こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その7:終

 旗風脱落後、鎮守府内を一しきり駆け回った二人。最後に行きついたのは港だった。その先は海しかない桟橋の先に神風が、その後ろにはとうとう追い詰めたといわんばかりの提督の姿がある。鎮守府を一周してしまったもんだからなんだなんだと野次馬が押し寄せ、提督の後ろには数十名のギャラリーがいる。そのギャラリーの見解は当然「提督が神風に強引に迫っている」という、本来とは完全に逆の構図であった。ドン引きしながらそれを見守って(?)いる。

「い、いい加減に渡すんだ…」

「うぅ…」

 息も絶え絶えじりじりと詰め寄る提督、涙ぐみながら後ずさりする神風。そしてとうとう足場がなくなり追い詰められる。艤装も付けていないため海に逃げ込むこともかなわない。

「い、いやぁ…」

「なんでそんなに嫌なんだよ。って、もしかして…」

 頑なにそれを渡そうとしない神風。もしかすると自分はとんでもない勘違いをしているのでは、なんてことを考える提督。近寄る歩みを一瞬止める。すると次の瞬間神風が提督の横をすり抜け攻守が逆転する。

「しまった!」

 今度は提督に後がなくなる、あくまで位置的な問題ではあるが。こうなってしまうとまた追いかけっこが始まってしまう。なんとかここでケリを付けねばなるまい、思い切って思っていることを口に出す。

「神風! お前の思いはちゃんと受け止める、さぁそれをよこすんだ!!」

 告白にも似た叫び。ギャラリーから驚きにも悲鳴にも似た声があがる。

「ひっ!」

 ひるむ神風。

「さぁ!」

「ひぃぃ!!」

 詰め寄る提督

「さぁ!!!」

「ひぃぃぃぃ!!!」

「さ…」

 これで落とす、と気合十分声をあげようとしたその刹那。

「いやぁぁぁぁぁぁ、来ないでぇぇぇぇぇっぇ!!!!!」

「え?」

 提督の声をかき消すほどの大きな叫び声と共に神風は抱えていたチョコの包み、ようは魚雷であるがそれを提督めがけて全力で投げつける。あって5メートル程度の提督と神風の距離、かわす間もなくそれはどストライクに提督の腹に突き刺さる。

「!!!!」

 身体がくの字に曲がりそのままの体勢で宙を舞い海へと投げ出される提督。だいたい30メートルほどは沖にいっただろうか、波しぶきが上がるのが確認できる。

「おぉ!」

 ギャラリーが今度は感心したというニュアンスの叫び声をあげる。そしてその横を一目散に駆け抜けて港から消えていく神風。

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 勝負は決した、そして目的もある意味果たされた。冬の海にピンクの紙に包まれた魚雷だけが浮いている。

「…、提督浮いてこないですって」

 見物のろーちゃんが提督が沈没してから1分後くらいに呟く。

「…」

 誰一人言葉を発しないギャラリー。

「マズい!!! 潜水艦ズ、誰でもいいから提督をサルベージしてこい!! さすがに死なれちゃヤバい!!」

 事の重大さに気づいた天龍が指示を出す。

「えー、さむいしー」

 誰一人として海に飛び込む者はいない。着こんだろーちゃんなんか聞いてすらいないだろう。最終的に大発を持ち出してサルベージ用のクレーンで引き揚げられた提督。どうなっているかは言うまでもないだろう。

 

 …その夜

 

「えへへ、司令官にチョコ渡しちゃったぁ」

 部屋のベッドでデレデレしながら独り言をつぶやいている神風がいた。その後発覚したことだが、神風は極度の照れ屋のため渡そうにも渡せずずっと機会というか隙というか、そんな感じのタイミングを狙っていたらしい。結果彼女の思いは遂げられ今に至っている。

「全部食べてくれたかなぁ、お返しなにくれるかなぁ。今度はデートに誘ってみようかなぁ」

「姉さん…」

 二段ベッドの下では両手で顔を覆い色んな意味で涙で枕を濡らしている旗風。今回の被害者その弐は今後の姉の扱いと矯正をどうするか真剣に悩みながら眠りについた。

 

 提督はと言えば、当たり前のように風邪をひき一週間ほど寝込んでしまった。その間の業務はというと、ろーちゃんがガラクタ置き場から回収してきたペッ〇ー君の胸に「てーとく」(くの字が逆)と名札を張り付けたものが代行していたという。当然何もできないので書類は溜まった。

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