こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その6

「で、提督今日どうすんの?」

 朝食をつつきながら秋雲が提督に問いかける。当然だが秋雲は今日一日コミケの会場を様々な用事でぶらつくわけだが、提督に関してはその縛りはない。一緒に行動をする必要もないわけであって、その予定を確認する。

「んー、そうだな。特にそのコミケとやらに用はないからな。街でも行ってブラブラすっかな。んで飽きたらホテル戻って寝る」

「そっか。でさぁ…」

「ん?」

 秋雲が食事の手を止める。そして両手の人差し指をわざとらしく突き合わせている。

「もしよければーなんだけど。4時過ぎくらいに戻ってきてくれないかなぁ。明日の搬入とか設置があるから手伝っていただければーと」

 申し訳なさそうに胸のあたりで手を合わせて提督にお願いする秋雲。そう来るだろうと予想はできていた提督は、少しだけ苦虫を嚙み潰したような顔で何も声には出さず秋雲を見る。

「提督をこき使おうたぁいい度胸だな」

「バイト代出すからさぁ」

「要るか。なんで部下からそんなもんもらわにゃあかんのだ」

「ですよねぇ」

「まぁいいよ。どうせ最初からそのつもりだったんだろうし、風雲がいない時点で覚悟はしていた」

 少し口答えはしたがすんなり秋雲の申し出を了承する提督。

「ホント!? いやーマジで申し訳ないです…」

 手はそのまま、頭を深々とテーブルにこすりつけるように下げる秋雲。

「しかしだぞ、これだけの人でオレおまえんとこ辿り着けるのか? 会えるか心配なんだが」

「それに関しては迎えに行くのでご心配なく。羅針盤も電探も持たずに大海原に繰り出すみたいなもんだからね。私は頭の中に全マップ叩き込まれているのでご安心を」

「割りとわかりやすい例えでありがたい」

 百戦錬磨の秋雲に隙は無く、この場に関しては秋雲に頼れば問題ないということで決着する。

「じゃ、さっき言った通り4時くらいにはここらへんに戻ってるようにするわ」

「よろしくおねがいしまーす」

 再度頭を下げる秋雲。残りの食事をたいらげコーヒーを飲み干し、二人そろって部屋へと戻る。秋雲は最後の化粧チェックなどを行い身支度を済ませ「では戦場へ」と、勇ましく敬礼して先に部屋を後にする。それを見送った提督はまだ動くには少し早い時間ということもあり、再度ベッドに横になる。早かったので少しウトウトして、次に目を覚ましたのは部屋掃除のノックの音がした時だった。

 

 

 時はさっさと過ぎ去りもう約束の4時が近づいている。日は傾き海から吹いてくる風が冷たい。余裕を持って戻っていた提督は、別に律義に外で待つこともないだろうと一度ホテルに戻り、ラウンジに併設されている喫茶店でコーヒーを飲んで一服していた。

「さて、ボチボチ時間かな」

 腕時計を見て呟く。カウンターテーブルに置いたスマホに視線を送って、秋雲からの連絡がこないかと待っている。するとタイミングよくスマホが鳴動する。

「あいよ」

「あ、提督。いまどこ?」

「ホテルのロビーだ。休んでた」

「あぁ、流石っす。じゃあどうしようかなぁ」

「なるべくわかりやすいところにしてくれ。この人ゴミだと待ち合わせしても会えない恐れすらありそうで怖い」

「だよねー。コミケ初心者あるあるだからねー」

 秋雲が何を言っているのかわからない提督。

「じゃあ私もホテルまで戻るよ。まだ時間に余裕あるし」

「そっか、助かるわ。じゃ待ってるわ」

 そういって電話を切る。動く必要がなくなった提督はもう一杯コーヒーをおかわりする。窓の外に流れる大勢の人の流れを、まだ珍しそうに眺めている。

「なんであんな紙袋持って歩けるんだよ…」

 目を覆いたくなるようなイラストの描かれた大きな袋をかかえた紳士(?)たちが満足そうに、今から行くであろう会場から戻ってきて駅に向かっていく。もちろん多くの女性も歩いているが、そういったものは気にならないのか、彼女らは彼女らで楽しそうに歩いている。それほどまでに人を惹きつける空間なのだろうか、ますます不思議になる。そして一度外から視線を逸らして室内に目を向ける。すると昨日見かけた女性客がホテルに戻ってくる姿を目で捉える。

「…ん?」

 綺麗な二度見、意識の中で何か引っかかるものがあったのだろう。しかし遠いのではっきりとはわからない。その女性客もなんだか大きなカバンを抱えているのだけはわかったがそこまで、提督の視界から消える。

「既視感、かねぇ」

 結論は当然のように出ない。気にはなるが流石に後を追うのは犯罪スレスレ。忘れることにしようと考えたところに「お待たせ」と秋雲が到着する。数十秒の後、その女性のことは頭の中から消えていた。

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