午後3時過ぎ
「zzz」
「…」
「zzz…。ま、待って、トラットリアっ!!!」
コタツで寝ていた赤城が、意味不明な寝言を発したかと思うと、急に天高く腕を突き上げ起き上がり覚醒する。
「…おはようございます。どんな夢を見ていたのですか?」
こちらも向かいでコタツにあたりその様子を眺めていた加賀が、赤城に挨拶をするとともにその意味不明な寝言の正体を問う。
「あ…あぁ、加賀さん。おはようございます。いやですね、私がイタリアで食べ歩きをしている夢だったのですが、一つのトラットリアを食い尽くしてさて次に行こうと思ったんですよ。そうしたら急に、狙っていたトラットリアに足が生えて逃げていくんです。建物に足ですよ? 何をそんなに怯えているのでしょう、正夢でしょうか?」
「イタリアに行く予定があるのですか? それに建物に足が生えることはないと思うので正夢にはならないと思います」
「ですよねぇ」
店ではなく店員が逃げるケースは否定できそうにもないが、とりあえず夢の正体は判明する。乾いたのどに冷めたお茶を流し込んで脳を覚醒させる赤城。
「ところで、私が寝ている間に何かありましたか?」
「いえ、特には」
「そうですか」
「二航戦の二人は忙しそうに走り回っていますけど。さすがあの二人は燃費がいいですからひっぱりだこですね」
「そうですか。もうすぐ夕食だというのにあの二人も大変ですね」
その赤城の言葉に促されるように時計を見る加賀。まだ3時を過ぎたくらいなのにもう夕食の話とは。いつものことではあるが赤城の胃袋、生活リズムに多少の疑問を抱く。
「五航戦の二人はなにしてます?」
「あの二人はとにかく使い勝手がいいので、さんざんバケツかぶってフル稼働してます。私たちも早く唯一無二の何かが欲しいところですが、大本営は何をしているのかしら…」
憎い悔しい呪ってやる末代まで祟る、とまではいわないが今の五航戦の性能を少なからず羨ましく思っているらしい加賀。
「まぁいいじゃないですか。切り札は最後まで残すものです。それまでの間私たちは食べて待てばいいのです。腹が減っては何とひゃられふひょ」
コタツの上にあるお茶請けのお菓子に手を伸ばし、それをモサモサしながら加賀を諭す赤城。
「食べながら言わないでください…。それにちょっと前にも同じセリフを聞いた気がしますが…、まぁいいです。そうですね、我々は時を待っている、そうプラスに考えましょう」
しばらく沈黙が訪れる。そして廊下からトタトタと駆ける音が聞こえ二人の部屋の扉がノックされると同時に開く。
「赤城さん加賀さん、大変です」
飛龍だった。
「どうしたの? 戦局に問題でも生じたの?」
鋭いまなざしで飛龍を見つめる加賀。
「いえ、それが…。新米を積んだ輸送船団が深海勢に弄ばれて…。今晩の到着に間に合わないって。それで間宮さ…」
「仕置きが必要のようですね」
誰よりも早く炊飯器を片手に部屋を飛び出す赤城。食い物の恨みは人のそれを動かすには十分過ぎるものである。
「…なんで炊飯器持っていったの?」
「気にしないの、行くわよ…」
それはお高い南部鉄器で作られた内窯の炊飯器だった。夏のボーナスを充てたらしい。まだ一度も使われていないその炊飯器、今開けられたばかり、製品の箱と説明書が留守番として部屋に残っていた。