こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その9

 翌日、朝もはよから起きだして準備をして早々にホテル出る提督と秋雲。荷物だけはイベントが終わるまで預かってもらえるため身軽なことが救いである。ホテルの外には一般参加者がこんな寒い中ただじっと開場するのを待っている。それを見た提督が「ハチ公より忠実かもしれん」と、その群衆に向けて言い放った一言が秋雲はやたらツボっている。

「ところで秋雲よ」

「ん、なにー?」

「今日の手伝いって、まさかオレだけってことはないよな?」

 昨日の仕事は秋雲と二人だけで行った。それなりに冊数もあり人気もありそうな予感がしている提督。まさか二人だけで回すのかと少々心配になっている。

「あぁ、大丈夫大丈夫。知人が何人か来てくれるから問題ないよ。みーんな女の子だけどね。あ、提督、手出しちゃダメだよ」

「しねぇよ。あ、それとだな」

「それと?」

「会場ではぜっっったいに『提督』って呼ぶなよ。お互い勤務先がばれる」

「あ、それは言われないとやるとこだった…。じゃあ何て呼べば?」

「好きにしろ」

「うーん、そうだなぁ…」

 頬に手をやり考えるポーズの秋雲、そして出した答えが。

「ゆーちゃんにする?」(第1話でしか出てこない提督の本名をご参照ください)

「その場で帰るからな」

「ああーん、うそうそ!」

 笑いながら泣きそうな顔を作り提督の腕にしがみつく秋雲。傍から見れば完全にカップルがイチャついているようにしか見えず、悲しく一人並んでいる男性陣からは殺意の波動を浴びせられている。

「しかしどうしよう、全然考えてなかったわー」

「きみでも何でもいいよ、とにかく提督って単語が出てこなけりゃそれでいい」

「んー、悩む…」

 真剣に悩んでいる秋雲。そこまで考えんでもと冷ややかな視線を送る提督。

「…ダーリン」

「沈めるぞ」

「艦娘が簡単に沈むと思って!? 甘いぞ提督」

 握りこぶしを振り上げて襲い掛かろうとする提督をひらりとかわす秋雲。今度は追いかけっこが始まる。さらにイチャつくカップル、数名は殺意を通り越し羨ましいのか悔しいのか涙を流している。

 

「おはようございまーす」

 キラキラした声が提督にかけられる。開場前で合流した秋雲のプライベートの知人ズが提督に対して眩しいほどの笑顔と共に挨拶をする。毎日のように若い娘(?)に囲まれている提督ではあるが、スレていない(?)純粋なまなざしに若干押されている。

「お、おはようございます」

「今年はふーちゃんいないんだね」

「うん、風邪ひいちゃってねー(風雲のプライドのためにおたふくとは言えねぇよ)」

「そっかぁ。で、この背の高いコミケに似合わないイケてる方は?」

「あぁ、この人は…、あーさん」

「あーさん?」

「ネトゲのオフで知り合った人で、コミケに来るっていうからふーちゃんの代わりにお手伝いお願いしたら、快く引き受けてくれたとてーもいい人です」

「そうだったんですね。じゃあ今日はよろしくお願いしまーす」

「はい、こちらこそー(棒)」

 目がくらみそうな眩しい笑顔、とてもつらい提督。お手伝い三人娘と合流した提督と秋雲、再び会場へと歩き出す。

「おい」

 三人娘と並んで歩こうとしていた秋雲の肩をつかんで引き寄せる提督。

「ん、なに?」

「あーさんってなんだよ?」

「提督⇒アドミラール⇒あーさん、いい呼び方が思いつかなかったんよ…」

「いいのか、本名じゃなくて?」

「いいのいいの、ここで本名名乗る人なんてまずいないから」

「ならいいが…。で、ふーちゃんってもしかして」

「うん、風雲」

「そうか…」

 今度鎮守府に戻ったら風雲にふーちゃんと呼び掛けてやろうと誓う提督。そして今日は『提督』と呼ばれないだけまだいいだろうと、取り敢えず今日一日は「あーさん」で呼ばれることを了承する提督。

「あぁ、ちなみに彼女たちレイヤーだからね」

「レイヤー?」

「あぁそうか、わからないよね」

 また知らない言葉が出てくる。ここに来てからというもの理解が追い付かないケースが多々ある。その言葉の意味もいずれわかることになるのだが、それはまた衝撃的なものを目にすることになる提督であった。

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