こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その4

 結局3時間以上も飲み屋に滞在して現在11時少し前。店を後にする提督と秋雲。

「ぐおおおおおお、重いぃぃぃぃ!!!」

 全体重が提督の背中にのしかかる。居酒屋で調子に乗った秋雲が完全に酔いつぶれてしまい、目を覚ます様子がミジンコもない。仕方がないので提督がおぶって帰ることになるのは当然だが、子泣き艦娘と化した秋雲は軽いはずなのに重い。必死になってホテル最寄りの駅までやっと到着して、今一歩一歩足を踏みしめながらホテルへと到着する。

「すいません、815号室の早良ですけど、鍵を…」

「おかえりなさいませ。あら彼女さん寝ちゃったんですね、豪快に」

「ええ、まぁ…」

 彼女ではないのだがと言いたいがそれは別の誤解を生みかねないので引っ込める。鍵を受け取りエレベーターへと向かう。2機あるうちの2機とも徐々に下へと降りてくる。片方が途中誰か宿泊客を乗せるのに止まったため、ほぼ同じタイミングで1階へと到着する。ほぼ同時に開く扉。人が乗っていないであろうほうへと移動する提督。

「よっと」

 ずり落ちかけた秋雲をもう一度背中の中央に戻していざエレベーターへ。エレベーターに乗り込んで踵を返し、閉まる扉越しに今降りた宿泊客だろうか、女性の姿が視界に入る。

「…ん?」

 扉が閉まりエレベーターが上昇する。一瞬ではあった、何か引っかかるものがある提督。今の女性に対してだろうか、それとも何かほかに忘れていることでもあっただろうか。今すぐピンとこないのでとりあえず思考の中心からは除外する。そしてエレベーターは部屋のある階層に到着する。

 

「とうっ!」

 ボフッっという豪快な音とともに秋雲がベッドに投げ出される。しかしこれっぽっちも起きる気配はない。軽くいびきをかいて寝続ける秋雲。さすがに室内でエアコンが効いているとはいえ冬である。ホテル特有の突っ張った敷き方をしている布団を秋雲の下から強引に引っ張り出して上にかける。室内灯の調光ダイヤルをいじって少し暗くする。スタンドライトを付けて提督はソファーに腰かけ一息つく。

「はぁ、疲れた…」

 上着のボタンを外して首元を緩める。髪をかき上げるのと同時に顔を上げて天井を見上げる提督。少しボーっとしたあとまだカーテンを閉めていない窓のほうへ目を向けると、目の前にはあのけったいな建物がそびえたっている。立ち上がり窓際へと歩を進めて眼下を見ると、こんな時間にもかかわらずそこそこの数の人間がいる。

「この寒いのになにしてんだか」

 窓に肘をついてそれを眺める。しかしすぐに窓越しの冷気が伝わってきて体が冷えてくる。腕を放してその手を腰に当てる。何が行われているのかもわからないそのイベントにたまたま来てしまったズブの素人。明日になれば少しは何か感じるものでもあるのだろうか、そんなことを考えながら窓際から離れて部屋のバスルームへと向かう。バスルームのノブに手を掛ける、がすぐにベッドのほうに戻り、スタンドライトを消す。恐らく秋雲への配慮だろう。入り口側のスポットライトを代わりに灯してバスルームへと消えていく。この様子なら「間違い」なんて起こることもないであろう。一瞬の欲に負けるような人物だったら、そもそもあの鎮守府の提督として送り込まれていない。それを知ってか知らずか、がおがおと寝続ける秋雲、幸せ者。

 

 

 

「今年もここに来れた…。姉さん、本当にごめんなさい」

 先ほどホテルで提督が見かけた女性が、暗闇にそびえ寒風吹きすさぶビックサイトを前にして呟いている。さて何者だろう。

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