こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その5

「熱海、熱海ー。ご乗車ありがとうございました」

 羽田から京急で品川、そこから東海道新幹線で熱海まで。熱海自体は二度目の訪問だが、公共交通機関を使っての移動は前述の通り初めての深海勢。女満別でもあれだけ人目を引いたのだから、そりゃ東京ならその何十倍と人目を引く。空港から品川まで、彼女らが通るところモーゼの如く人が左右に割れ自然と通り道ができる。それを何の疑問も持たずにむしろ「東京とはいいところなのだな、道を譲ってくれる」と勘違いして歩いていく。当然写メやらムービーやらは撮られまくっているが、もちろん手は振るし笑顔で応える。

「ふう、着いたな。飛行機はちょっと焦りもしたが新幹線とはいい乗り物だな」

「ああ、来年も来れたとしたら今度は全て陸路にしようか。サッポロとやらまで行けば新幹線が通っているのだろう?」

 ホームに降り立ったワンコと戦艦姫が、乗ってきた新幹線を眺めながら早々と来年の計画を立てている。ちなみにまだ函館止まりです。

「うむ、自分の足ではなく文明に頼るのも悪くない。しかしこのアイス、まだ溶けないぞ?」

 戦艦姫が左手で全力で握りしめているカップアイスがあるが、乗ってすぐ買ったのにまだガッチガチの状態。スプーンすら刺さらないため握りつぶさんばかりに必死になって温めている。若干回りがジワっとしてきたくらいである。

 ホームから階段を降り改札をくぐる一同。すると改札の前に「深海棲艦御一行様」とプラカードを掲げた男性が一人立っている。

「む、あれは…」

「あ、ようこそいらっしゃいました皆様」

 サンハ〇ヤの法被を着た初老の男性、ある程度の役職と思われる人物が深海棲艦御一行様に深々とお辞儀をする。

「迎えか、ありがたい。今年も世話になる」

 代表のワンコが軽く頭を下げる。つられてヒメコも深々とペコリと。

「ではこちらへ、送迎のバスがございますので」

 従業員の男性に先導され駅の外に待つバスへと誘導される。駅前に出ると「深海棲艦御一行」と案内表示に記載がある団体用のバスが停まっている。ぞろぞろと駅から出てくる白と黒っぽい団体がオートメーションに乗る食品の如くスイスイとバスへ吸い込まれていく。扉が閉まりバスが動き出す。ここからまた40分程度伊東へ向けて移動が始まる。熱海旅行と目録に書いてあるのに宿泊施設は伊東とはこれ如何に。

「長旅お疲れと思いますが、今しばらくご辛抱ください」

 車内でマイクを握った先ほどの男性があいさつを兼ねて簡単に行程を説明する。

「なに、海を一昼夜くるよりは何倍も楽だ、気にするな」

「あ、すまない」

 今までずっと黙って乗り物に揺られていた鶴ちゃんがここで初めて手を上げて男性に何かを尋ねる。ちなみに一番前に座っている、運転席からの景色が見たいらしくヒメコと隣り合わせ。

「はい、なんでしょう?」

「ときわぎってどこにある?」

「え?」

「友人から土産を頼まれてだな、羊羹というものを探している」

 到着して早速瑞鶴からの依頼を済ませようとしている鶴ちゃん、義理堅い。

「あ…、それはこの街にございますが」

「そうか。なら少し寄ってはくれないか?」

「ですが、お土産ということならお帰りの際にお求めになったほうがよろしいかと。あまり日持ちもしませんし、帰りも送迎いたしますのでその際にということでは」

 丁寧に説明してくれる男性。

「そうか、腐っては仕方がない。では帰りに寄ろう。すまなかった」

「いえいえ」

 対応も済んだので乗務員用の席に腰かける男性。

「あ」

 窓の外を見ていた誰かが声を挙げる。

「すまない、バスを止めてくれ」

 ワンコが男性に声を掛ける。

「は、はい?」

 急な申し出ではあるがバスはゆっくりと路肩に停車する。そして扉を開けて一行が我先にと外に出ていく。何事かとそれを見守る男性と運転手。ほどなくして全員が同じものを手にバスの中へ戻ってくる。

「すまなかった。出してもらっていいぞ」

「は、はぁ…」

 全員の手にソフトクリームが握られていた。このくそ暑い中移動を繰り返してきたためアイス分が不足していた深海勢。30人近いメンツが同じ格好でソフトクリームを舐めている。全く恐ろしい光景ではないのだがそれを見ている案内役の男性は声には出さないが心の中ではこう思っている。

「…行儀が、いい!」

 戦艦姫だけはまだ新幹線の中で買ったアイスに苦戦している。一応買ったソフトクリームはちょっとずつ溶け出している。

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