その1
「イヤです!!!!!!!!!!」
艦娘の宿舎の廊下に声が響き渡る。と同時にバタンと扉が閉まる音が続いて響く。その扉の前には加賀と提督が立ち尽くしている。
「困ったな…」
「申し訳ありません提督。まさかこうなるとは私も思っていませんでした」
わかりやすく弱った顔をしている二人。部屋に飛び込んでいったのは赤城、とあることを提督から告げられてその内容がショックだったのか、話していた談話室から一目散に自室へ走っていき現在このようになっている。
「何が気に入らないんだろう、おめでたいことなのに…」
「そうですよね。ついにこの日が来た、気分が高揚しないわけはないのですが…」
二人の会話からすると、それは赤城にとって悪いことではなくむしろ素晴らしいこと。それを聞いた途端にこうなってしまったのはまったくもって理解不能。顔を見合わせる二人、答えが見つからない。
「あの、赤城さん」
扉越しに加賀が赤城に話しかける。
「…」
「赤城さん?」
「…」
何度呼び掛けても返事はない。相当深刻なようである。
「私からではダメなのかしら…」
落ち込む加賀。それを見ていた提督が何かひらめく。
「加賀、どいてくれ。オレがやる」
「あ、提督…」
扉の前に仁王立ちになる提督。咳を一つ、そして言い放つ。
「…スイパラ行かないか?」
「行きます」
あっさりと天岩戸から出てくる赤城。
「ふふふ、かかったな赤城」
「は!しまった。この近所にスイーツパラダイスは…、ない!!」
それが嘘であると気づく赤城。しかし時すでに遅し。とっさに加賀が赤城の部屋の扉の前に立ちふさがる。二度と部屋の中に逃げ込まれないための措置であろう。
「謀りましたね提督…」
「ふふ、後が怖いからスタミナ太郎には連れて行ってやるが、さて…、一体どうしたんだ。理由を話してくれないか?」
本題を切り出す提督。なぜあそこまで頑なに抵抗したのか、その理由を聞くために引きずり出したのだ。それがわからないことには仕事にならない、というよりは赤城のためにならない。真剣な表情で赤城に尋ねる。
「それは…」
「それは?」
「それは……」
「赤城さん」
加賀も後ろから声を掛ける。唯一無二の一航戦の相方、心配で仕方がない。
「だって! 改二になってもし私の燃費が良くなってしまったら、今みたいに食べられないじゃないですか!!! 私のアイデンティティが消えてしまったらどうするんですか!?」
「は?」
「え?」
再度廊下に響き渡る赤城の叫び。何のことはない、食に関する悩みだった。先ほど大本営から提督宛に通達が来た。そこに書かれていたのは「また作っちゃったから使ってね」と、緊張感のかけらもない文面での『赤城改二』の実装連絡であった。実際の整備投入は来週であるが、そのことを赤城に伝えたところ、先ほどのようになってしまった。簡単に説明するとそんなところである。
「あのさ、まだ燃費が良くなるとかそういうことなんもわかってないんだけど…。それに燃費って艤装のことであって赤城さん自身には…」
「私にはわかるんです! 性能が良くなるってことは燃費が良くなる。それって結果食べられなくなるってことじゃないですか!」
「赤城さん、大体の艦は改二になっても燃費は良くなっていないわ。むしろ悪くなっているのよ? wikiかぜかましをよく読んで、ね?」
加賀が身も蓋もない説明をする。提督は聞いたことがない単語、不思議な顔で加賀を見つめる。
「加賀さんまでそんなことを。そんなに私が食べるのがみっともないですか? 信じていたのに、酷いです!!」
しかしその加賀の言葉さえ届かない赤城。加賀を押しのけて再び部屋に入って閉じこもる赤城。今度は何を言っても反応がない、かなりの重症である。
「こりゃまいったな…」
扉の前で頭を抱える提督。落ち込んでいる加賀がその横にいる。
「赤城さんに嫌われてしまった…、沈もう」
「やめなさい」
即止める提督。
「提督、何か赤城さんを説得できるいい方法はないでしょうか?」
「んー、今のところお手上げだな。でもないとは言い切れない」
「え?」
「策はある」そう言いたげな提督の言葉と表情。その表情に希望を見出す加賀。
「取りあえず今は引き揚げよう。時間と、それと何かが解決してくれるかもしれない」
「…はい」
そういって二人は赤城の部屋の前から去っていく。去り際に加賀が一言扉の向こうにいるであろう赤城に対して「ごめんなさい。でもどうなっても赤城さんは赤城さんよ」と、長年連れ添った二人にしかわからないであろう、信頼がこもった言葉を残していく。
「…」
扉の向こうからは何も聞こえない。二人の立ち去った部屋の前には静寂が戻る。5分後、なにかをすする音が響く。
「…赤いたぬきも悪くないですね」
新作を食っていた。