こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その3

 ひと悶着から1時間経過、先ほどの校庭というか鎮守府グラウンド。そこには鎮守府に配属されている全ての艦娘の姿があった。200名近い大所帯、きれいに並んでいるわけではないが、みな指令台のほうを向いている。

「みなさーん、集まりましたかー?」

 グランドの四隅にある柱上のスピーカーから声がする。指令台の横にはマイクを持った一人の艦娘がいる。

「はーい」

 数名から素直な返事が返ってくる。その返事を待っていたかのように次の言葉が発せられる。

「えっと、ではただいまより当鎮守府に新しく着任されました提督よりご挨拶があります。皆さん、指令台をご注目ください」

 視線が集まる。そして指令台の横からすごすごと先ほどの男性が姿を現し、途中横にいた艦娘からマイクを受け取り指令台へ登壇する。一部冷ややかな視線を送るものがいるが大体は温かい目で見守っている。

「あ、えー」

「おう、明石のパンツ何色だったー?」

 どこからかヤジが飛ぶ。当然見ていないので何も答えることはできない。集団の隅にいる明石は顔を真っ赤にしてうつむいている。

「えー、着任早々ご迷惑と大きな誤解を与えてしまい申し訳ございません」

 まず深々と頭を下げる提督。

「まったくだー」

「私たちの努力返してー」

 そこかしこから苦情が殺到する。それもそうだろう、結局あのまま見つかってしまった提督は、明石の提案のように海に出ることはできず、そのまま轢かれたカエルのような状態で出迎えを受けたわけである。あの後ろから見えた旗や横断幕は、すべて提督を歓迎するために作られたもの。その努力が水泡に帰した艦娘たちの心中や、察するに余りある。それでも一部横断幕などは今も掲げられ、一応の歓迎ムードは残っていた。

「では改めまして。本日付で当椴法華鎮守府に提督としての任を受け配属となりました、海軍少将『早良優護(そうらゆうご)』と申します。これからよろしくお願いします」

 改めて深々と頭を下げる。

「いらっしゃい提督ー」

「ようこそー」

「待ってたぜー」

 先ほどまでの冷たい言葉とは打って変わって、温かい言葉と拍手が巻き起こる。顔を挙げた提督の顔にやっと安堵の表情が戻ってくる。

「ありがとう。えっと…」

 次に何を言うか考えていなかった。仕事なのだから何かそっち関係の話をすればいいものだが、ひと悶着から抜け出すことばかりに頭が回っており、その後のことに関してはノープランだった。

「何話せばいい?」

 壇上から下にいる、先ほどマイクを受け取った艦娘に助言を求める。

「私に聞かないでください。別になければ終わりでもいいです」

「あ、そうなの」

「もう」

 少し口をとがらせて呆れた顔をする艦娘、彼女の名は『大淀』鎮守府における事務的なことの統括は彼女が行っている。

「じゃあ暑い中長々話すのも悪いんで、取り敢えず解散で。今後ともよろしくお願いします。何か用がある人は提督執務室まで遠慮なく来てください。あ、用は無くてもいいけどノックはしてね、それじゃあ」

 と、かなり雑に話を終える。

「いいぞーそのノリ、嫌いじゃねぇぞ」

 その声に手を振りながら壇上から降り大淀にマイクを返す。

「いいんですか、もう。以前の提督はこういう場ではもっと心構え的なことお話ししてましたけど」

「いいよ、そういうのは。話の長い校長先生は嫌われるよ」

「もう」

 少し膨れたような顔で提督を見る大淀。そして気を取り直してマイクに向かって話し始める。

「それではこれにて新任のご挨拶は終了とします。各自日常業務に戻ってください、解散」

 解散の合図で集まっていた艦娘が四散を始める。あるものは宿舎へ、あるものは鍛錬場へ、各々なすべきことをする場へと向かう。

「さってと。大淀さんだっけ」

「はい」

「簡単で構わないので、この鎮守府を案内してもらえるかな?」

「はい、もとよりその予定ですので。えっと、それじゃあどこから…」

 大淀の案内を頼み動き出そうとした刹那、数名の艦娘が提督のもとへと駆け寄ってくる。

「しれいかーん」

「ん?」

 声のほうを向く。しかし同じ視線の高さには誰もいない。少し視線を落とすと、そこには小さな艦娘が四人並んで立っていた。

「初めまして司令官、なのです」

「こんにちは!」

「本日はお日柄もよく」

「Очень приятно」

「はい、こんにちは。って君のは何語?」

「ああ、ごめんよ司令官。つい癖でロシア語が出てしまうんだ、初めまして」

「ああ、初めまして」

 小学生中学年程度の身長の子が四人、行儀よく並んで提督に挨拶をしてきた。

「六駆の子たちですね」

「六駆?」

「はい、左から電、雷、暁、響。響ちゃんはヴェールヌイとも呼ばれますが。本人どっちでもいいらしいので、人によって呼び方違いますけど」

 大淀が手を添えて紹介してくれる。

「なるほど、君たちが」

 事前に所属する艦娘に関する一覧には目を通しているため、所属艦の名前は認識している。しかし写真がなかったため名前と顔はここに来て初めて一致する。

「初めまして。今日は遅れてゴメンよ、横断幕作ってくれてたよね」

 少しかがんで六駆の艦娘に話しかける提督。

「そうよ、せっかく遠い海からでも見えるように大きいの作ったのに」

「おかげで寝不足Death、なのです」

「ごめんごめん。後でその横断幕ちょうだい、提督室に飾るから」

「ホント? 全幅10メートルはあるけど」

「…なんとかする」

「はい、それじゃあ提督はこれから鎮守府の中を見て回るので」

 大淀がポンと手を叩いて六駆の子らに解散を促す。

「はーい、じゃあまたねしれいかーん」

 元気よく走り去る4人。振り向いたその背中、一人不穏なものを隠し持っていたことに気づく。

「爆雷?」

「下手な返事してたらやられてましたね。ああみえて電ちゃん根に持つタイプですから」

「覚えておきます」

「さて、じゃあまずどこから…」

「間宮にいきましょう、私お昼まだなんで」

 主導権はないらしい。大淀の言うがまま「間宮」という施設なのか人のところなのか、そこへ向かうこととなる。

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