翌日
「あっついねー」
「うん、それには同意するけど…」
机に向かって仕事中の提督だが、なぜか聞き覚えのある声が窓際から聞こえてくる。
「あのさ、連日なんで俺の部屋にいるの? そして勝手に冷蔵庫開けて私物のアイス食べないでくれる? しかもそれ一番高いヤツだし、補充しといてよ?」
昨日に引き続き提督執務室でサボっている瑞鶴。備え付けの冷蔵庫からアイスを取り出し、提督が先日のドルチェグストの一件でタガが外れ、結局買ったダイ〇ンの扇風機を自分のほうへ向け、完全な暑さ対策をとって窓辺に寄りかかって外を眺めている。これで給料がもらえるのだからいい商売だ艦娘とは。
「あ、飛行機。そういえばそろそろ乗ってる頃かな鶴ちゃんたち」
はるか上空を飛んでいる飛行機を眺めて瑞鶴が呟く。明日、いわゆる本日熱海に立つといっていた深海勢が乗っているのではと短い飛行機雲を目で追っている。
「え、飛行機で行くの?」
「そだよ。さすがに遠いじゃん、北海道のさらに北から熱海までって」
「どこ経由?」
「さぁ、詳しくは聞いてないけど。たぶん羽田まで行ってから新幹線で熱海じゃない」
「てっきり海をいくもんだとばっかり思ってた」
「提督冗談キツいよ。私たちだって遠出するときは車だって電車だって使うんだから。あの子たちだって乗るっての」
カラカラ笑って答える瑞鶴。
「絶対なんかトラブル起こすよね…」
提督のその不安は大体当たっている。
…2時間ほど時は遡り女満別空港にて(最寄り空港)
「あ…あの、お客様。それは機内にお持ち込みはできませんので…」
「ン ナンダ ダメナノカ」
深海サーモンズのユニフォームに身を包んだ深海棲艦ご一行様が空港の搭乗ゲートで捕まっている。一見すると全員ユニフォーム姿で何を思ったか全員サングラス着用、メジャーリーガーの来日もしくは出国と勘違いしてしまいそうな光景だが、まごうことなき深海棲艦。そして早速金属探知で引っかかっている。というのも、彼女ら自身は問題ないのだが「あったかい海で泳ぎたい」というイ級が何匹かいたため、各自小脇に抱えて搭乗口へ向かった、そして鳴る。金属だからダメなのか生き物だからダメなのか、そんなことは読み手の判断に任せるが、どこのトラブルシューティングマニュアルにも書いていない事態に遭遇した空港職員がテンパっている。流石にここまで来て「一人で帰りなさい」も出来ないので、用心のために空港まで見送りに持ってきた(連れてきた?)三連装砲さんに預けてその場は通過する。イーイーと悲しそうに向こうで鳴いている。
「サテ トウジョウマデジカンガアル ロビーデクツロゴウカ」
「ウン」
ワンコがヒメコを連れて乗客の待機ロビーへと向かう。その途中にお土産を売る店があり、ヒメコの目に一つの品が目に留まる。
「アレ… レップウ?」
んなものがこの現代の空港においてあるわけもなく、それは航空機のミニチュア模型だった。ワンコの手を放し土産物屋へと駆け寄っていく。ほっぽから「レップウハイイゾ」と常々耳にタコができるほど聞かされていたため、それがどんなものか非常に興味があった。ショーウィンドウに並ぶそのミニチュアを食い入るように見るヒメコ。
「あらお嬢ちゃん、飛行機好きなの?」
「ウン」
店のおばちゃんが声を掛ける。
「コレ ホシイ」
「あら、じゃあ買う? お金持ってる?」
「ア… モッテナイ」
その言葉にシュンとして悲しそうな顔をするヒメコ。グラサン掛けてるのになんとなくわかる。そこに手を離されたワンコが後ろに立つ。
「ドウシタンダ?」
「コレ ホシイ」
「ドレ」
覗き込むワンコ。
「フム チョットタカイナ デキレバイマココデオカネハツカイタクナイノダガ アタミデツカエルガクガヘッテシマウ」
「残念だったねぇ。我慢して次買ってもらいな」
ヒメコを慰める店員のおばちゃん。
「ダガ コレナライマツカッテモ ゼンゼンカマワナイノダガ」
そういうと、カバンをごそごそとまさぐり始めるワンコ。カバンから引き抜かれた掌の上には、何やら黄金色に輝く小さなものが乗っている。
「スマナイ コレデコウニュウデキナイカ?」
「ん…なんですこれ?」
ワンコの手のものを摘まみ上げる店員、やたらと重い。
「『キン』トイウモノダ コレナラヤマホドアルノダガ」
「ええええええ!!!????」
当然驚く店員。さすがにどの程度の重さで時価どの程度かその場でわかりはしないが、確実にこんなミニチュア何十個でも買えるだけの価値があることは判断が付く。結局それを受け取り、一つ航空機のミニチュアをヒメコに渡すことになった。
「あ、ありがとうございます!」
深々とお辞儀をする店員と、それを許可した空港責任者。
「ワーイ ホッポニジマンスルンダ」
「ヨカッタナ」
待合ロビーに消えていく二人。数日後、熱海ではちょいとしたゴールドラッシュになったらしい。それはまた後程。