午後9時過ぎ
「終わんねぇ、なんでこの鎮守府こんなに始末書が多いんだよ…。いや、何となく理由はわかるけどさ」
目の前に山と積まれた書類一枚一枚に目を通し続ける提督の姿がそこにあった。事務仕事としての定時はすでに過ぎており、鎮守府内は静かになっている。「終わるわけない」そんな量の書類を一度放り投げ凝り固まった首と肩をぐるぐると回す提督。コキコキと音がする。そして掛け時計に目を向ける。
「あー…、もうこんな時間か。飯どうすっかな?」
すでに間宮は閉まっている。誰かにお願いしようにも、そんなもの作ってくれるわけもなく、夕食をどうするか悩み始める。
「車で外に…、めんどくせぇな」
「コンコン」
突然のノックにビクッとする提督。正確に表現するならそれはノックではない、口で言ったものだ。
「は、はい」
「提督、まだいるの?」
ゴトランドである。扉を少しだけ開けて中を覗き込むように室内の提督を見ている。廊下は暗くなっている、闇に浮かぶゴトランドの顔、ちょっとした恐怖体験を味わっている提督。
「あ、うん。仕事がまだね…」
「わ、大変。ねぇ、入っていい?」
「あ、どうぞどうぞ」
そういわれてやっと中に入ってくるゴトランド。すると手には何かを携えている。
「なにかあった?」
「えっとね、晩御飯ちょっと作りすぎちゃったから、提督どうかなって思って」
「え、マジで? 助かるよ、晩飯どうしようか悩んでたんだよね」
渡りに船、顔が明るくなる提督。その表情を見たゴトランドも一気に顔色が明るくなる。
「やったぁ。カレーなんだけど、いい?」
「おぉ、食べる食べる。ありがたいよ」
携えていたものは炊飯ジャーと鍋、米とルーだろうが確実に一人で食べる量ではない。それを見た提督、喜んではいたが一瞬だけ冷静になり頭の中で「確信犯か?」と疑う。しかし今は空腹が勝る。邪推は引っ込めてご相伴にあずかる。
「あぁ、ゴトは部屋で作れるんだもんな」
「そ。困ったら言ってね。いつでも作るから」
ゴトランドは宿舎に住んではおらず、自分で作った『ヒュッテ』に暮らしている。協調性が無いわけではないが、作っちまったもんは仕方がない。異例ではあるがそれは認められているのであった。
盛り付けをして提督にカレーを差し出す。
「召し上がれ」
「いただきます」
仕事のことなど忘れてカレーに食らいつく提督。勢いよくかきこむその姿を、ゴトランドは机の上で頬杖をついて嬉しそうにそれを見ている。
「この肉美味しいね。何?」
いつも自分が食べている食材とは少し触感違うものが混ざっている。ゴトランドに質問する。
「トナカイだよ」
「ふーん…、え?」
「ラップランドではよく食べるんだよ、美味しいでしょ?」
「う、うん。初めて食べた」
美味しいので問題は無いが一瞬焦る。文化が違うだけなのでいいのだが、いつか変なもの混ぜられやしないかと不安になる。ほら惚れ薬とか媚薬とか。
「ふう、ご馳走様。美味しかったよ」
「いいえ、お粗末様」
素直に美味しかった、助かった。ゴトランドにお礼を言う提督。嬉しそうに後片付けとこれまたしっかり持ってきたコーヒーを提督に差し出す。そこまでされて「あぁ、やっぱ確信犯だな」と確信する提督。まぁ今は良しとする。コーヒーをゆっくりと飲みながら、一枚でもと片手で書類を眺めているところに後片付けを終えたゴトランドが戻ってきて、横に椅子を出して座る。
「…」
「…」
ともに無言。しかしゴトランドにジーっとみられているため何か落ち着かない提督。左手のコーヒーカップを一度机に置く。するとそれとほぼ同じタイミングでゴトランドが頭を提督の体に預ける。そう『肩ズン』の体制である。
「!!!」
コーヒーを持っていたら確実にこぼしていたであろうくらいには驚く提督。
「ねぇ、提督…」
「は…い?」
さらに体を寄せてくる。
「お部屋に帰っても一人だよね? お布団も冷たいよね?」
「そ、そりゃまぁ…」
意味深な質問が飛んでくる。取りあえず答えるが不安でならない。
「うちに来ない? ベッド、あったかいよ?」
「ポォーーーーーーウ!!!」※提督の心の声です マイコーじゃありません
喜んでいいのだろう、普通の男なら。しかしここは正義の味方の鎮守府である。そんなチョメチョメをしていい場所ではないが心が揺れる揺れまくる。ここまでされて断る、フる、据え膳を食わぬは男の恥ぞ。とうとう折れるか提督よ。
「ね?」
トドメと言わんばかりに上目遣いで訴えかけてくる。マジで堕ちる5秒前。ゴトランドの肩に腕を回そうとしたその瞬間だった。
「……にをしてるデーーーーーーーース!!!!!!!!!!!!」
バリーン!!
窓が割れる音と共に轟く叫び声。そして部屋の中にはせ参じたのは金剛だった。そう、金剛も提督を夜這いするべく宿舎から向かっていた途中、外から二人が肩を寄せ合っている画を見ちゃったもんだから、本来のルートをすっ飛ばして窓から飛び込んできたという寸法。鬼の形相で二人を見ている。そんな金剛、スケスケのキャミソールに下着という、漫画的に言えば「大事なところだけなぜか見えていない」という状態の格好をしている。
「あ…、金剛さん?」
提督は悪くないのだが、いや、悪くなるところだったが寸止めされた感じである。
「提督、このアバズレと何してるデスか?」
「いや…、夕食を持ってきてくれて。それを食べていたんだけどね」
「食べるのにそんなに近寄る必要、アリますカ?」
一歩前に出る金剛。
「ないね…」
「デスよね?」
また一歩。
「やーん、提督こわーい」
ゴトランドがギュッと提督の胸にしがみつく。
ブチッ
トドメにはなった。金剛がキレる。
「そこから離れるデス、この北欧アバズレ似非初期艦娘がー!!」
「やーん」
さらにしがみつくゴトランド。もうどうにでもなれという顔の提督。どこからともなく金剛改二丙の艤装が飛んできてキャミソール姿の金剛に装着される。そしてバシャッっという音と共にフルオープンになるハープーン発射口。
※特別編:戦後の改装をご参照ください
「〇ね」
「待て金剛! ここで撃ったらこっちに当たる前に天井に。そして高いから止めて!!」
そんな声は届かない。全弾発射されるハープーン、そして提督の言った通り全弾即座に天井に命中して大爆発を起こす。夜の鎮守府に轟く爆音。何事かと外に出てくる艦娘たち。
この話の結末は『金剛vsゴトランド 提督争奪三番勝負』にて!!
お終い