こちら、椴法華鎮守府日常譚   作:汐ノ爾

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その4:終

 出港してからものの1時間、艦娘は各方面に展開して提督の船の周りには1部隊分の4名だけが残っている。穏やかな海、心地いい揺れで眠くなってくる提督。そんな時、大艇ちゃんからの通信が秋津洲に入る。

「姉さんいたぜ。姉さんの船から北北西に20キロくらいの位置だ」

「へいほふー、みふかったっへ」

「え、もう?」

「ふん」

 口にたい焼きを頬張ったまま報告する秋津洲。

「後ついでといっちゃなんだが、近くに密漁船っぽいのも何隻かいるから気を付けな。オーバー」

「わかったかも、ありがとうたいていちゃん。だって提督」

「ありゃ。こりゃまた本業のほうも見つかったか」

 スピーカーホンで聞こえていた提督。至急全艦娘に打電というかLINEをして該当海域へと向かわせる。打電より正確だし地図情報を添付できるということもあり、最近の業務はもっぱらコレ。それを見た艦娘から「ウィーっす」など適当な返事が戻ってくる。全員分既読が付かないあたりが妙にリアル。

「あ、そういえば例の生き物、大きさどのくらいかは聞いてなかったなぁ」

 ふと思い出す提督。考えてみれば昨日の報告の際大きさについて触れているものは一人もいない。まさかクジラほどではあるまい、ちょっと心配になりつつ該当海域へと船を向ける。

 艦娘たちが先行して該当海域へ向かう。後から追う提督が到着した時、そこでは密漁船が艦娘に抵抗して逃げる光景が広がっていた。

「あっ、こりゃやべぇな」

 煙幕などでちょっとした抵抗を受けている艦娘。艤装は身に付けているが実弾を装填はしていない。漁場荒らしは確実にこの集団の仕業だろう提督は確信する。近づいて巻き込まれるわけにもいかない提督は、遠巻きに艦娘に指示を出す。

「みんな、拿捕の仕方は任せるけど決してケガするんじゃないぞ。そして一応むこうさんにもケガさせないようにね…」

「サー、イエッサー!」

 戦闘モードの艦娘はやたら軍人口調になる。提督の指示に対してとても気丈に大きな声で返事をする。

「いつもこれくらい素直に言う事聞いてくれると嬉しいんだけどなぁ」

 煙が充満しているためよくわからないが、4~5隻からなる密漁船団。小型の足の速い船が艦娘をかく乱し、大きな船が獲物を抱えているようだ。

「邪魔くさいな、もー!」

 最上が、なかなか捕まえられない船にいら立っている。こうなることを予見していたのだろうか、敵の船の足が速い。艦娘が全力なら追いつけないわけはないのだが、各種邪魔のせいでてこずっている。しかしそこは本業の艦娘、徐々に追い詰めて一隻また一隻と小型艇を拿捕していく。そして残るは大型の船一隻。しかし小型艇にてこずっている間にそこそこ距離をとられてしまう。

「待てーコラー!」

 追いかける艦娘。しかし割と遠洋まで来てしまったため燃料が不安になってくる。一部艦娘は足を止めている。

「マズいな、逃がすと面倒だ」

 船から身を乗り出す提督。残りの艦娘で何とか捕えてくれ、そう願っていた次の瞬間だった。

 

ドッパァーーーーーン!!!

 

「何事か」最後の一隻が何かにつきあげられるように海面から浮かび上がる。

「え!? 何、クジラ??」

 驚く提督他艦娘一同。浮かび上がる船の下、海面からはあの探していた謎の生物が、見事なアッパーカットの格好で水面から高々と浮上しているところであった。「アイツがやった」全員同時に理解する。

「え?????????????」

 着水に失敗して横転、船底を上にひっくり返った状態になる密漁船。そして謎の生物はひらりと身をひるがえし、頭から水しぶき一つ立てることなく綺麗に水面に吸い込まれる。

「じゅってーん」

 誰かが点数を付ける。それどころじゃないのに。

「あ、あれって…」

 まさかの遭遇に頭が整理できない提督。それをボーゼンとみている艦娘一同。そして一度吸い込まれた海面からニョキっと顔を出す謎の生物。大きさは大体戦艦姫の16インチさんと同じくらいだった。

「…ク…ウソ」

 何か口が動いたように見えた。しかし距離があるため聞き取れない。しばらく双方の見つめ合いが続く。そしてしばらくの沈黙の後、その生物は振り返りゆっくりとこの海域を去っていく。

「あ、待てっ!」

 声を上げて引き留めようとする提督。しかしその声は届かない、通じないのかもしれないが動きを止めることなくゆっくりとゆっくりと。

「やっぱりそうだったんだね」

「え?」

 提督のボートの横には鈴谷が立っている。今回の警備メンバーではないはずの彼女がなぜここにいるのだろう。

「鈴谷、なにしにきたの? 普通なら頼んでも仕事してくれないのに」

「アレはね提督、この辺りの海の守り神なのさ」

「はい?」

 鈴谷の口から驚きの真実が告げられる。

「私の故郷に伝わる話なんだけどね。海の平和を荒らすものがいると、アレが怒って成敗しに来る。海はみんなのもの、平等であれ。決して独り占めしちゃならない。もしそんなことをしたら神様が怒っちゃうぞって、樺太のおばあちゃんから聞いたんだ」

「あぁ、鈴谷この辺り地元だもんね…。で、アイツ名前とかあるの?」

 恐る恐る最後の真実を聞く提督。

「ボクカワウソ」

「ボ…はい?」

「ボクカワウソっていうの」

「ボク…カワウソ?」

「違う、ボク↓カワウソ」

 マジ顔で発音を訂正される。

「ボク↓カワウソ?」

「よろしい」

 

 捕らえた密漁船は拿捕曳航。回収した魚は漁協の皆さんの元へお返しする。一部はリリース、一部は鎮守府へのお土産。事件は解決ドンと晴れ。

「海って不思議だよねー」

 一人海を見つめながら提督が呟く。

 

 お終い

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