ピーッ!
「こらーっ! そこ飛び込まない!」
ホイッスルの音と提督の声が響き渡る。ここは鎮守府内のプール。現在午後1時を回った最も暑い時間。プールサイドの監視台に上った提督が、ダイナミック飛び込みをする艦娘を注意しているところである。隣には短パンノースリーブの格好にサンバイザーをかぶりメガホン片手に腕組み、同じく監視している瑞鶴の姿がある。
「よりによって今年一番暑い日に監視役ローテが回ってくるなんて…」
暑さでうなだれている瑞鶴。
「それを提督に手伝わせているのは、どこのどいつだい?」
「ポーカー負けたじゃん」
「あの勝負さ、オレが勝ったらアイス返してくれるで、負けたら監視役手伝うって。どっちに転んでもこっちにプラスにならないよね、ね?」
「いいじゃん、若い子らの水着がタダで見れるんだから」
「ガキンチョの見ても面白くないっての」
不服そうに答える提督。
「ほら、あそこで寝てるあの二人くらいがいいんだよオレは」
提督達とは逆のプールサイドには、ビーチパラソルとビーチチェアの完全装備で夏を満喫しているそこそこきわどい水着を着たリットリオとローマがいる。提督としてはそのおおらかなイタリア娘のほうがお気に入りのようで、それを指さしながら瑞鶴に告げる。
「っほっほー、提督さん喧嘩売ってる?」
提督のその発言にキレかけている瑞鶴。
「あれー、どうしました瑞鶴さん? 私何も言ってませんけど?」
瑞鶴のメガホンが提督の顔めがけて飛んでくる。ヒットしてそのまま監視台からプールへ真っ逆さま。
「ていとくー、飛び込まないで!!」
沈没した提督が駆逐艦に注意されている。
「はぁ、鶴ちゃん今頃温泉入ってるんだろうな。いいなぁ…」
※なお女性の胸のことを職場で冷やかすと現実ではセクハラに当たりますのでご注意ください
ドボーン!
「こらっ! そこ飛び込むな!」
大浴場にワンコの声が響き渡る。反響してさらに大きく聞こえる。たった今話題に上がっていた深海鶴棲姫こと鶴ちゃんが、10回転スピンにひねりを加えた見事なジャンプから湯舟へとダイブした瞬間だった。
「まったく…、子供ではないのだから。ってこら! そこも泳ぐな!」
一人叱りつけたと思ったらまた一人。今度は水母水姫が広い湯舟の端から端まで全力でクロールしている。ホテルのご意向で貸し切り状態のため他のお客様のご迷惑にはなっていないが、幹事というか引率の先生状態のワンコはそんじょそこらではしゃぎまわる深海勢に神経を張り巡らせている。
「お姉ちゃん、私もあっちで泳いでくるね」
「あ、こらヒメ」
ワンコが止めるのも聞かず、ヒメコも小走りで浴槽へと駆けていき軽くダイブ。水母ほどではないものの軽い犬かきで浴槽を右へ左へ泳ぎ回っている。
「まったく…」
当然だがここには女性しかおらず、タオルを肩から掛けているのみでまっぱのワンコ。腰に手を当ててその光景を眺めつつ、自身はかけ湯をしてからゆっくりと湯舟へとつかる。
「ふぅ…」
「カポーン」という音が聞こえてきそうな空間。だが、聞こえてくるのは数十名の深海勢がはしゃぎまわる大騒音。これっぽっちもゆっくり浸かっている余裕などない。顔に掛かる水しぶき、目の前を通り過ぎるスイマーの足が顔にぶつかり、後ろで誰かが投げ合っている石鹸がこめかみにぶつかる。3分と持たずに限界が訪れるワンコ。
「静かにせんかーーーーーーーーーっ!!!!!!」
※ご説明が遅くなりましたがワンコは温泉マニアでマナーに非常にうるさいのです
一瞬の静寂が訪れる大浴場。でもその静寂は1分と持たなかった。