週末、午前8時。
「じゃあ提督さん、準備はいいですか?」
「はい、もういつでも」
羽黒と霧島に曳航された大発に乗り込んでいる提督。同行者としては先日同席していた霧島他数名の艦娘が海上で待機している。
「ちなみに、どの程度のお時間かかるのでしょうか?」
「そうですね、最速で行けば1時間といったところですけど。さすがに提督曳航していきますからもうちょっとかかると思います。ゆっくり行きますから2時間見てください」
「じゃあそろそろ出発しますね。提督は中でごゆっくりなさっててください」
羽黒に促されて大発の中へと引っ込む提督。この日のために作られた明石特注全天候型大発(屋根がついただけ)、中にはほぼ提督の居住スペースはなく「お土産」と称する深海勢への荷物がごまんと搭載されていた。
「お、重くない?」
窓から顔を出し羽黒と霧島に問いかける。
「何言ってるんですか、これくらい戦闘艤装の半分もありません」
「そうですよ。私たち生物学的には人間の女の子と同じですけど、魂だけは軍艦ですから。これっぽちもつらくありません」
割りと根性論なんだなということを理解して再度引っ込む。
「では、進発します!」
霧島の掛け声とともに船が動き出す。しかし話が違う、先日の漁船より確実に速い。
「ちょ!!!!!!!」
同時に思い切り室内の後ろに叩きつけられる提督。お土産の山の中に突っ込みほぼ身動きが出来ない状態。「3倍はある」そんなことを考えるとある人物が脳裏をよぎる。崩れた荷物の中、何とか身を起こす。すると頭の上になにかハラリと落ちてくるものがある。崩れた荷物の中身だろうか、何か確認することもなくそれを払いのける提督。どのみちハンカチか何かの類であろう、そう考えていた。
…1時間後(2時間とかウソじゃねーか)
海の上で多少は鍛えられているはずの提督ではあったが、余りにアクロバティックな操舵のため、右に左に上に下にと振り回された大発。船酔いと呼んでいいか微妙ではあるが、船尾から海面に顔を出してグッタリしている。
「見えてきましたよー」
「お、おぅ…」
こみあげてくるものを我慢して船首側の扉から顔を出す。視線の先には小さめの島がいくつか群島として存在している。
「あそこ全部深海勢の島なの?」
「全部かどうかはわかりませんけど、あの一番大きい島にこの海域の方は住んでます」
「へぇ」
「多分そろそろ…あ、古鬼ちゃんだ。おーい!」
羽黒が水平線の先に見える誰かに手を振る。徐々に近づいてきて提督にもそれが人であることを認識できる距離まできて、それが深海棲艦であることを理解する。
「本当に和解してるんだ」
終戦は別の場所で知った。一度も深海棲艦というものを見ることなく彼はこの戦乱を軍属として過ごした。それが幸か不幸かはわからない、ただ今視線の先にいるのが、幾分か昔に砲火を交えていた相手なのだということは、にわかに信じられなかった。
「あの娘がこの前話した駆逐古鬼ちゃんです、かわいいですよね」
和装の小柄な娘、肌の色こそ人間と異なるのですぐにわかるが、それ以外何も人間と違うところは見られない。ますます不思議になる。
「不思議だな…、ってうお!」
提督の乗る大発の横に海の中から魚とは呼べない、大型の生物が顔を出す。
「あ、イ級ちゃん達だ、こんにちわー」
同行している駆逐艦たちがはしゃぎだす。まるでイルカのようにピョンピョンと海面を飛び跳ねるその生物、「イルカ?」とつい口をついて出てしまう。
「こっちこっち」という感じに島に立っている娘が手招きをする。和解するまではなかった桟橋に羽黒達が大発を横付けする。最後まで割と荒っぽく、激突スレスレでやっと動きが止まる。
「お疲れさまでした、さぁどうぞ。お荷物降ろすのちょっと手伝ってくださいね」
室内の荷物を手に桟橋に上がる提督。そして陸との境目あたりに差し掛かると目の前に「駆逐古鬼」と呼ばれる深海棲艦が立ちふさがる。
「ど、どうも。椴法華鎮守府の新しい提督でっす」
「…」
「…こんにちわー」
「…」
黙って提督の顔を見上げている。物珍しそうにただジーっと眺めている。
「あ、あの…」
「…ヨウコソ、トイトコロオツカレサマデス」
そういうと深々と頭を下げて歓迎される。
「よかった、提督気に入られたみたいですね。ダメな人はダメなんですよ。古鬼ちゃんて人見知り激しいから」
後ろから荷物を抱えた羽黒が嬉しそうに話す。
「そうなんだ。よろしく、お邪魔します」
「ドウゾ、ニモツオアズカリシマス」
「いいの? 重いよ、気を付けてね」
そういって両手に抱えた荷物を古鬼に渡す。すると片手でひょいと持ち上げ、後ろからくる羽黒の荷物ももう片方の手で受け取り、大き目の箱を二つ軽々と持ち戻っていく。
「提督、艦娘とか深海さんのパワー舐めたらダメですよ?」
「失礼しました」