「さぁ提督、こっちこっち」
すでに酔って出来上がっている古鷹と加古に両手を引かれ、だだっ広い談話室奥にあるソファーへと連行される。そのまま強制的に座らされ片手にグラス、もう片手にはマイクを持たされる。
「さぁ提督、まずは駆けつけ一杯。グイっといこう!」
「ちょ、ちょっと待て待て」
「ビールにします? それともシャンパン? やっぱシャンパンからだよね今日は。はいっ、どうぞ」
横から現れた大潮に無条件に酒を注がれる。
「ちょ、大潮おまえ…。あ、いいのか」
一瞬引っかかったがすぐにそのつっかえは取れた。一応艦娘は全員成人なので酒は問題なし、あんなこともこんなことも合法である。奥のほうで朝潮が泣きながら満潮と霞に絡んでいる。
「ではまず、提督からひと言頂戴しまーす」
予備のマイクを持った司会と思しき那珂ちゃんから促される。
「え、えっと…」
促されるまま立ち上がるが、言うことが思いつかない提督。
「なんか面白いこと言えー」
「つまらないこと言ったら承知しないぞー」
あちらこちらからヤジが飛ぶ、酒が入っているから余計にタチが悪い。考えている余裕もない提督は思ったことを口にする。
「えー…、今夜は健全に過ごしてるかーい!?」
バンドのボーカルが観客に問いかけるかのように、マイクを艦娘たちが大勢いるほうへと向ける。
「つまんねーぞ!!」
「やり直せ!」
「芸人辞めろ!」
ヤジが飛ぶ。
「芸人じゃねぇし!」
「俺は提督だ」と言わんばかりに反論する。
「その返しはおもしれーぞー!」
ピーピーガチャガチャ色々な音が鳴り響きその返しに関しては称賛される。げんなりした提督は続ける。
「えー、まぁどうしてこんなことが開かれているか、俺はさっぱりわからないわけだが。とにかく! 負傷、物損、二日酔い、明日のサボリ、色々問題なきよう楽しんでくれればそれでいい!」
一応鎮守府の長として最低限の言葉を艦娘たちに掛ける。「真面目かー!」とか声が飛ぶけどある程度好印象のようなのでまぁ良しとする。
「はーい、ありがとうございました。では引き続き開会宣言をしていただきます」
「え?」
終わったと思ったら、司会の那珂ちゃんに引き続き「宣言」とやらを促される。
「なにそれ?」
「はいコレ」
メモ紙を一枚那珂ちゃんから渡される提督。そこに書かれている文言を読めと無言でさらに促される。
「えっと…、それでは毎年恒例、恒例? 豪華賞品争奪…」
続きを読めば読むほどこれから行われるバカ騒ぎの様相が今から想像に容易く、これ以上読みたくないって思ってしまう提督。しかしここまで読んでしまってはもう止まれない、続ける。
「豪華賞品争奪…、かくし芸大会を…開催します↓」
読み始めたころからのテンションダウンが著しい提督に対して、それを読み上げられて開会を待っていた艦娘たちからはドッと歓声があがる。
「いよっしゃー! 今年は獲るぜー!」
「この日のために仕上げてきたネタ、思う存分…」
「金剛型の真価、見せてあげるデース!」
鳴り響くクラッカー、気合のこもった叫び声、おたまで叩かれるフライパン、とにかくうるさい。ここが人里離れた鎮守府で本当に良かった、頭に降りかかるクラッカーの紙吹雪を払うこともなくその光景を、そしてこの後起こるであろう惨事を想像する提督。
「豪華賞品? 予算は?」