こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その7

 前日搬入という名の力仕事全般を手伝わされる提督。ようやく解放された時には日は完全に沈んでいた。鎮守府の体育館がかすむほどの大きさの建物、中は祭り特有の浮足立った雰囲気が充満している。

「やることけっこうあんだな。それなりに疲れたぞ」

「あんがとー提督、一人じゃまず無理だったわ。あーおなか減った」

 設置が終わり自身のブースの椅子にどっこらしょと腰を落とす秋雲。

「何だ、飯食ってないのか?」

「そりゃ当り前よ。ご飯食べてる時間あったら一つでも多く一人でも多くってのがコミケのモットーだからね。あー腹減った」

 提督の問いに答えながら天を仰ぐ秋雲、若干魂が抜けている。

「じゃあ飯行くか。今日は近場でいいよな?」

「んー、もう遠くまで歩く気力ない」

「ホテルにくっついてるマックか、それこそホテルの食堂でいいか」

「んだねー、早めに寝たいし」

「よし、じゃあホテルに戻るか」

「おし、そうしようそうしよう」

 テーブルに軽く腰を掛けていた提督と椅子に座っていた秋雲、同時に立ち上がる。さてホテルへと足を一歩踏み出そうとしたその瞬間、目の前をよく見る顔が通り過ぎていく。

「え?」

「あれ?」

「ン?」

 通り過ぎる人物も気づいたようで二人の目の前で立ち止まる。

「ナンダ、コンナトコロデナニヲシテイル?」

「こっちのセリフだよ!」×2

 戦艦棲姫だった。高そうな私服に身を包んでいるが、顔は変えられない。一発で気付く二人。なぜ北海のご近所さんがこんなところにいるのだろう。

「なんでお前がこんなところにいるんだよ」

「ナンデトハシツレイナ、アシタシュッテンスルンダ。ワタシノシャシンシュウヲウルヨテイダ」

「えぇ…」

「ああ、そういえばモデルやってたね」

「ウム。ソノエンチョウトイッテハナンダガ、コスプレトヤラモヤッテイテナ。シゴトノシリアイニダシテミタラドウダトイワレタノデ、コンカイハジメテキタノダガ」

「左様ですか」

「ヤタラコエヲカケラレルシシャシンヲトラレル。ココハコウイウモノナノカ?」

「ま、まぁそういうとこ、かな…」

「ナルホド。ナレテイルカラベツニイイノダガ。ソウイエバオマエモナニカダスノカ?」

 一通り質問に答えた戦艦棲姫が秋雲に質問を返してくる。

「え、あ。そうそう。私はもう何度も出しているんだけどね、本を! よければ一冊」

 平積みした自身の同人誌を戦艦棲姫に差し出す。

「ン、イイノカ? スマナイ、ジャアアシタニデモワタシノシャシンシュウモモッテコヨウ」

 差し出された本を受け取る戦艦棲姫。初めてなのにコミケの暗黙のルールをしっかり理解しているようで、明日写真集をもらえることになった。

「ム、ヒトヲマタセテイルノダッタ。デハマタ」

 颯爽と踵を返しその場を後にする戦艦棲姫。

「あぁ、ごめん。またねー…」

 手をグーパーグーパーして別れの挨拶をする秋雲。人ゴミの中へと消えていく戦艦棲姫の後姿を無言で見送る提督。あまりの衝撃に中々声を発することができない。

「ランウェイ歩いてるみたいな歩き方だな」

「うん、スタイルいいし綺麗だからそりゃ写真も撮られるわ。しかし、まさか深海さんがいるとは思わなかった…。ブースどこだろ?」

「あれじゃねぇか?」

 提督が指をさすその先には、16inch三連装砲さんがいる。恐らくだが力仕事を任されているのだろう、セコセコ動いている。

「あぁ、なんてわかりやすい…」

「気づかなかった俺らも俺らだけどな。帰ろうぜ秋雲」

「おう…」

 ほぼドッキリのような事態に遭遇した二人は、心を落ち着けてからブースを後にしてホテルへと戻っていく。

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