こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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特別編:戦後の改装
その1:終


4月22日 AM9:03

 

 明石の工廠内にて

 

「まぁ、特別予算が組まれるなら問題はないんだけど。どうして今更なんだ?」

「さぁ。それは私も聞きたいデス」

「んー…、本当に必要なのか? だって戦争終わってんじゃん? 新兵器なんて要る?」

「私に言われても困りマース。大本営がそう言ってきたならやるしかないじゃないデスか。まぁ私としては、新しい衣装がタダでもらえるならそれだけで嬉しいですけどネ」

「そうだよなぁ、それ用の資材も何もかも、もう届いちまってるしなぁ」

 提督が書類を見るために落としていた視線を真正面に向ける。するとそこには山と積まれた資材の数々、隣にいる金剛。いや、隣と言っては語弊がある。後ろからがっしと抱き着き提督の顔の横から自分の顔を覗かせ、たまに提督の耳たぶを甘噛みしたり首筋にガッツリキスマークを付けたりしながら同じようにその資材の山を眺めている。ちなみに鎮守府ではわりと日常茶飯事の光景のため、あまり大きなトラブルにはならない。一部艦娘から冷たい視線を送られるだけで済む。

「なんだって。改二…丙?」

「私の口癖みたいデース。狙ったんですかネ?」

「いや、さすがにないだろう」

「私としては持ちネタになるので歓迎ですけどネー」

「…。なになに、雷装追加と水上機の搭載に…、その他もろもろ装備が可能になる。なるほど、万能戦艦じゃないか」

「エクセ〇ヲンみたいデス」

「ごめん、元ネタわからない」

 今二人の目の前にある山は金剛に対する新しい改装用の資材である。すでに戦争が終わっているのはご承知の通りだが、なぜか「これでもか」と言わんばかりの最新鋭の兵器と改装用の資材が大本営から届いたのである。誰に向けてぶっ放すわけでもなく、恐らくほぼ「お飾り」になるであろう兵装。ほとんどの艦娘が兵装を外し身軽になって任についている現在、これほどまでのものがなぜ必要なのか、提督は甚だ疑問に感じている。金剛はあまり気にしていないらしく、今晩の提督とのアバンチュールをどうするかで頭の中がいっぱいである。

「なんか読めば読むほど過剰武装な気がしてならないんだが…まぁいいや、やるだけやるか。おーいあかしーゆうばりー妖精さーん」

 改装担当の明石ら工廠科のメンバーを呼ぶ提督。仕様書などなどを手渡しじゃあよろしくと、夜までかかるであろう仕事を押し付けて工廠を後にする。建物の出口辺りでまだ金剛がへばりついているので、強引にはがして明石の元へ置いてくる。

「あーん、テイトクー! 今晩は新しい衣装で抱いてもらいに行くからネー!」

「精神衛生上、職務上よろしくないのでそろそろやめてくれないか…」

 無数のキスマークがついた首筋を隠すように、ワイシャツの襟を立てて首元までボタンをしめる。取りあえず今晩の身の安全を確保するため、下三人のところへ行って金剛の拘束を依頼する提督。「いつも姉がすみません」と、とても平身低頭にそれを承諾する妹たち。これで安眠は約束された。

 

 …翌朝

 

コケコッコー!!

 

「提督、本当にすみません…」

「いや、自分も悪かった。考えてみたら新作バリバリ高性能の艤装が完成すること忘れてたオレの責任だ…」

 鎮守府の港、特大のクマをこしらえた提督が金剛姉妹下三人から謝罪を受けている。昨晩、新艤装完成即押しかけを試みた金剛を三人が総がかりで取り押さえようとしたが、新しく完成した艤装の性能はすこぶるよく難なくそれを突破。一目散に提督が寝泊まりする離れへと突撃。「この服に手をかけ脱がせていいのは提督だけデース!」と、寝込みを襲われ一晩逃げ回ることになったのである。

「お身体のほうは?」

「ギリ無事だったからいいよ、ギリ」

 下は脱がされたが最後の貞操は守り抜いた提督。心は揺れたが正気が勝った。

「さ、新艤装のお披露目といこうか」

 ポンと手を叩く提督。そしてギャラリーが見守る中奥から金剛が真新しい衣装と艤装に身を包み現れる。

「おぉ」

 感嘆の声が上がる。それもそうだろう、国内艦としては初の改三相当の改装である。最新鋭の装備にアレンジの加わった真白な衣装。そして気になるのがちょっとだけ地面から浮いてホバー的にすいすいと移動している。昨晩は暗くて気づかなかったが、「このせいか」と昨晩の包囲網突破と自宅への侵入を容易く許した理由の一端を理解する提督。

「Hey、テイトクー。どうですカ?」

 提督の目の前で止まり身をくるりと一回転して一張羅を見せつける金剛。

「なんかすげぇな。色々わけわかんねぇもん付いてんな」

 まじまじとその艤装を見る提督とギャラリー。

「これなんだ?」

 小さめの突起物を見つけて金剛に問いかける提督。

「あぁ、それはファランクスですね。自動的に対空防御してくれマス。ほら、こんなふうに」

 説明と同時に近くにいた蚊と思しき飛行物体に対してそのファランクスが火を噴く。一瞬にして撃ち落されるというかチリになる虫。驚きの声を上げる一同、提督は抜き。

「…何に使うの?」

「これで蚊取り線香要らないですネ。夏の安眠が約束されマース!」

「…で、こっちは?」

「ハープーンデス」

「は?」

「ダグラス社製なので信頼性はバツグンでス」

 親指をびしっと立てて応える金剛に一抹の不安を覚える。

「あ、あれ? 主砲以外に単装砲も積んでるんだ?」

「こっちはオートメラーラ127mm速射砲ですネ」

「…」

「必要ない」その言葉だけが頭の中をめぐっている。これほどまでの過剰装備、このクッソ平和な海で何に使うのか、頭をフル回転させても理解できないでいる提督。

「他にもネ提督、航続距離もめっちゃ伸びたから、これで南の島までバカンスに行きまショー!」

 提督の手を握り「いざ出港」と言わんばかりのキラキラした瞳で見つめてくる金剛。軍艦がプライベートで領海を出るなんてあっちゃならないと、規模の大きい心配をする。

「ウニ泥棒だー!」

 どこからともなく叫び声が聞こえてくる。その声に皆が反応し海の向こうを見ると、1隻の漁船が警備艇から逃げている。

「こりゃいけねぇ。誰か、捕まえるの手伝ってあげなさい」

 提督がその光景を見て指示を出す。しかし誰一人艤装を付けておらず海に繰り出すことができない。

「チッ、せっかくの提督との時間をジャマされるなんて…」

 舌打ちして顔が険しくなる金剛。そう、金剛だけは艤装バリバリである。それを見た提督は「行ってくれるのか」と期待したが、金剛はその場から動かない。

「フンイキぶち壊した罰デース!!」

 叫び声とともにハープーンの発射口が全開になり轟音と共に数発のミサイルが漁船めがけて飛んでいく。モノの数十秒後、撃ち出された数発のミサイル全弾が漁船に命中、海面からは火柱が上がり跡形もなく消し飛ぶ。きっといい感じにウニも焼けていることだろう。

「天罰デス」

 ドヤァと鼻息荒く胸を張る金剛とは対照的にその光景を呆然と見守る提督。艦娘たちはやんややんやとはやし立てている。

「あの、提督」

 ツンツンと肩をつつかれる提督。振り向くと明石がそこにいる。

「な、なんだ?」

「あのー、あのミサイル一発の値段知ってます?」

「え? い、いやわからんが…」

「仕様書の最後のほうに書いてあったんですけど、コレ」

 昨日渡した仕様書を明石から見せられる。そしてそこに書かれていたのはハープーン一発のお値段であった。

「たっか」

 人間本気で驚くと口数は減る。余りの費用の高さに絶句する提督。全弾ぶっ放したため初期搭載分は空になる。そこからの補充は当然鎮守府の予算から組まれることになるのだが、こんなもの毎日のように撃たれたら鎮守府全体が白湯で暮らさなくてはいけなくなる。その後すぐにハープーンの発射口には『使用禁止』の札が貼られた。

 

「私、もうヴィッカース製じゃなくて三菱製になっちゃいましたネ…。英国かぶれキャラももう捨てようかな?」

 

 

 金剛改二丙おめでとう。

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