午後3時過ぎ、鎮守府グラウンド
「私の国ではそんなに流行ってないなぁ。面白いのかな?」
「欧州だとそんなに力を入れている国は無いわね。オランダとイタリアくらいかしら」
「サッカーのほうが面白そう」
グラウンド横のベンチで一仕事終えたゴトランドと、そもそも仕事をしていないリシュリューが並んで腰を下ろし野球の練習試合を観戦している。それぞれの横には一部艦娘(主に欧米組)の強い要望で出店させた移動式のコーヒーショップのカップとベーグルがある。二人の座るベンチの少し後ろ、鎮守府の敷地内で今も絶賛営業中。
カッキン
「おっと」
ファールボールが二人めがけて飛んでくる。しかしそこは艦娘、流石の反射神経でゴトランドが素手でそのボールをキャッチする。
「すまんすまん、大丈夫か?」
打った長門が駆け寄ってきて声を掛ける。
「うん、平気だよ。はい」
キャッチしたボールを長門に渡すゴトランド。受け取った長門が暫くゴトランドを見つめている。
「なぁ、ゴトランドよ」
「止めておきなさい、ゴト」
ゴトランドに何か提案しようとする長門だったが、まだ本題も出ていないにも関わらずリシュリューが止める。その後何が続くかわかってしまったようで、先にゴトランドにくぎを刺す。
「なぜわかった!?」
驚く長門。
「わかるわよ。あなたが声をかけるってことはもうそれしかないでしょう。私が身を持って体験してるんだから」
「おぉ。そういえば。何ならリシュリューも参加しないか?」
何のことはない、野球へのお誘いだった。以前大会にまで駆り出されているリシュリューにとっては想像に難くないことだった。
「結構。手にマメができてロクなことがないんだから。日にも焼けてしまうし、やらないわ」
「はっはっは。まぁ次の大会には頼んだ。してゴトはどうする?」
気にしていない長門。再びゴトランドに声を掛ける。
「んー、わたしやったことないよ?」
「気にするな、誰も最初は初心者だ」
「何するの? 私ルールも知らないよ?」
「大丈夫、バットをもってあそこに立てばいいだけだ。そして来た球めがけて振りぬく、それだけだ」
あまりにも雑な説明。
「んー、よし。じゃあ一回だけね」
長門に押し切られ、取り敢えず参加することを決意するゴトランド。ベンチから立ち上がりスカートのお尻をポンポンと払う。
「ゴト、あなた…」
眉をひそめるリシュリュー。
「よし、ならばこれを持て。代打、ゴトランド!」
打席の途中で代打とは、練習試合ならでは。バットの持ち方もおぼつかないゴトランドが長門からあれこれ講釈を受けながら、なんとかバッターボックスに入る。
「よし、ではゲーム再開!」
ネクストバッターズサークル辺りで声を出す長門。不格好なフォーム、とても球に当たるとは思えない。そしてゴトランドに対しての第一球が投じられる。素人とわかっているだろうに本気の一球が飛んでくる。
「…よっ」
カッキーーーン
フワリ翻るスカート、振り抜かれるバット、海の彼方へ飛んでいくボール。
「あ、当たっちゃった。やったぁ」
バットを持ったままバッターボックスでピョンピョン飛び跳ねるゴトランド。飛んでいった打球の方角をあんぐりと口を開けたまま見ている長門。
「当たるとスカッとするね。こういうとこはサッカーより面白いかも。あ、もう時間だ、仕事に戻らないと」
腕時計をチラと見て仕事に戻る時間であることを確認するゴトランド。バットを置いて小走りで鎮守府内へと戻っていく。
「しーごーとーゴトゴト~♪」
スキップしながら戻っていくゴトランド。我を取り戻した長門が追いかけはしないが戻っていくゴトランドを目で追う。
「……欲しい!!」
その後、ゴトランドに対する長門の粘着が酷くなったのは言うまでもない。