その1だけ
とある昼下がりの提督執務室横休憩室の雀卓
「…」
「…あ、それポン」
「うわ、役牌オンリー狙いだ。ダサ」
「うっさい」
「…」
「…通る、よな」
「ロンだ、対々和三色同刻ドラドラ。跳満だ」
「あー! そこ待つ!?」
「提督なんでまたフッてんのよ、もー」
「これでワンコちゃん親四巡目じゃない。うち三回も提督振り込んでるし」
「悪いな、18000点よこせ」
そういって提督から点棒を巻き上げるワンコ。
「でもあっぶなー、私もそれ切るところだったわ。提督がないてなかったらあたしだったわ。提督あんがとー」
朝風が全自動卓の中央に牌を流し入れながら提督に感謝している。
「提督、そろそろハコじゃありません?」
霧島が提督の点棒ケースを覗き込む。
「…、もう5千点ないな。さすがに次でツモるか最悪港湾の親流さないと」
「そう簡単にいくと思うか? 次で勝負を決めてやろう」
せりあがってきた雀牌を慣れた手つきで取っていくワンコが、自信たっぷり宣言する。
さて、なぜこんなことが行われているのかというと。しばらく前に深海棲艦が鎮守府を訪れた際、たまたま(本当にたまたま)提督執務室で数名の艦娘による麻雀大会が行われていた。それを覗いたワンコがいたく興味を持ち、提督室から麻雀の教本を持ち帰り島で読みふけりさらには通販で(?)牌と卓を購入。相手に困ることは無いが熱心さにかけてはワンコが天井抜けているため相手にならない。仕方がないので月1ほどのペースで鎮守府に足を延ばして相手を探している。その相手が今日は提督と霧島と朝風、だったというだけの話である。
「なんで数か月でこんなに強くなってるんだよ。鎮守府最強を越す日も近いんじゃないか」
「ふむ、今日不在なのが非常に残念だが。して、その筑摩は今どこにいる?」
「今日は…、収録だ」
雀姫:筑摩
最初は全く興味を持っていなかった筑摩だったが、姉の影響で麻雀を始めみるみるうちにその実力を開花。というのも始めた当初利根から「麻雀は負けたら脱がなくてはいけんのじゃ」と適当なことを言われ、それに抗うため眠っていたものが目覚めたらしい。覚えて数週間後、隣の部屋で打っていた利根がまっぱで提督室に駆け込んできたという事件が発生している。無論、今では鎮守府に敵はなく、副業でCSの麻雀番組に出る始末。相変わらずこの鎮守府副業に寛容である。
「フム、なら仕方があるまい。次の機会に是非」
「あぁ、ところでワンコさん」
霧島が港湾に声を掛ける。
「ずっと気になっていることがあったんですけど、イ級ちゃんとかヌ級とか、いるじゃないですか」
「あぁ」
「あの子たち、階級ありますよね。エリートとかフラッグシップとか」
「あるな」
「あれって、どうやって決めているんですか? やっぱり戦闘能力とか戦績とか、実力なんですか?」
「急だな、その話題」
提督が軽くツッコむが話は進む。
「確かに、見た目一緒なのにね。あぁ、でもちょっと目つき違うわね、オーラも」
朝風も不思議だったらしい。昔よく張り合っていたので顔はよく覚えているようだ。
「あれはな、試験があるんだ」
「え?」
「は?」
「なぬ!?」
サラリと答えてくれる港湾。その答えに驚く三人。
「半年に一度、実技試験と口述試験で優秀な成績を収めたものが階級が上がる。さすがに数が多いのでちゃんと名簿に残っている。誰それはエリート、誰はフラッグシップ、という感じに」
「フラッグシップってそういう意味だったっけ?」
「深海さんとは解釈が違うようですね…」
「てか、口述って…。イ級って喋れたの?」
「まぁ今となってはあまり意味のないものだが、個体識別に使うくらいか。あ…」
話を続けていた港湾の手が止まる。
「ん、どうした?」
「天和だ」
並べた自身の牌をパタンと倒す港湾。
「…」
「…」
「…」
提督、ハコ。半荘終了。