こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その10

 そういうと、白露と村雨が提督の前に出てそのまま歩を進める。見るとその先には階段があり、その塔と呼ぶのが相応しいものの上部へと続いている。そのままひょいひょいと上りだす二人。それに続く提督。

「いいのか、勝手に上っても?」

 不法侵入にはならないか一応心配する提督。大人だし保護者だし、当然の不安。

「うん、平気だよ」

 振り向きもせずその問いに答える白露。全てわかっている、そんな感じの答え方だった。

「…」

 無言で二人についていく提督。見れば結構高い塔である。ざっと30メートルくらいはあるだろうか。あまり高いところが得意ではないので、上に行くにつれちょっとだけ足がすくむのがわかる。

 塔内部の階段を上り切り頂上へとたどり着く。一気に視界が開けその視線の先に見えたものは、広大な海だった。

「うぉ、すげぇ…」

 単調な表現だがそれ以上出てこない。オレンジ色の陽に照らされた広大な太平洋が提督の目に映っている。そして視線を少し右に移すとそこには鎮守府が見える。

「お、あそこ鎮守府か」

 高い場所であることを一瞬忘れてはしゃぐ提督。ぐるぐると360度パノラマの景色をこれでもかと眺める。そして一しきり見たところでやっと一つ置かれているものがあることに気が付く。

「ん、なんだこれ?」

 それに近づく提督。遠目からでもそれが何なのかは大体察しがついた。折れた棒状の物と錨、そして一枚のパネルのようなものがある。そして目の前までたどり着き、それがなんであるかを理解する。

「…これ」

「うん、私たちの誓い」

 提督の少し後ろから、白露が呟く。そこに書かれていた言葉はこう『不戦の誓い』とある。

 

 私たちは二度と誰かに砲口を向けはしません

 その奪った命の後ろにはその命を大切に思う人が必ずいるから

 私たちがある限りこの海の平和を守ります

 戦いを辞めて降ろした錨を二度と引き上げるようなことのないよう

 奪ったものは二度と帰ってこないのだから

 

「ここね、深海さんたちとの戦いが終わった後に作ったの。彼女たちと一緒に」

「これと同じものが深海さんたちの本拠地にもあるんだよ」

 静かに口を開いてここがなんであるかを提督に説明してくれる二人。それを二人に視線も向けずに黙って聞いている。折れた棒だと思っていたものは、砲身だった。恐らく艦娘か深海棲艦いずれかのものだったのだろう。それが錨と共にそのモニュメントに埋め込まれていた。

「今はもう戦うことはしていないけど、自分が何だったか、何をしてきたかを思い出すためにたまに来るようにしてるんだ。提督も案内したかったしね」

「提督も忘れないでね、そういう時があったこと、私たちがここに来るまで通った道のことを」

「…うん」

 静かに答える提督。大変ではあるが気楽な稼業と少し思っていたここでの提督業。しかしそれは誰かが築いたものだったということを忘れていた、それを恥じる。そして海とそのモニュメントに向かって目を閉じ手を合わせる。それを黙って見守る二人。穏やかな海、かすかに聞こえる波の音。ここに二度と響かせてはいけない音と声がある。それを深く刻み込むのにそう時間はかからなかった。

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