こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その2

「うーさむっ」

 北の二月は当然寒い。暖房の効いていない廊下を提督室へと向けて歩いている提督。視線の先に部屋の扉が見える、と思ったらその足元らへんに何やら置かれているものがある。

「ん?」

 気づく提督、目を細めながら近づくとそれがダンボール箱であることがわかる。

「なんだこりゃ?」

 扉の前にたどり着き、しゃがみこんでそれを見ると正面に「提督へ(ギリ)」とマッキーで書かれているのがわかる。そして半閉じの箱の中身を覗くと何やら色とりどりのものが山と入っている。

「…あぁ、そうか」

 この手のイベントには疎い提督でもさすがに今日が何月何日でこれがなんであるか気が付いたようである。その場でふたを開けることはせず、そのまま両手で段ボールを抱え足で扉を開いて部屋の中へと入る。ストーブに火をつけてカーテンを開ける。換気と一酸化炭素中毒防止のために少しだけ窓を透かす。その隙間から冷たい空気が流れ込んできてまた身が縮こまる。先ほど持ってきた段ボールは机の上にドンと置かれておりまだ何も手付かずの状態。というのも「やったんだから返せよ」というその数十の無言の圧力から目を逸らしているだけという話もある。

 しばらくして部屋も暖まり、さて本日の業務に取り掛かろうと思ったが、流石に後回しにしては申し訳ないと、覚悟を決めて段ボールを開く。

「うわぁ…」

 中を見てつい声が出てしまう提督。「ギリ」という文言は伊達ではない。一つたりとも「気持ちを込めて作りました」などというものはなく、ほぼ市販品のチョコがそのまま放り込まれているだけであった。中には封が開いているものまである。しかしそれぞれにしっかり名前は書かれている。見返りは求めているようだ。

「雑過ぎる…」

 見なかったことにして段ボールの封を閉じて机の横へとそっと置く。しばらく糖分には困らないだろう、そうプラスに考えて書類を手にして椅子へ腰かけ業務を始めようとする。するとその刹那扉をノックする音が聞こえる。

「はい、どうぞ」

 確実に聞こえる声で入室を促すが誰も入ってこない。不思議に思った提督は改めて立ち上がり扉まで歩を進めて扉を開く。

「あれ?」

 誰もいなかった。と思ったが、廊下の奥曲がり角に消えていく姿を一瞬捉えた。そしてしばらくすると、昨日どこかで見た長物がその曲がり角からはみ出しており、隠れているつもりなのだろう、一人の艦娘の姿がチラチラどころかガッツリ見切れている。

「…神風、だよな?」

 そう、彼女がチョコをお見舞いしにやってきたのである。

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