ガチャン
ゆっくりと大きな扉が閉まる。その前には秋雲と提督が二人茫然自失といった状態で立ち尽くしている。部屋の奥に進むこともなくただただその場で立ち尽くす。しばらくの後提督が一言その場の空気をなんとか打開しようと奥から絞り出すように発する。
「き…、綺麗な部屋だね?」
「だね?」なんて言い方普段はするはずもなく、相当の緊張が伺える。
「そ、そうね…」
その問いかけに対し秋雲も秋雲で、いつもはしないような女の子っぽい返しをする。
「…」
「…」
言葉が続かない、そしてどうしても部屋の中へと歩が進められない。それもそのはず、この部屋はツインルーム。そう、提督と秋雲はこれから二泊三日を同じ部屋で過ごさなくてはならないのだ。
「なんでツインなんだよ!? シングル二つ取ってたんじゃないのか?」
「まさかこんなことになるとは思わなかったんだよー! 風雲と一緒に来る予定だったし、そんな直前で部屋チェンジ出来るわけないし、原稿のこともあってすっかり忘れてたんだよー!」
堰を切ったように双方が言いたいことを言い放つ。どうしてこんなことになったのか。というのも本来、今日という日は風雲と一緒に行動する予定だったが、風雲が急におたふく風邪なんかになってしまったものだから、取り敢えず帰省で同じ方向へ向かう提督に声を掛けた秋雲。その理由は「部屋代一人で払うのがイヤ」というだけのこと。まぁ自業自得である。
さっきホテルの入り口で立ち止まったのはそのことにハッと気づいたため。さてどうしよう、とりあえずチェックインしないわけにもいかないのでフロントまでは超牛歩で行くことになる。しかしフロントで顔なじみの受付に「あら、今年はカレシさんと一緒なのね」と言われあっさり気付かれてしまう。繋ぎたくもない手をこれ見よがしに繋いで鍵を受け取り今この部屋まで来たわけだ。
「いや、いくらなんでもまずいだろう。特定の艦娘と提督が同じ部屋でベッドこそ違えど二日も一緒に過ごすだなんて…。間違いが起きなきゃいいんだが…」
頭を抱える提督。
「えっなに!? 提督間違い起こすつもりあんの? 私のことそういう目で見てたの!?」
自身の両腕を抱えていかにも「襲わないで!」といった感じに身構える秋雲。
「しねぇよ!」
「だ、だよねー…。私なんか襲わないよね…」
「…」
秋雲のその言葉にちょっと顔が赤くなる提督。
「…マジ?」
「と、とにかく。断じてそういうことはしないから、とりあえず平常心に戻ろう。お互いおかしくなっている。飯でも食って落ち着こう」
「そ、そだね」
大人の提案をする提督。覚悟を決めて部屋の中へ進み、荷物を置いてソファーに腰かけ一息つく。
「あー、疲れた」
「そだねー。あ、混むから早めにご飯行こうか。コミケ帰りの客でここら辺めっちゃ混むんだよねー」
「ふーん。そんなに?」
「うん、1時間待ちとかザラだしねー」
「なるほどねー…」
たわいもない会話。
「なぁ」
「ん?」
提督が秋雲に尋ねる。
「それだったらどっか別のとこ行ったほうが早くね?」
「…あー…」
宙を見上げたまま口を開けたまま、思考が止まる秋雲。
「よし、ちゃんとしたとこ行くか」
目的地は今この瞬間変更される。
「あ、じゃあ先に荷物バラしとこ」
ソファーから立ち上がりベッドの上にスーツケースを置き広げる秋雲。それを何の気なしに見ている提督。すると開いたスーツケースの一番上には、見慣れない布地が並んでいる。そしてそれがなんであるかすぐに気づいて目を逸らす。
「…秋雲、結構エロいの履いてるんだな…」
「見るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
間違いが起こる可能性、5%上昇。