こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その6

「いらっしゃいませー」

 ホテルに到着するとかなりの数の従業員が玄関でお出迎えをしてくれる。降り立った深海勢のその人数よりも多いだろうか、これほどまでのビップ待遇。昨年一体何があったのか気にはなる。

「わーい、ついたー」

 小走りで真っ先にホテルの中へと吸い込まれるヒメコ。その後をゆっくりと追うその他一同。

「いらっしゃいませ、ようこそおいでくださいました」

 女将がワンコに挨拶がてら声を掛けてくる。

「うむ、今年も世話になる。迷惑をかけるかもしれないが」

「いえ。あ、ところで」

「ん?」

「お連れ様が先におひとりいらしているのですが…」

 女将が手で示すほう、ホテルのロビーのソファーに掛けてグッタリしている水母水姫の姿がある。体こそソファーに投げ出しているが、視線はガッチリこちらを捉えている。気まずそうに目を逸らすワンコ。そのままホテルの中へと入っていく。そして水母水姫の前へ。

「やあ港湾よ、遅かったじゃないか」

 息も切れ切れ、ワンコに嫌味十割の挨拶をする。

「すまん…」

 目は逸らしたまま、水母水姫に対して謝るワンコ。自身に100%の落ち度があるため何も言い返すことはできない。

「まぁいい。取りあえず部屋へ行って風呂だ風呂。とにかく汗を流したい」

 重い体をソファーから起こして立ち上がる。そしてワンコの肩に腕を回して「運べ」といわんばかりに体重をかけてくる。

「うむ、そうしよう。ここの風呂は疲れが吹っ飛ぶ」

 一同はチェックインを済ませ、各々の部屋へと向かう。戦艦姫はやっと食い終わった新幹線アイスの器を従業員に申し訳なさそうに渡して捨ててもらっている。

 

 ワンコとヒメコの部屋

 

「ふぅ、やっと足が伸ばせるな」

 荷物を投げ出し畳のいいにおいがする和室に体を投げ出す。二人で使うには随分と広い部屋、本来なら4人で使うべき部屋だろう。そこかしこに彼女らがビップ待遇を受けていることが垣間見られる。

「おねぇちゃん、海がよーく見えるよ」

 旅の疲れはないのだろうか、ヒメコははしゃぎ続けている。ワンコはそれを少し離れた場所から見ている。むくんだ足を休ませている。

「コンコン」

 部屋の扉をノックする音が聞こえる。

「む」

 立ち上がり扉へ向かうワンコ。

「女将でございます」

 扉の向こうから声がする、女将だった。扉を開くワンコ。

「お休みのところ申し訳ございません。何か不都合はございませんでしょうか?」

「いや、何もない。とても快適だ」

 気になったのだろうか、部屋の様子を見に来た女将。それにしても異常なまでに過保護ではなかろうか、普通ならそう思うであろう接客。

「ありがとうございます」

「それだけか?」

「いえ、これを支配人から預かっておりまして」

 着物の裾から一通の手紙を取り出しワンコに手渡す女将。そして軽く会釈をして扉を閉め去っていく。その手の中にある手紙を眺めるワンコ。表面には何も書かれてはいない。

「なぁにおねぇちゃん?」

「なんだろう」

 手紙の封を開けようとすると、再びノックの音がする。再度扉を開く。

「さぁ、さっさと風呂へ行くぞ。浴衣に着替えろタオルを持て! 銭湯準備だ、銭湯ではなく温泉だがな!」

 そこにいたのは早々と浴衣に着替え入浴準備万端の水母水姫と集積地棲姫だった。文字に起こして変換しないとわからないジョークとともに現れる。

「わかった、すぐにいこう。ヒメ、着替えなさい」

「はーい」

 手紙を机の上に置き着替える二人。内容がわかるのは風呂の後か食事の後か、しばらく先になりそうである。

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