とせるわけだから、と考える提督。だが、その経費が落ちることはなかった。そう、それはポットではないからだ…。

「さてと、次は明石のお遣いを済ますか」

 これで今この場にいる者の用事は全て済んだことになる。あとはお遣いである。明石と妙高、同じところで済むものではなかろう、おおよその察しは付いている提督。ならばまずは面倒くさそうな明石から。

「何頼まれてるの?」

「んと、なんだ。メモメモ…」

 ポケットに突っ込んである明石からのメモを取り出す。

「…、明石連れてくればよかった」

「え?」

 

 買い物はまだ続く。

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