こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その11

「あー、疲れた」

 どっかりと椅子に腰を下ろす提督。一緒にブースのメンバーも腰を下ろす。『完売しました』の看板が掲げられているブースの机。開場からものの2時間ほどで持ってきた全ての本は捌け売り物は底をつく。こうなってはもうすることもなくなり、ブースは撤収を残すのみである。しかし秋雲にはファンが訪ねてきたり別ブースの知り合いの作家を訪ねたりと、まだ落ち着かない様子。

「あぁ皆さん。ブースには私が残ってますので、休憩してきてもらっていいですよ」

 提督がお手伝い三人に声を掛け促す。すると三人は嬉々として席を立ちどこかへと消えていく。残った提督はブースのお守りと秋雲が持ってきた昼食のおにぎりを物色し封を開け、昼食にありつく。

「スマナイ、オソクナッタ」

「はい、いらっしゃ…。あぁお前か」

 昨日会った戦艦棲姫であった。

「コレヲ、キノウノオカエシニ」

 そういって差し出してきたのは、これも昨日聞いていた彼女の写真集だった。

「あぁ悪いなわざわざ。秋雲今ちょっと出払っててな、代わりに受け取るよ、ありがとう」

「フム、ソウカ。マァウチモヤットオチツイタノデコウシテシリアイノトコロヲマワレルガ」

「知り合いそんなにいるの?」

「ソレナリニナ。ギョウカイカンケイシャモケッコウキテイルノデナ」

「ふーん…」

 そう答えながら受け取った写真集をぺらぺらとめくる。かなり立派な装丁をしており普通に書店に並んでもおかしくなさそうな作りとページ数。表紙には威厳たっぷりの目の前の戦艦棲姫の、これもコスプレなのだろうか、いつもと違う格好をした彼女の写真で飾られている。

「…けっこう色んなことやってるんだなお前」

「ナァニ、シゴトノイッカンダ。ソレニミラレルノハキライジャナイ」

「そういうもんですか…」

 ここでまじまじと見るのも何なのでさらさらとめくっていく提督。すると後ろへ飛んでいくページに一瞬気になるものが目に入り、ページを慌てて戻す。

「…これって、陸奥?」

「アァ、ゲストサンカシテモラッタ。ヨロコンデヤッテクレタヨ」

「えぇ…」

 どこかで見た顔、そうスーパーモデル陸奥だった。ノリノリで何かよくわからない衣装に身を包んだ陸奥が、戦艦棲姫とちょっとエロい絡み方をしている写真が数ページにわたって掲載されている。また水着ともレオタードともわからない衣装もあり、けっこう際どいのも載っている。

「あの、戦艦さん」

「ナンダ?」

「これもう一冊もらえる? お金払うから」

「カマワンゾ、ウリキレテシマッタガヒトニワタスタメノヨビガアッタハズダ。ジャアチョットマッテイロ、モッテクル」

「サーセン」

 そういってブースへと戻っていく戦艦棲姫。手に持っていた写真集はそっ閉じして秋雲のカバンへと放り込む。

「深海勢の金って、こういうところから出てるんだな…」

 後から聞いた話だが、戦艦棲姫の写真集はそりゃもう飛ぶように売れたらしい。それを聞いた提督はちょっと本気で艦娘本でも出して予算の足しにしようかと考えたくらいである。鎮守府の提督室の本棚の誰もいじらないであろう場所に、戦艦棲姫からもらった写真集がこっそり並んでいるのは誰も知らない。

 

「お待たせー。ごめんよブース任せちゃって」

「することもないしな、お茶飲んで待ってるだけだったし」

 秋雲が一通りのあいさつ回りを終えてブースに戻ってくる。そして「休憩どぞ」と提案があったので、お言葉に甘えて提督もブースを離れ会場内を見て回ることにした。

「買うものなんてねぇけど、そうだな…」

 お目当ては何もない、しかしちょっとだけここに来てから興味の湧いたものを見るためにある場所へと向かう。

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