秋雲が「手伝いのお礼に夕食おごるけど今日使いすぎたのでマック」と言い出したので、結局それぞれがお金を出してホテルのディナーブッフェを食している。しかし真実は提督が少し多めに出している。事前会計の際、レストランの前で提督に深々と頭を下げる秋雲。とてもきれいでかわいいコミケ参加のオタ女子を意図せずにかしづかせている提督は、若干冷ややかな視線と羨望のまなざしが入り混じったものをギャラリーから浴びせられた。
「おいひぃ…。いつもコミケ来てこんないい料理食べない」
「どこに金使ってんだよ」
「そりゃまー、今日ここでしか買えないものを一冊でも多く手に入れるためにはねぇ、惜しまないわけよ」
「まぁ口出しするとこじゃないからな。でもなくなっても貸さねぇからな」
「それは大丈夫、明日は売り上げが入るから。あ、入ったら今度こそおごってあげるよ?」
空いている手の親指と人差し指で輪っかを作っている秋雲。恐らく「金」を表現しているのだろう、いやらしいったらありゃしない。
「ほう、なるほど。じゃあここの支払いに〇が一つ増えるくらいまではいいってことかな?」
「う…」
「額面までは把握しちゃいないが、相当羽振りがよろしいようですね秋雲さん。巻雲からちょーっとお話は聞いているんだよ、イベントの後は秋雲が大体ご飯の面倒は見てくれるって」
「あー…」
先ほどまでの勢いはどこへやら、口にものを運ぶ手が止まる秋雲。
「まぁ冗談だ。それに明日は終わってからそんな暇ねぇと思うし。飛行機の時間に間に合わねぇよ」
「あ、そっか。実家帰るんだもんね」
「そ」
少しだけ寂しそうな顔をする秋雲。
「…ご両親にご挨拶にでも伺いましょうか?」
無言で秋雲の頭を軽くチョップする提督。
「冗談ですってばぁ」
「あ、そうだ秋雲よ」
「ん、なに?」
その話題を打ち切るかのように提督が別の話題を切り出す。
「あのさ、鎮守府のメンツでこのイベント、コミケだっけか。これに参加してるヤツって他にいるか?」
「え? それはいないと思うよ。まぁ風雲が私の手伝いに同行することがあるくらいで、だれか参加しているって話は聞いたことがないなぁ。どして?」
ほぼ即答で返してくる秋雲。その答えは間違ってはいないだろう、それである程度は納得する提督であったが、やはり気になる。恐らくは例の既視感の正体を探っているのだろう。
「いや、なんかさここに来てから見たことあるなーって人とすれ違うんだわ。顔は見れてないし声もかけてないからわっかんねーんだけど。あの後ろ姿誰かに…」
額に指を当てて悩むポーズ。
「ないと思うけどなー。さすがにこれだけの人数で三日間もあるから絶対はないけど、それでも鎮守府のメンバーだったら噂くらいは耳に入ってくると思うんだよね。提督の知り合いじゃない?」
「そうかなぁ、やっぱ。まぁ似ている人の一人や二人いてもおかしくないか、こんだけ人いるんだし」
「そうそう、でももしかしたらはあるかもねー。なんつったって戦艦さんいたくらいだからねぇ」
「だよなー、いたらいたで面白いけどなー」
あっはっはとそれを全否定するかのように二人で笑う。そして改めて食事を再開する二人。そんな二人から少し離れたレストランの隅、一人の女性が提督と秋雲に背を向けるように食事をしている。しかし今その手は止まっている、なんでかグラサンを掛けている。
「なんで…、なんで提督さんまでここにいるの? 秋雲さんがいるの知っていたからもしかしたらとは思っていたけど。そしてまさか同じホテル!? これはマズいです…」
冷や汗だらだら、とにかく悟られないようにと気配を殺すように心掛ける
「お待たせしました、ご注文のワインです」
「ありがとうございます! そこにおいといてください!」
スゲー小声だけど叫ぶようにお礼を言ってウェイターを遠ざけるその女性。サングラスをずらしながらちらりと後ろを見て二人を確認する。ワイングラスを片手にちびっと口に含みながら、何事もないことを神に願いさらに小さくなって食事を続ける。そして提督と秋雲が先にレストランから出ていくのを確認し、安心したのかウェイターに「ワインを、デキャンタで」と注文している。