こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その3

 電車に揺られ、海のそばから東京の街中へと繰り出す二人。電車の中は例のコミケとやらの帰りの客でごった返していた。東京は仕事では来るものの、こういったプライベートしかも完全なる未知との遭遇に、提督はその見たことのない人種や生態などを観察するのに飽きることはなかった。そして提督の言う「ちゃんとした」飯にありつくためにある店へ入る。

 

「なぁていとくー」

「なんだよ?」

「ちゃんとしたって、言ったよね?」

「言ったな」

「言ったよね」

「嫌いか?」

「嫌いじゃないけどさ、むしろ好きなほうだけど」

「じゃあ食べよう。ここは奢るから」

「そお? でもさぁ…」

「でも?」

「なんで東京チカラめしなわけ?」

「仕方ねぇだろ、どこもかしこも満席だったんだ。取りあえず前菜ってことで、どこか見つけたらハシゴする、それでいいだろ?」

「あーもう、東京出てきて最初のご飯がジャンクフードって」

「サイゼでもマックでも似たようなもんだろ、文句言うな!」

「まぁ若干予想はしてたんだよねー。コミケ帰りの客でどこもかしこも満席になってんじゃないかなーって」

「わかってんなら言えよ」

「いやでもさー、提督を立てるというかなんというか。エスコートしてくださるというのならそれに甘えないわけにはいかないじゃん」

「どっちかというとこの旅行のエスコートはお前だぞ?」

「それもそうか」

「ま、とりあえず食っちまおう。わりと待ってる人も多い」

「なんだかなぁ、落ち着かない…」

 どんぶり飯を一気にかきこむ二人。つけ添えの味噌汁を飲み干して手を合わせてご馳走様。滞在時間約10分、そそくさと店の外へ出る。

「取りあえず多少腹は膨れたな」

「一応ね」

「さて…、どうする?」

 秋雲に尋ねる提督。

「そうだねぇ、せっかくここまで来たんだし。明日に差し支えない程度にブラブラしていこうか?」

 時間にしてまだ6時を少し回ったくらい。明日は特に決まった予定はなく自由。秋雲の出展は明後日らしいので今晩は比較的余裕がある。腕時計を見てから周りを見渡す提督。

「秋雲、行きたいところは?」

「アキバには行きたいけどねー。でも今の時間からじゃお店も閉まり始めちゃうし、ゆっくり見て回れないから明日でいいかな」

「なるほど」

「提督は?」

「オレは、そうだなぁ…。やっぱ取りあえずどこかゆっくり座って一杯飲みたい気分だな」

 椴法華よりは暖かいとはいえ冬の東京も寒い。チカラめしだけでは満足も出来ず、酒と肴を欲している。

「よし、じゃあこの辺り歩きながらお店でも探そうか」

「よし、そうすっか」

 意見が一致して歩き出す二人。と思ったところに後ろから声が掛かる。

「あの、すいません」

「はい?」

 二人そろって返事をして振り返る。するとそこには全く知らない男が一人立っていた。見ると手にはコミケの戦利品と思われる品の数々が入っている大きいカバンを携えていた。

「もしかして、オークラ先生じゃないですか?」

「あ! え? はい、そうですオークラです」

 一瞬「げ」という顔をしたが瞬時に営業スマイルへと変貌する秋雲。その顔で何となく察する提督。

「あぁやっぱり。こんなところで会えるなんて偶然だなぁ。明後日の新刊楽しみにしてます!」

 その男は差し出してもいない秋雲の手を取り握手をしてブンブンと振る。

「あぁ! どうもどうも! 是非いらしてください、お待ちしてますから!」

 秋雲も超作り笑いで対応する。その光景を秋雲の横で提督は「大変やな」と声には出さないが無言で見守っている。

「ところでこちらの方は?」

 声も出さずなるべく気配を消していたはずなのに、流石にスルーは無理だった。その男が提督の存在について尋ねてくる。

「あ、あぁこれ?」

「お前、上司にむかtt」

 男の視界の外で思い切り提督の足を踏む秋雲。提督の発しかけた言葉が止まる。

「っっっ!!!」

「明後日の売り子兼軍コスしてくれる知人でねぇ。サクチケ渡すために会ってたのさ」

「あぁそうでしたか。明後日は大変でしょうけど頑張ってくださいね」

 にこやかに提督に微笑むその男。しかし秋雲のように手は取らない。

「お、はい…」

 ブーツのかかとは相当痛かったようでまだ声がちゃんと出ない。

「しかし本当に軍人さんみたいな雰囲気ですね。本物だったりして」

 変に勘のいい男。一瞬ギクッとする提督と秋雲。

「ラガーマンなの、アメフトもやってたっけ?」

「そうそう、アメフトを少々…」

「あぁ、なるほどー」

 納得させる。

「あ、じゃあ僕も人と会わなきゃいけないので失礼します。じゃあオークラ先生、また会場で」

「はーい」

 手を振ってその場を後にする男。それに最後の営業スマイルで応える秋雲。

「…行ったか」

 秋雲の顔が一気に真顔に戻る。

「秋雲、加減…」

 その場にうずくまり足をさすりながら提督が言う。

「ゴメン、急だったから」

「客か?」

「うん、流石に一人一人覚えちゃいないけど」

「オークラって?」

「…ペンネーム」

「軍コスって?」

「それはゴメン…」

 提督の問いによどみなく答えていく秋雲。色々化けの皮とプライベートの恥部が剥がれていく感じがしてとてもつらい。ここにいるとまた次がないとも限らない。早々にその場を離れて見つけた個室居酒屋へと消えていく二人。

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